第4話「タイマン最強の男」
「風呂気持ちかったー、浴場広すぎてびっくりしたよ」
「国の王の城ですからね、それはもちろん!ではこの部屋をお使いになられてください」
紅葉が案内された部屋にはとてつもない大きさのお嬢様ベットがあった。
「えぇ!?このベット使っていいの!?」
―― これは大学のストレスでなってしまった不眠症も今日で解決だな ――
「あれ?そういえば王は?」
「王はあちらの部屋で今も寝ています…」
―― 1日中寝たきりなのか。ひたすら寝てできるだけ意識を持った状態でいたくない、起きていたら自分を責める気持ちに精神がひたすらやられてしまうから。そんな感じか…、王はただの被害者なのにな… ――
ハクイと別れ、紅葉は自身の宿泊場所となった部屋の窓から外の景色を眺める、もう外は真っ暗だが転々とした街明かりによって薄っすらと街の景色が見える。
―― すげ、ほんとにアニメでしか見たことないような世界に今俺はいる。異世界転生系アニメはよく見てて異世界転生に憧れがなかったわけではないし、あっちの世界での今の生活はストレスが溜まるばかりだったし、この世界での生活、実質自分の状況がリセットされたと言っても過言では無いこの生活を存分に楽しんでいきたいな ――
薄っすらと見える街の景色に浸っていると、紅葉は真下の暗闇の中に緑色の二つの球体型の光があることに気づいた。
―― え?なんか光ってる、あそこって完全気絶してるアカグツがいる位置では?もしかしてまだ完全気絶してなくて何かをしようとしてるのか!?…一応確認しに行くか、流石に心配事案件すぎてこのまま寝れん ――
紅葉は緑色の光の正体が気になり、完全暗闇となった城の庭に出て、緑色の光がある方向へ向かった。緑色の光に少し近づいたところでハクイにひっそりとさっき教えてもらった暗闇に光を灯す魔法を使った。するとそこにはぶかぶかな白衣を来ていて白目を向いていて、目の下にクマができていて、顔色が非常に悪いボサボサ髪の紅葉と同じ歳ぐらいの男が完全気絶したアカグツの前に立っていた。緑色の二つの球体型の光はその男の周りに浮かんでいた。
「ウワァァァァアア!!オバケェェェエ!!」
「いきなり叫んでオバケ呼ばわりなんて…、酷いです…。あのこれ…、アカグツですよね…、あなたがやったんですか…、酷いです…。中々帰ってこないなと思って仲間の様子を見に来たらこんな光景を見せられるなんて…、酷いです…」
よく見ると男は白衣の下にアカグツと同じ黒スーツを着ている。
―― こいつもディープシーのメンバーか ――
「あ…、デメニギスっていいます…、覚えてくれなきゃ酷いです…」
「あのーデメニギスさん顔色大丈夫?白目向いちゃってるし目の下クマできてるし、アジト帰って寝たほうがいいよ、今日もう夜遅いし、俺も今日久々に快眠できそうだから早く寝たくて…。じゃあね、あ、そこの完全気絶してるお仲間さん邪魔だから帰るとき持って帰って」
「遠くからはるばる来た人にすぐ帰れなんて…、酷いです…。でも確かに何故私はこんな夜遅くにここに来たのでしょう…、別に明日の朝でも良かったのに…、酷いです…」
―― なんかこの人酷いですってめっちゃ言うな…、めちゃめちゃメガティブ思考なのか?はぁ、よくよく考えたらこの男帰らせちゃったらディープシーの他メンバーに刃向かったことが確実な真実として今伝わってしまうのか。それが伝わって全員で来られたら流石にまだ勝てる自信無いし、なんなら今1人で来てくれてるのは好都合、このデメニギスってやつも今ここで倒すしかないな ――
紅葉はサタンモードになり、夜の暗闇に紛れ瞬時にデメニギスの背後に周り、後ろからの鎌での攻撃を試みた。しかし紅葉は攻撃をしようとした瞬間、先程までデメニギスのすぐ前方に浮かんでいた緑色の二つの球体型の光がデメニギスのすぐ後方に来ていることに気づき、その二つの光の中から不気味な視線を感じ攻撃を中断した。
「あれ?何で攻撃やめたんですか…?酷いです…」
―― あの光さっきまでアイツのすぐ前方にあったよな、しかも光の中からまるで俺の攻撃を見切っているような不気味な視線を感じた、あの光もアイツの持つ魔法なんだろうけどあれはいったい… ――
紅葉はもう一度暗闇に紛れ次は真上からの鎌での攻撃を試みた。しかし2つの光は今度はデメニギスのすぐ真上に来ており、今回はそのまま攻撃をしかけたが、デメニギスが顔をこちらに向けていないにも関わらず攻撃を的確に避けた。
―― 今度は暗闇の中を移動しながらあの2つの光を観察していたが、あの2つの光、ずっと俺とアイツの間に浮かんでやがる。もしかして敵を常に監視し続ける魔法か!? ――
「さっきから奇襲攻撃ばかりで…、酷いです…。でも私に攻撃を当てることは残念ながら無理です…、私の魔法セカンドアイズは対象の1人を常に監視し続ける魔法、例えどんなに早いスピードで動く相手でもです…。仲間を傷つけた人をずっと見ていなきゃいけないなんて…、酷いです…」
―― 1対1最強の防御力アップ魔法じゃねーか!でも防御力アップしてるだけで攻撃ブンブン振ってりゃいつかは… ――
紅葉は暗闇に紛れながらデメニギスに猛攻をしかけるが全ての攻撃を的確に避けられてしまう。
―― くっ!コイツ動きが速い、元々防御力高ぇヤツが最強の防御力アップ魔法を覚えちまってるのかよ ――
「私だけずっと攻撃を避ける立場なのも酷いので、そろそろ私もいきます…、私に攻撃させるなんて…、酷いです…」
セカンドアイズから放たれた1本の高速な細いビームがそれを瞬時に避けようとした紅葉の脇腹に命中した。
「グアッ!」
―― 攻撃もできんのかよ! ――
「まさかこのビームに初見で反応できる人がいるなんて…、酷いです…。残念ながらこのビームは10秒に1回しか打つことはできません…、まぁセカンドアイズ片方ごとに10秒なので実質5秒に1回ですが細いため威力も低いビームにチャージ時間があるなんて…、酷いです…。でも速さは魔法の中でも超速いほうだと思います…。セカンドアイズの監視効果のおかげでビームを放つほんとの直前まで監視している相手がいたところに正確にビームを放つことができる…、普通の相手ならチャージ時間なんて気にせず一撃で急所にビームを打ち込むことができます…。なのにあなたは急所にビームが当たることを初見で防ぎました…、凄いです…」
―― えぇなんか急に褒めてくれた!?いやいやそんなことどうでも良くて…、コイツ…2人目で出てきて良い相手じゃねぇ…、これがディープシーか ――
紅葉はその後セカンドアイズからビームが放たれた後次のビームが放たれるまでの5秒間でデメニギスに近づき鎌での攻撃を仕掛け、すぐさまビームに反応できる距離に離れることを繰り返した。しかし、その中でビームが高速すぎる故に致命傷は避けるも何度もビームに被弾し、紅葉の体力は削られてゆく。
―― クソォ、マジで攻撃に当たったくんねぇ、俺遠距離魔法使えないのかな、せめてアイツに近寄る過程をカットしたい ――
そんな中、デメニギスが紅葉の攻撃を避ける過程で避けた後庭の木にぶつかった。
「うっ、木…ですか?、こんなところに木を生やすなんて…、酷いです…」
―― ん?…アイツもしかして… ――
紅葉は思考を巡らせた…
―― よし…一か八か…レッドディスクだ! ――
紅葉はセカンドアイズのビームを避けた後、デメニギスに向かって正面からおもいきり鎌をぶん投げた。しかしデメニギスはもちろんそれを避けた。
「いきなり遠距離攻撃するなんて…、酷いです…」
紅葉は下を向きながら左手で右腕を掴む。
「何をしているんですか…、次のビームを避ける意思を感じない…」
デメニギスがセカンドアイズから次のビームを放とうとした瞬間、紅葉が投げた鎌が後ろからデメニギスの背中にブチ刺さる。紅葉が投げた鎌はアカグツのレッドディスクのようにブーメランのような挙動をして後ろからデメニギスにブチ刺さったのだ。
「え…?」
「ウオオォォォオオオ!!デーパン!!」
紅葉は鎌が後ろから刺さった勢いで自分の目の前に飛んできたデメニギスを魔力をたらふく溜め込んだ右手でおもいきり殴り飛ばした(デーモンパンチ略してデーパン)。
デメニギスは完全気絶し、紅葉はサタンモードを解除した。
―― コイツの白目を向いた目とセカンドアイズの能力、最初から気づくべきだった、コイツ、元の目は見えていないんだ。セカンドアイズは対象の1人を常に監視する魔法、セカンドアイズで完璧に見えていたのは戦っていた俺たった1人だけで、周りは全く見えないほど視界自体は狭い魔法なんだろう、真横でなく横斜め前にあった庭の木も見えないほどにね…。あまりにも攻撃避けられすぎて監視してるヤツの攻撃はどんなものでも避れるほどの監視力を持つ魔法だと勝手に思い込み始めてしまっていた…。俺がコイツに勝てたのはたまたま鎌がブーメランみたいな挙動をしてくれたお陰なだけで、他にどんな魔法使うやつがいるのかまったく知らないけど多分コイツに1対1で勝てる可能性があるのはレッドディスクの使えるアカグツぐらいなんじゃないか?…いやビームのことも考えたらアカグツでも先制攻撃されたら無理そう、やっぱ先制攻撃大事や。ほんとに2人目にしては強すぎとるよ、デメニギス ――
「さっ!寝るか、多分体感もう日付は変わってそう…、結局今日もあんま寝れずに朝迎えそうだわ…」
紅葉は部屋に戻りめちゃデカちょうフカフカお嬢様ベッドで久々の爆睡をキメた。
ちなみにハクイは紅葉に部屋を案内した後自分の部屋に戻って即座に睡眠を開始し、激しい戦いの音で起きないほどに爆睡をキメ続けていましたとさ…。
〜第4話「タイマン最強の男」[完]~