第1話 怒れる大魔王様
『おのれ人間め、今度という今度は許さぬぞ』
ぐぬぬ…と顔に青筋をたてて怒っているのは魔物を統べる大魔王だ。
灰色の肉体に真紅の髪、その頭には銀色の2本の角を持つ魔界最強の王が居城を震わせるほどに怒っている。
周りに居並ぶ側近達もその怒れる姿におそれおののき縮み上がっている。
ここは魔獣皇国の王城内の謁見の広間だ。
『わたくしを人間討伐に行かせてください、大魔王様!』
巨体のミノタウロスが申し出る。
『我の得意なドラゴンブレスにて国諸共焼き尽くして見せましょうぞ!』
漆黒の鱗をきらめかせて黒竜も息巻いている。
我も我もと次々と声があがる中、『ですが、また勇者を召喚されては…』と進言する魔物がいた。
声の主は骸骨の姿に西洋風のローブをまとったスカルウィザードだ。
『ゆ、勇者か…』
勇者。
この名前に広間の全員がうめくように黙ってしまった。
そうなのだ、人間自体はまったくといって良いほど矮小で恐るるに足りぬ生物だ。
だが、少々知恵があり魔法が使える人間共は魔法陣を使い異世界から勇者なる者を召喚するのだ。
この召喚された勇者こそが、魔物にとっては天敵であり聖なる加護で魔物の瘴気や呪いなどを弾きかえし、かつデタラメに強いのだ。
300年ほど前にも人間との戦争があり、圧倒的に魔物皇国の勝利と思われていたが、勇者一人が現れた途端、滅亡寸前にまでうちのめされた過去があるのだ。
人間共に勇者という切り札がある限り、魔物側の脅威は拭えないのだ。
静まり返る中『クックックククッ…』と不敬にも笑いを堪える者がいる。
皆の視線の先にいたのは怒れる大魔王そのひとであった。
『だっ、大魔王様⁈』
誰もが勇者という絶望に気が触れたのかと思ったが、当の大魔王は更に声を上げて笑い出した。
『がーーっはっはっはっは、そうじゃそれじゃ!』
大魔王は立ち上がって魔法を唱え始めた。
『ここで何を始めるのですか⁈』
ミノタウロスはじめ臣下の魔物達もどよめいているなか、大魔王の足元に魔法陣が出現する。
『そっ、その魔法陣はもしや!』
大魔王はフフンと不敵に笑う。
『そうじゃ、わし自らが異世界から人間を召喚するのじゃ。ただし、善人の権化なる勇者などではなく人間にとって最悪で凶悪凶暴な人間を召喚するのじゃ。そしてその人間を放ち国の内部から弱らせてやるのじゃ』
『素晴らしいです大魔王様!』
『毒をもって毒を制すですな!』
広間中の魔物達から続々歓声が上がる。
大魔王は右手で魔法陣を出しつつ、左手で水鏡を出現させる。
水鏡の中には異世界の人間が映っている。
『ほぅ、此奴は相当凶暴じゃな。人間に対しても不満が溜まりまくっておる凶悪犯のようじゃ』
水鏡に映っている人間は凶悪犯罪を行なっている真っ最中だった。買い物客で賑わうショッピングモールで何の落ち度もない子供にサバイバルナイフで斬りかかろうとしていた。
『身の毛もよだつ極悪人じゃな!此奴にするぞ』
大魔王は水鏡の中にガバッと左腕を突っ込み、その凶悪犯の腕を掴んでこちら側へと引き込んだ。
引き込んだ人間を即刻魔法で眠らせ、魔法陣に横たわらせる。
そして臣下を呼んだ。
『アラクネよ、こちらに参れ!』
黒大蜘蛛のアラクネが大魔王の前に進み出る。
『お主はこの人間に仕え人間の国へ行き、この人間が行なう事を助力し見届けるのだ!』
『御意!!この命にかえましても!大魔王様!』
大魔王は魔法陣に人間とアラクネを入らせ呪文を唱える。
『この魔法陣は人間共の国境近くまで転移出来る。そこで目覚めたその者と存分に暴れてくるがいい』
「グアーっはっはっはっ!みておれ人間共よ。人間の召喚者がお前たちを血祭りにあげるのをな!」と高笑いする大魔王だったが、誰一人として召喚した凶悪犯の顔を見ていなかった。そう、大魔王本人でさえも。
読んでくださった方、ありがとうございます。
まだまだ未熟ですがぼちぼち頑張っていきたいと思ってます。
レビューも大事に読ませてもらってます。
とても励みになります、感謝感謝です。
誤字脱字もありがたいです。
これからもよろしくお願いします。