第6話「失われたキャベツ畑」
紅葉はメンダコを倒した日、散歩していて気づいたことが2つあった。1つ目はほんとに国民全員が良い人だということ。散歩中『初めて見る顔だね』と紅葉は色んな人に話しかけられたが、全員がこの国に来たことを歓迎してくれて、笑顔で喋ってくれて、花や食べ物をくれた人もいて、紅葉は『あっちの世界でぼっちだった自分はどこえやら』という感じだった。そして2つ目は国民ほとんどが元貧民だったということだ。紅葉が散歩中色んな人と話す中で『私も含めこの国に住む人々は元々自分の家を持てないほどに貧しい生活をずっとしていた人が多くてね、そんな人たちに良い生活のできる場所を与えるため、そんな人たちを救うために建国されたのがこのカラパティシコ王国なんだ、ほんとにみんな国王、そしてハクイちゃんに感謝しているよ』という話を紅葉に聞かせてくれた人がいた。この話をハクイが紅葉にしてくれなかったのはきっと『国民の人たちを元貧民だなんて呼びたくない』というハクイの優しさなのだろう。
―― 本当にめちゃくちゃ優しい国王さんじゃん ――
紅葉は散歩中国民と話してゆく中で、ディープシーからこの国を守る決意、そしてそれを達成して王に早く元気になってもらおうという決意を改めて固めた。
メンダコを倒した次の日、紅葉はハクイと一緒にハクイおすすめの料理屋に来ていた。
「いらっしゃいませー!お!ハクイちゃん!今日も可愛いねぇ〜」
「ハハハ、ありがとうございます」
料理屋に入った2人を店主であろう活きの良い40代後半ほどのおじさんが出迎えた。
「ん?隣の子は初めて見る顔だね、もしかして」
「違いますお城の新しい使用人です」
―― ハクイさんまだ店主さん『彼氏』の『か』の字も言ってない、その食い気味速度は流石に俺めちゃ傷付くよ ――
「あぁ新しい使用人さんか!ずっとハクイちゃん1人だったから良かったじゃないか!」
「はい、とても助かっています」
―― 確かにそういえば王とハクイさん以外城の中誰もいないな ――
「君名前は?」
「ドク・ドクロです」
『ほんとにその名前でやっていく気か』という目でハクイに見られる紅葉。
「ドク・ドクロ良い名前じゃないかー!俺はジャストエル、よろしくね!力仕事とかハクイちゃんのかわりに色々やってあげてくれよな」
―― ジャストエルさんこの名前の良さがわかりますか!良い人だ… ――
「はい!よろしくお願いしますジャストエルさん!」
ドク・ドクロを良い名前だというジャストエルを『まじかよ』という目で見るハクイ。
「じゃあハクイちゃんご注文はいつもので良い感じ?」
「あ、はい!2人分お願いします」
「OK!じゃあ好きな席に座って待ってて」
料理屋の2人席にハクイと紅葉は座った。
「ハクイさん聞きたいことあるんだけどさ」
「私もいい加減本当の名前を教えて欲しいんですけど」
「ドク・ドクロ」
「はぁ…、なんですか聞きたいことって?」
「あの城さ、今は一応俺が使用人ていう提でいるけど、本当の使用人てハクイさんしかいないの?」
「私はお城の使用人というより王の側近ですかね、国ができる前から王といましたから…。確かにそのまま国ができた当初も王の側近は私だけでしたね、今お城にいるのも王と私、そしてあなただけです」
「え、俺なんかめっちゃ邪魔野郎じゃん、ごめん…」
「大丈夫です、国ができる前から一緒にいたと言えど、関係的にはずっと王と王にただ仕える者みたいな関係です。あなたが今カラパティシコ王国のために戦ってくれていること、ほんとに感謝していますよ」
「あ、ありがとう…」
急にハクイに感謝をされ紅葉は下を向き、おでこに手をまるでサンバイザーかのようにつけ、照れる顔を隠した。
「まぁ城に騎士とかをつける必要ないほどにこの国は平和!良い人だらけ!ってことだよね!昨日散歩してる中で色んな人と喋ってさ、それを凄い感じたよ。そんな平和で良い人だらけの国を今脅かしているのがディープシー…、許せん!絶対全員ボッコボコにしてやる!王がディープシーのいなくなった完全に平和なこの国を起きて見られる日がいち早く来るよう俺頑張るよ」
「そう…ですね、ありがとうございます」
ハクイの横にある窓から静かな風が吹き込む…。
ハクイは紅葉に確かに笑顔を見せていた、でもその笑顔は何故か哀しげだった。
「はい!お待ちどうさま、ジャストエル特製ロールキャベツ!」
「え?今なんて?」
「ん?ロールキャベツだけど、もしかしてロールキャベツ食べるの初めて?人生で初めて食べるロールキャベツが俺のロールキャベツだなんて贅沢すぎるぜぇ!」
紅葉がジャストエルがテーブルに持ってきた料理を見ると、まんま紅葉の知っている、そう皆さんご存知のロールキャベツだった。
―― 城では色キモすぎる果物、某狩りゲームにでてきそうなモンスター名すぎる動物の肉、どうしたらそうなるかわからない絵の具色々混ぜたみたいな色のスープがでてきたり、昨日ゴーナツとかいうキモい版ドーナツ見ちゃったからそーゆーのばっかあるんだと勝手に思ってたけど(全部普通に美味しかった)、急にあっちの世界そのまんまの料理でてくるやん ――
「んー!ほんとにジャストエルさんの作るロールキャベツはいつ食べても美味しすぎる…」
「ハクイちゃんはほんとにいつも美味しそうに食べてくれるね、作りがいがありまくっちゃうよ!」
紅葉もロールキャベツを食べてみる。
―― 味もあっちの世界と同じだ、でも… ――
「めっちゃ美味い…」
「でしょでしょ!ほんとに超美味しいのよ!」
ハクイが子供のように前に乗り出し紅葉に語りかける。
「う、うん、ほんとに美味しいよ」
「うんうん!ほんとに美味しいよね!ここのロールキャベツは」
「…え、誰?」
30代後半ぐらいであろう、髪型はボサボサなマッシュで、丸眼鏡をかけていて、口髭を生やしている中々なイケおじがいつの間にか紅葉たちのテーブルの前に来て会話に参加してきていた。
「あなたも好きなんですか!ここのロールキャベツ!」
急に会話に入ってきたイケおじになんの不信感もいだかずに会話を続けるハクイ。
「あぁ大好きさ!ここのロールキャベツは甘さ、ジューシーさ、塩加減、その他もろもろほんとに全てが素晴らしいっ!そしてこのロールキャベツが浸るスープの味、あぁ…ロールキャベツさんが『このスープに浸かることができて幸せです』と語りかけてかけてきています。僕昔からキャベツが大好きでね、ここのキャベツ料理はほんとにどれもめちゃくちゃに美味しい、キャベツの良さを最大限に生かしすぎている、あぁ…ジャストエルさんには是非『キャベツの愛人』の称号を授けたい!」
「私も昔からキャベツ大好きで、ほんとにここのキャベツ料理は世界一だって思っています!私からもジャストエルさんに『キャベツの愛人』の称号を授けたい!」
「ハハハ、2人とも褒め上手なんだからー、なんも出ないぞ!」
―― なんだこの時間 ――
「急に会話に割り込んじゃってごめんね、二人があまりに美味しそうにキャベツを食べていて、キャベツ大好き人間としていてもたってもいられなくて。2人の料理代は僕が払うよ」
「え!?そんな申し訳ないです!」
「いいのいいの、これからもお互いキャベツを愛し合っていこうね!」
キャベツ大好きおじさんはお金を置いて、ノールックで紅葉たちに手を振りながら料理屋の外へと行ってしまった。
―― 凄いキャベツ愛デケェ人だったな ――
「ジャストエルさん今の人は?」
「1年前とかから急にこの料理屋に来始めて、それから多分1番この料理屋に来てくれている常連さんのコウジさんだよ。いつもあんな感じでめちゃくちゃ褒めてくれるんだ」
「へー」
「私もジャストエルさんの料理屋に結構来てますけど初めて会いました」
その後、紅葉とハクイはジャストエルさんを交え3人でたわいもない話をしながらロールキャベツを完食した。
「あーマジで美味しかった、ご馳走様です!」
「私また絶対食べに来ますね!」
「あぁ…うん…」
ジャストエルさんは何か不穏げだった。
「じ、実はさ、さっきあんなに褒めてもらった後に言うの悪いんだけど、キャベツ料理、全部扱うのやめるんだ…」
「え!?何でですか!?私まだジャストエルさんの作るキャベツ料理食べたいです!コウジさんだって…」
「ごめんね、うちのキャベツってショルトさんていう人のキャベツ畑のキャベツをずっと使ってるんだけどさ、そのキャベツ畑無くなっちゃうらしくて…。他の人のキャベツ畑のキャベツを使わせてもらう手ももちろんあるけど、個人的にはショルトさんの作るキャベツ以外を使ってキャベツ料理を作るってのはちょっとなくて…、あの人の作るキャベツが最高に美味しいからこそ、うちのキャベツ料理は最高に美味しいんだ。だからあの人のキャベツ畑が無くなるなら、うちもキャベツ料理は扱わなくするつもりだよ」
「そんな…、なんでショルトさんのキャベツ畑無くなっちゃうんですか?」
「なんか新しい建物が畑の土地を使って建つみたいな…」
「え!?そんな新しい建物が建つなんて話私聞いてないです!」
「え、そうなの?でも確かにそんな話を聞いたけど…」
「私確かめてきます!」
ハクイは料理屋から飛び出した。
「え!?ハクイさんちょっと待って!」
紅葉は急いでハクイの後を追いかける。
紅葉がハクイをひたすら追いかけていると、ハクイが急に立ち止まった。
「ハァ…ハクイさん、食べた後そんなすぐ走るとお腹痛くなっちゃうよ、ハァ…ハァ…」
「何…これ…」
ハクイが唖然とした表情をしている。
紅葉がハクイが見ている方向を見ると、そこには大きな遊園地らしき施設が建っていた。
―― …え?遊園地? ――
~第6話「失われたキャベツ畑」[完]〜