第10話 ダンジョン探検
恐々入ったダンジョンだったけど、案外洞窟内は明るかった。
時折冒険者が来るのか、壁や天井に灯りの魔石が付いている。
「他にも誰か入ってたりするのかな?」
『人間の気配が微かにあります。1人と思われますが』
1人でダンジョンに入るなんて、すごい冒険者なんだろうか。
俺もレベルが高くなると平気になるのかな。
カンテラを早々にアイテムボックスに仕舞い込み、とりあえず買っておいた銅の片手剣を装備した。
いかにも冒険初心者って感じだけど、無いよりはマシでしょ。
これで攻撃するのも怖いな〜、血とかブシャーって浴びるとかヤダな〜、攻撃するより魔法の方が遠くから攻撃出来て便利かなぁなどと考えながらゆっくり進む。
『アサヒ様、前方に敵です』
「ひぇっ⁈」
見ると前からデカいウサギが突っ込んで来る。
咄嗟によけたがすぐにこちらに戻って来ようとしている。
「どっ、どうしよう翡翠!」
『剣を前方に突き出してください』
激しく焦る俺とは逆に落ち着いた翡翠の言う通りに剣をグイッと前方に突き出した。
その直後に飛びかかってきたデカウサギが剣にグッサリと突き刺さってしまった。
「はわわ〜ごめんよ〜」
血がブッシャーと飛び散るんじゃないかと思っていたら、そのデカウサギはサラサラと消えてしまった。
「き、消えた…」
『ダンジョンで倒した魔物は消滅してまたダンジョンの何処かで出現するのです』
「死んでないの?」
『死ぬというよりは自分を倒した相手に経験値を奪われると言った方がわかりやすいでしょうか』
「ん?」
倒した相手に経験値を奪われる?
「じゃあ、俺がここで魔物にやられて死んじゃったらどうなるんだ?」
『倒した魔物に経験値を奪われて、このダンジョンに囚われ永遠にダンジョン内で倒し倒される魔物になるかと』
何それ⁈
「嫌だー!それならまだ外で魔物を相手する方がマシじゃん!もう早く出ようよ!」
そんなヤバいなんて聞いてない!
一刻も早く出たくなった。
『大丈夫ですよアサヒ様、黙っておりましたが吾輩が結界を巡らせております』
「えっ?結界ってバリア的なやつ?」
俺の知らない間にそんな事までしてくれてたんだ。
ホッとして肩の力が抜ける。
「そうだったんだ、ありがと…かなり安心したよ」
『自信がつけばと思って黙っていたのですが』
俺がこの世界でなんとか自立するには、何はともあれレベルアップが最優先だもんな、ここは頑張るしかないか!
ヘタレなままでは異世界で生きていけないんだ。
「翡翠のおかげで勇気が出たよ、俺も出来るだけ頑張るよ」
『さすがはアサヒ様です』
「翡翠〜」
翡翠に抱きつく俺。
優しくフォローしてくれる従魔でホント感謝しかない。
一人きりだったらきっとレベル上げすらしてないだろう。
下層階に進むにつれて魔物の種類や数も増えてきたけど、翡翠のおかげもあってなんとか魔物を倒して行った。
『アサヒ様そろそろ最後のフロアのようですので、ステータスを見ておいた方が良いと思いますぞ』
「そうなんだ。翡翠のその探知スキル便利だよね、俺も欲しいなぁ」
『何をおっしゃいます!吾輩がいれば不要なスキルは勿体ないですぞ』
あちゃ〜また出たよ翡翠の勿体ない病が。
そうかもだけど、もうじきボスが近いとか分かるなんていいよな〜。
俺としては前もって分かると安心というのが大きい。
ないものねだりなのかな。
…とステータスはどうなったかな?
「レベルが2上がってる!やった!」
『やりましたねアサヒ様、やはりご自分で戦う方がレベルも上がりやすいですね』
翡翠は自分の事のように喜んでくれて、何やらソワソワしている。
もしかしてスキルを何選ぶか気になってるとか?
これまで翡翠に相談せずに決めてたし…今回は聞いてみるか。
「俺におススメのスキルってあるかな?」
翡翠の表情が(わかりにくいけど)パァッと嬉しそうになった。
『えっ、吾輩に聞いてくださるんですか⁈で、では攻撃力倍増スキルなどは選べますでしょうか』
攻撃力倍増スキル?
とりあえず探してみよう。
【現時点でギフトを3個所持しております。ギフト2個分で攻撃力倍増スキルを取得可能です】
ふーん、ギフト2個も使うって結構すごいスキルなのかな。
料理人スキルもそうだったけど、きっと便利なスキルに違いないな!
【攻撃力倍増スキルは現在の攻撃力をランダムで約2〜3倍に出来るスキルです】
「攻撃力が2〜3倍!すごいじゃん」
【マスターは大魔王の加護と強運が既に所持済みですので、ランダムといえどかなりの高確率で発動されると推察します】
「翡翠、そのスキルかなり良さそうだよ!ギフト2個分使うけど今の俺に向いてそう!」
『吾輩も欲しかったスキルのひとつなのです』
よし、この攻撃力倍増スキルにする!
【風間旭がギフト2個使用して攻撃力倍増スキルを獲得しました】
ふわっと周りが光って俺に新たなスキルが付与された。
なんだか楽しみだ。
「アドバイスありがとう、翡翠」
『いえいえ、羨ま…もとい、おめでとうございますアサヒ様』
やっぱスキルってそんなに貰えないものなんだ。
でも強い翡翠と違って弱い俺にはスキルがいくつあっても不安だからなぁ。
ホントは絶対防御とかバリアとか痛くなさそうなのもイイかなと思ってたのは翡翠には内緒だ。
気を取り直して最後のフロアに入る。
「そういえば俺たちより先に誰か入ってるはずなのに、誰とも会わなかったな…はっ!も、もしかして死んじゃったとか⁈」
『いえ…まだ死んではないようですが…これは…』
「何それ?まだってどういう事…」
翡翠に聞こうとしたら、ゴゴゴゴゴ…と地響きがした。
『アサヒ様、ダンジョンのボスです!』
暗い奧から出てきたのは見上げる程どデカい紫色のスライムだった。
俺には巨大な葡萄ゼリーがバランスボールのようにボヨンボヨンして見える。
しかもあのスライムは何やらガスを周囲に纏っている。
『あれはポイズンスライムです、アサヒ様』
「げっ、ポイズン⁈毒になるのは嫌だなぁ」
『アサヒ様には大魔王様の加護がありますので、状態異常にはなりませんよ』
あ、そうだった…でも出来れば当たりたくない。
よ〜し、どこ狙えばいいか分からないけど、コイツを倒せばダンジョンクリアだもんな。
「うぉりゃー!」
『えっ⁈アサヒ様⁈』
俺は剣を大きく振りかぶってポイズンスライムの巨体めがけて切りかかった…が、剣が手からすっぽ抜けてそのままポイズンスライムのど真ん中にブッ刺さった。
刺さった場所から閃光が走り、ポイズンスライムの巨体にデカい大穴が開いた。
「あれ?」
そしてそのままポイズンスライムは閃光が消えると共に崩れ去った。
『な、なんと!お見事ですアサヒ様!先ほどのスキルをもう使いこなされるとは!』
いや…切りかかるつもりだったんだけど、剣だけすっぽ抜けたとはカッコ悪くて言えなかった。
『無防備に切りかかって行かれたのも新しいスキルを試す為だったのですね』
無防備に見えてたの?
やっぱ俺って戦闘のセンスないのかもしれない。
「あはは…俺もびっくりしたよ〜ははは…」
ポイズンスライムが消えた後には宝箱と魔法陣が現れていた。
魔法陣はおそらくダンジョンクリアの出口なんだろう。
「おぉ!クリア報酬かな、初めてだ」
ワクワクしながら開けてみると、毒消しのポーション5個、毒効果の付いたダガー、毒無効化リングと銀貨6枚だった。
「ショボっ!」
アイテム自体もそんなにレアな物でもなさそうだし、思ったより少ないボス宝箱にがっかりだったが案外こんなものなのかもしれない。
ま、レベルも上がったし今の俺にはこのダンジョンくらいがちょうど良かったんだと思う事にした。
「じゃ、出口に向かおうか」
『アサヒ様、何者かの気配がございます』
ん?そういえば遠くから何か聞こえる…?
遠くっていうか地面から?
そうだった、ポイズンスライムを倒してすっかり忘れてた。
『この下から聞こえるようですね』
翡翠が示す場所を一緒に掘ってみると、分厚い鉄板が出てきた。
どうやら声の主はこの鉄板の下から聞こえてきている。
「大丈夫ですか〜」
穴の奥は真っ暗で何も見えない。
『ど、どなたかいるんですか⁈どうかお助けください!わたしはこの辺りを治めている領主でして、ここに囚われて数日経っているのです。召使いが助けを呼びに行ったまま戻って来ないので絶望しておったのです』
穴の下から返事が返ってきた。
こんな所に閉じ込められてたってことは、さっきのポイズンスライムの餌の予定だったのかな…。
「仕方ない助けてあげるか、翡翠手伝ってくれる?」
『承知しました、アサヒ様』
察しの良い翡翠は鉄板を難なく外して蜘蛛の糸を穴の下にスルスルと下げた。
「糸を下ろしたのでそれにしっかりつかまってくださーい」
俺も下に向かって声をかける。
「ありがとうございます!助けていただけましたら必ずお礼を致します」
別にお礼が欲しいから助けるんじゃないんだけど。
「引き上げますよ〜それっ!」
翡翠と目一杯引き上げると現れたのは一頭の大きな灰色クマだった。
左眼に傷があっていかにも強そうだ。
「うわっ、クマだ!」
俺は咄嗟に翡翠の後ろに隠れた。
しかしその灰色クマは襲ってくるでもなく、俺と翡翠に頭を下げた。
『助けてくださり感謝します。この穴は壁も毒で出来ていてどうやっても出られなかったのです。お二人のおかげでなんとか家族の元へ帰れます』
よく見たら毒の状態異常になってる。
「これ飲みなよ、さっきのボス宝箱から出てきたやつだし」
俺は恐る恐る毒消しのポーションを灰色クマに飲ませてやった。
『優しい人間よ、どうかお礼をさせてください』
「お礼なんて別にいらないよ、早く家族の所へ帰ってあげなよ」
『ではせめてお名前をお聞かせください』
「アサヒだよ、旅をしてるから住所もないし気にしないで」
『本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません』
灰色クマは何度も振り返りながらダンジョンを出て行った。
きっとただのクマじゃないんだろうなぁ。
さっきは自分が領主だとか言って助けてもらえるように騙したし、相当知恵があるのかも。
なんで人語が話せるのかとか元の世界でならツッコミどころが満載なんだけど…段々気にならなくなってる自分にも驚いている。
「さてと、俺たちも帰るか」
翡翠の方を見るとまだ同じ穴を覗いている。
「どしたの?まだ何かあんの?」
『まだいますね』
「えっ⁈」
『縦穴の途中何段かに分かれて出られないようになってるようです』
もしかして他にもたくさん捕まってるのかな。
『上にいるお方!ワシこそが本物の領主である!ワシを助けてくれたなら、家宝の金銀財宝を渡しても良い、だから頼む助けておくれ!』
またも穴の下から領主を名乗る声が…。
この声の主がさっきの声の主だったのか?
正直分からん。
「まぁ誰にせよ助けるか、翡翠」
『御意』
翡翠はもう一度糸を穴の下にスルスルと下げた。
灰色クマの時よりも深いようだ。
『おぉ!これぞ天の助け!感謝しますぞ!』
糸を見つけたようで掴んだ感触が伝わる。
「しっかりつかまってくださいね!それっ!」
やっとのことで引き上げたら、糸の先端には真っ白な大蛇が糸に絡みつくように現れた。
「あれ?また人間じゃなかったんだ」
『ワシは人間ではないが、この辺りを治める大蛇族の長なのじゃ。忌々しい人間を追って此処にハマってしまったのじゃ』
「人間を追って?」
『左様。この穴は四方八方が毒である故ワシでも這い登ることも叶わなかったのじゃ』
なんつう恐ろしい牢獄だろう。
壁や床が毒で、登ろうにも毒の状態異常になってしまうし、天井には分厚い鉄板だもんなぁ。
じわじわと毒で弱っていくしかないなんて、見かけよりおそるべしポイズンスライム!
「それより君も毒の状態異常になってるね。これ毒消しポーションだよ、どうぞ飲んで」
白大蛇は黙って俺とポーションをその金色の目で見比べていたが、尻尾でポーション瓶を受け取り自分で器用に開けて飲んでくれた。
『引き上げてもらった上に毒消しのポーションまでいただきかたじけない』
「きっと仲間も心配しているんじゃない?気をつけて帰ってね」
『命の恩人よ、どうかお名前を教えてくだされ』
「アサヒだよ、ホント気にしなくていいからね」
『誠にありがとうございました。部族を代表して必ずや恩返しをさせていただきます故』
そう言って白大蛇もダンジョンを出て行った。
「いや〜まさかまた人間じゃなかったとはね」
とにかく助けてあげれて良かった良かった。
…と思ったのも束の間、その穴からまたもや助けを求める声がしてきた。
『アサヒ様、あと一名生存しているようですがいかが致しますか?』
勿論助けるつもりだ。
このまま放って置いたら死ぬ事がわかってるなら尚更だ。
「乗りかかった船だ、助けよう」
『承知しました』
3度目の糸を翡翠が穴の下に降ろす。
「今糸を下ろしたので見つけたらしっかりつかまってくださ〜い」
「おぉ!やっとわたしにも助けが来たか!」
かなり深い場所にいたようで、下ろした糸も長く声も遠かった。
「しっかり結んだぞ、上げてくれ〜」
なんとか身体に糸を縛った状態で翡翠と一緒に引き上げた。
引き上げながらこんな童話があったなぁと思いだした。
3匹目は猿だったかな?
だが上がってきたのは40代くらいの身なりの良い人間のおじさんだった。
やっぱり昔話と同じはなかったか…勝手にガッカリする俺。
助けた2匹と同じく毒の状態異常でちょっとグッタリしている。
この人がこの辺りを治める本物の領主なのかな?
まぁ俺にはそんなの関係ないけど。
「やっと地上に戻れたわい、そこの者大義であったな」
なんとなく偉そうな感じだ。
ゼーゼーと疲れた息を吐くおじさんが顔を上げて俺たちを見た途端怪訝な顔をした。
「ま、魔物じゃないか⁈」
翡翠を見て驚いているようだ。
少し後ずさりして警戒している。
「あぁ、俺の従魔なので襲ったりもしないし安心してください」
この人は魔物を危険だと思ってるようだ。
「じゅ、従魔だと?お主は冒険者なのか?」
「えぇ、まぁそんなとこです」
「そうか…ところで見ての通りわたしは毒で動けないのだ。後で褒美をとらす故、わたしを屋敷まで運ばせてやるがどうだ?」
ムムッ⁈
なんか上から目線でイヤな感じ!
魔物でさえ先ずは感謝してくれていたのに。
『アサヒ様、吾輩が縛りあげましょうか?』
…翡翠がちょっと怒り気味の声で伝えてきた。
それもいいけど、こういうタイプは関わらない方がいいと俺は思ってる。
「大丈夫だよ、翡翠」
と返事をする。
「え〜と、俺たちも急いでいるので送る事は出来ませんがこの毒消しポーションを差し上げます。あとは自力でなんとかしてください」
おじさんにそう伝えて毒消しポーションを渡した。
「なんと、このわたしにそんな態度をとるなどなんたる無礼!」
無礼とか言いながら、自分はちゃっかり渡した毒消しポーション飲んでるんだけど…。
めっちゃ元気そうじゃん。
「わたしが声をかけただけでも皆が感謝するというのに…」
うわ〜面倒くさそうな人助けちゃったなぁ。
このまま魔法陣に入って逃げようかな…と考えていたら、入り口からガヤガヤと大人数が入って来た。
「あ!あちらに旦那様が!」
執事っぽい人とガタイの良い数名が駆け寄って来る。
「ようやく来おったか!遅いぞ!」
どうやらこのおじさんを助けに来たらしい。
「よくぞご無事で…こちらの方が助けてくださったのですか?」
執事が俺に気づいてくれた。
「旦那様を助けていただき誠にありがとうございました。ぜひ当屋敷にお越しくださいませ」
執事の方が人間が出来てるんだけど。
「あ〜いえ、せっかくですが急いでるので俺たちはこのまま魔法陣でこのダンジョンを出るつもりです」
屋敷にまで行ったら更にイヤな気分になりそうだし。
「で、ではせめてお礼を…」
そう言って執事は胸元から財布のような袋を取り出したが、領主のおじさんがその前に立ち塞がった。
「これ、そんな物は渡さずともよい!代わりにこれを持って行くがいい」
そうぞんざいに言い放って懐から何かを取り出し、俺に手渡した。
包まれた布を取ると白い蛇の像が現れた。
「最近手に入れた物だがそなたに此度の礼として譲ってやろう。白水晶で作られてるから売れば金になるであろう」
「旦那様、それは…!」
執事が何か言おうとしたが、「帰るぞ!」と命令されて有耶無耶になってしまった。
この像なんとなくヤバそうな感じがするなぁ。
しかもこの蛇の像…目が金色でさっき助けた白大蛇にそっくりだ。
その白大蛇は人間を追って此処に来たって言ってたよな。
これっていわゆるフラグ?
いかにも怪しい…。
執事だけがこちらにぺこりと会釈をしていたが、領主は使用人に囲まれながら何も言わず出て行った。
「いい厄介払いが出来たわい…」
と領主が小さく呟いていたことは誰も知らないのだった。
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読んでいただきありがとうございました
主人公のアサヒにはいわゆる剣豪の勇者ではなく、ちょっと頼りないくらいがいいかなと思っています。
ゆっくりではありますが、更新していきますのでよろしくお願いします
自分だったらこんな風に異世界を旅したいなぁなど妄想しながら楽しんでいます
感想やご指摘あればぜひともいただきたいです
励みになり一層頑張れます
応援くだされば幸いです
ではまた次回お会いしましょう




