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第7話「何かが潜む遊園地」

ハクイは目の前の大きな遊園地らしき施設を見て唖然とした表情をしている。


「ついこの間ここを通ったときはまだキャベツ畑だったのに…」


「この間って?」


「1週間前です」


「1週間前!?」


―― カラパティシコ王国がまだできて3年だったり、この世界の建築技術どうなってんだ ――


「カラパティシコ王国の国のルールの1つとして『新たに建築を行いたい場合、国に申請書を出す。』というルールがあります。その出された申請書は王のもと、現在は王が体調を崩されているため私のもとに全て1度通されることとなっています。ですが遊園地を建てるなんて申請はありませんでした。…一旦中の人に話を聞いてみましょう」


「う、うん」


―― やっぱ遊園地なんだ…、外から見てもジェットコースターらしきものと観覧車らしきものが見えるし…、まじさっきの『この世界にもキャベツが存在した』という驚き豆粒ぐらいにどーでもよくなってます…。いやおかしいだろ!食べ物はあっても『へーあるんだー』ぐらいですぐ理解できるけど遊園地は流石に無理矢理でも理解できんわ!世界観ぶっ壊しマンすぎるだろ! ――


紅葉は困惑しつつも最終的には一旦無理矢理理解することを決意し遊園地の中に入ってゆくハクイの後を追った。


紅葉は遊園地の中に入り、辺りを見渡しながらハクイの後を追う。コーヒーカップにゴーカート、空中ブランコにメリーゴーランド、ジェットコースターも観覧車も、全てあっちの世界ほぼ同様のものだった。


―― まるであっちの世界に戻ったみたいだ…、あー頭ぐるぐるするー ――


「あ!ショルトさん!」


ハクイがメリーゴーランドの操作室の中にいる60代後半ぐらいでスキンヘッドのおじいさんのもとへ駆け寄っていく。


「あ、ハクイちゃん…」


ショルトは目にクマができていて、憔悴しきった様子だった。


「ショルトさんこの遊園地は一体…」


「ディープシーに脅されたんだ…、『この土地を譲れ、さもないとお前の家族を殺す』って妻を人質にして…」


「ディープシー…」


ハクイはディープシーという言葉を聞き拳を握る。


「『明日の朝もう一度来い』とディープシーに言われて土地を譲った次の日畑に行ってみたら、もう畑は跡形もなく無くなっていてそこには遊園地ができていたよ。そしてディープシーに『土地を譲ってくれてありがとなぁ、お礼にこの遊園地のたった1人の従業員にしてやるよ』と半ば強制的にたった1人の従業員にさせられて…、今にいたっているよ…」


―― 次の日にはできていた!?1週間以内の期間でできているということにさえ驚きだったのに、まさかその期間が1日もなかったなんて…、この世界では当たり前なのか? ――


「ハクイちゃんごめんね…、申請が無かったんだろう?ディープシーに遊園地を勝手に作らせさせてしまってほんとにごめんね…」


「なんでショルトさんが謝るんですか、ここはショルトさんが大事に育てたキャベツ畑だったのに…、ディープシーのやつら…」


紅葉の目に映るハクイの後ろ姿は、拳を握りしめながら震えていて、声も震えていて、紅葉がその後ろ姿から感じるものは紛れもないハクイの怒りの感情だった。

紅葉は震えるハクイの左肩に右手を置き、ショルトに質問した。


「ショルトさん初めまして、新しく城の使用人になったドク・ドクロです。その脅しに来たディープシーの名前聞いたりしましたか?」


「一緒に来ていた遊園地の建築を行ったであろう人たちに『アカグツさん』と呼ばれていた気がします」


―― アカグツ!?だったら… ――


「アカグツなら俺がもう完全気絶させました、だからこの遊園地を潰してもう一度キャベツ畑を…」


「ショルトおじさん!メリーゴーランドめちゃくちゃ楽しかったよ!」


メリーゴーランドから降りてきた子供の1人が紅葉の話をさえぎりショルトに話しかける。

その他のメリーゴーランドに乗っていた男女4人の子供たちも続々とショルトに話しかけてゆく。


「ショルトおじさん遊園地を作ってくれてほんとにありがとう!」


「僕遊園地に行くことがずっと夢だったんだ」


「ショルトおじさん大好きー!」


「私次ジェットコースター乗りたぁい!」


「はいはい、じゃあ次はジェットコースターを動かそうね」


「やったー!」


―― 残酷すぎる…こんなのもう遊園地を潰すなんてことは… ――


ジェットコースターのほうへと走っていく子供たち

を薄っすらとした笑顔で見守るショルト。

紅葉は目の前の残酷すぎる光景に、ショルトになんと言葉をかければいいのかわからなくなってしまった…。


「ドク・ドクロさん、私これでも良かったと思ってるんです、子供たちが遊園地を楽しんでくれていて、遊園地ができたことを喜んでくれている。確かに私にとってこの場所にあったキャベツ畑は、幼い頃からのキャベツ畑を作るという夢をカラパティシコ王国に来てついに叶えることが出来た大切なキャベツ畑でした。でもこの遊園地に訪れる子供たちが笑顔で、子供たちだけでなくほとんどの人たちが笑顔でいるのを見ると、こうなって良かったんじゃないかって…。だからあまり気にしないでください、私は大丈夫です、けど申請なしにディープシーに勝手に遊園地を建てさせてしまったことは本当にごめんなさい。では…」


ショルトは子供たちの後を追ってジェットコースターのほうへと歩いてゆく…、ショルトの後ろ姿を見続ける紅葉…、ショルトの憔悴しきった様子を見るに、ショルトの言葉が本心でないことは紅葉にもハクイにも明確なことだった。


紅葉が横にいるハクイの様子を見ると、ハクイは下を向きながら静かに涙を流していた。


「…ハクイさん、もうすぐ暗くなるから今日は一旦帰ろう」


「…はい」


空がオレンジ色に染まってゆく中、会話なしに静かに紅葉とハクイは並んで城へと帰ってゆく…。

そんなしばらく静かだった帰り道の中、ハクイが急に立ち止まり紅葉に話しかける。


「…本当の名前、教えてくれませんか?…」


「…紅葉」


「モミジさん、本当は私もディープシーと戦いたいんです、王がガンギマリ王に騙されたとわかったその日から、ガンギマリ王だってどうにかしてやりたい、でも私強い攻撃魔法が使えない体質らしくて…、守りたいのに誰も守れなくて…、何もできなくて…」


下を向いているハクイの目から大粒の涙が何度も零れる。


―― ハクイさんの料理屋でのあのときの笑顔が哀しげだった理由はきっと今の言葉だ…、このハクイさんの涙には多分申し訳なさと悔しさがあって、その中には俺に対しての申し訳なさ、そして俺に対しての悔しさもきっとあるのだろう… ――


「何もできていないなんて、そんなことないよ」


「…」


「散歩して色んな人たちと喋ったとき、俺が城の新しい使用人だって伝えたらみんな言ってた、『国王とハクイちゃんによろしく』って、みんな『国王とハクイちゃんに感謝してる』って。何もできていない人がこんなことをみんなから言われると思う?医者の人に聞いたよ、治癒魔法って一から覚えるのめちゃくちゃ難しくて時間もかかるらしいじゃん、でもそんな治癒魔法をハクイさんは何個も覚えた。それは怪我をしてしまったり病になってしまったりした国民の人たちを治癒魔法で守るためでしょ?普通の人は『強い攻撃魔法を覚えてこの国を脅威から守る!でも自分は体質的に強い攻撃魔法を使うことが不可能だった!』ってなった時点ですぐ挫折してしまうと思うよ、でもハクイさんはそこで挫折せず、治癒魔法をたくさん覚えるという別の道で国民を守ることを目指した、めちゃくちゃ凄いことだよ。まず行動を起こすことができていることがほんとに凄い!行動を起こせている時点でハクイさんが何もしていないなんてことはないし、国民にハクイさんが国民を大事にする気持ちが伝わっている時点でハクイさんが誰も守れていないなんてことはないよ」


ハクイが少しだけ顔を上げる。


「そう…なんですかね…」


「うん!そうだよ!俺まだ記憶喪失状態からこの国を知ってまだ3日とかだけどさ、ほんとに平和で良い人だらけで大好きだよ!だから王とハクイさんが作り上げ守ってきたそんな素敵な国を守る手伝いを、俺にさせてよ」


オレンジ色の空の中、見つめ合う2人、二人の間に静かな風が吹き込む。

ハクイの目には、紅葉の優しい笑顔が映っていた。


「…フフ、はい、お願いします」


このとき紅葉の目に映ったハクイの笑顔は確かな笑顔で、確かなものだった。


「うん!で、今更なんだけど…、こっち城と逆方向じゃない?」


「え?」


ハクイが後ろを見ると遠くに城が見える。


「…早く言ってくださいよ!」


「だってなんか凄い言いづらい雰囲気だったんだもん!」


「フフフ、ハハハハハ、せっかくですからこの近くにも私のおすすめの料理屋があるのでそこで夕食を食べていきましょうか」


「え!食べたい食べたい!道間違ってること言わなくて良かったぁー!」


「私が作る料理はそんなに嫌ですか?えぇ?」


「違う違うそうゆう意味じゃないって!」


静かな帰り道にだんだんと響き始める二人の笑い声。

紅葉は遊園地から料理屋に着くまでずっと、ハクイの左肩から右手を離さなかった。



紅葉とハクイが帰りに料理屋で料理を食べている中、空が暗くなった遊園地にまだショルトと子供たちはいた。


「ショルトおじさん次コーヒーカップ乗りたい!」


「みんなもう暗いし帰ったほうが…」


「あれ?シュウジャくんは?」


「え?」


遊園地で固まって遊んでいた子供たちのうちの1人のシュウジャがいつの間にかみんなのもとからいなくなっていた。そのシュウジャはみんながシュウジャがいなくなっていることに気づく少し前、遊園地の明かりのない暗闇地帯の中に黄色の丸い光を見つけ、みんなに気づかれることなくシュウジャはまるでその光に誘われるかのように無意識にその光のあるほうへと近づいていってしまっていた。シュウジャが光まであと5mほどの距離に近づくと暗闇の中から不気味な声が聞こえた。


「シューウージャくん」


不気味な声を聞いた瞬間シュウジャの意識が正常へと戻る。


「あれ?なんで僕こんなとこに…」


「待ってたよぉ〜、イヒヒヒヒヒヒヒ!」


その日、シュウジャがみんなの前に再び現れることはなかった。



〜第7話「何かが潜む遊園地」[完]〜


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