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ナーナティカのかんしょう  作者: わやこな
うろこ剥ぎ
13/44

3 橋の街


 よく晴れた陽の下で、ガタゴトと車輪が跳ねていく。

 轍をつけて進む金属の車は、すこしばかり金物臭い。

 昨今の技術革新で生まれた最新の乗合車両で、複数人を乗せて運ぶことができる移動型魔法具品だ。丈夫で細かな金属部品と媒介具を組み合わせ、魔法を行使して操縦ができる。

 ナーナたちの住んでいた辺境ではまず御目にかからない代物である。速度は安全性を考慮しなければ馬を使うよりも遥かに速い移動が可能だ。

 辺境にいる家族に伝えたら興味を唆るだろう発明に、ナーナはできうる限り覚えておこうとよく観察した。



 学園を朝に出発して、揺られることしばらく。

 こっそりと魔法の構築式を覗いてみたり移り変わる景色を眺めながら友人たちと話したりすれば、到着はあっという間だった。



「ようやく着きましたわね。ナーナ、ここがアストゥユポンス。通称、橋の街ですわ」


 モナは当然のようにアミクのエスコートを受けて車から降り立つと、芝居がかった仕草で片手をひらりと動かした。


「ほら、あちらの奥にある大きな橋が見えますでしょ? 都につながる街のシンボルですのよ。デザインはわたくしたちの学園関係者が携わったとか」

「コウサミュステの当時の寮監督生です、モナ様。うちの血筋です」

「まあっ、そうなの?」


 モナの説明にアミクが補足をする。


「もともと芸術面で都に重宝されていたところ、うちの国が各国に圧力かけられていた情勢にありまして。ご機嫌取りに良いデザインを作ってみせろって命令されたんですよ。そんで、当時の当主が死に物狂いで作ったそうです」

「そういえば、貴方、ウァリエタトンでしたわね」


 軽く言うアミクをモナが納得したふうに見ている。

 ナーナからモナへと、アミクのモデルが交代してから、いつの間にかアミクはモナを尊称をつけて呼びだした。それはモナの性格や見目もあるが、家柄も理由にある。

 モナ・ランフォードは由緒正しい大貴族の数ある分家の出だ。

 ランフォード家は都に居を構えないが、政治界にも強い本家と良好な仲にあり都への強いパイプを持っている。

 比較的新しい貴族であるアミクの家に比べれば、歴史も権力も格上にあたる。

 この国は王を上に据えた議会制になったとはいえ、今もなお貴族の権力は強い。

 もっとも、モナが言うには「都とつながりがあろうと本家のカロッタに比べるべくもない。それも都外に出ている貴族ですもの。学園生活くらいは好きにさせて」とのことだ。伸び伸びと過ごしているので、ナーナにとっては楽しい友人の一人であった。


「それで、レラレと一緒にいるのは商売をしていた流れですの?」

「はい。レラレ家とは昔から仕入れを頼む間柄で、いわゆる幼馴染です。質のいいインクや紙が、うちの稼業では欠かせないんで。な、ヨラン」


 話を振ったアミクに、ヨランは肯定した。


「もとはわびしい花屋でしたので、ウァリエタトンと比べれば吹けば飛ぶ商家ですよ」

「あら、レラレの薬品素材は優秀でしょう。学園にもいくつか卸しているのではなくて?」

「ほんの少しです。ですが、ランフォードから褒められたことは家の者に伝えておきます」


 ヨランは背筋を伸ばして見上げると、モナの質問にはきはき答える。すらりとした背丈のモナは女子の中でも背が高いのだ。

 生真面目な返事を受け取って、モナは機嫌よく微笑んだ。


「ええ、よくってよ。さあ、ナーナ、まずはわたくしおすすめの品物を見に行きましょう! アミクの案内はそのあとよ」

「おすすめって?」

「もちろん、学園でもつかえる装飾品ですわ! ナーナに似合うものがあるんですのよ」


 ナーナの腕を取って、モナは歩き出す。

 舗装された道を進む。後ろのほうから少し遅れて足音がついてきた。


 街中は辺境の都と比べても遜色ないほど発達している。

 古い店や新しく出来た店があちこちに立ち並び、学園の生徒以外も行き交い、ずいぶんとにぎやかだ。しかしどこを見ても学園指定の制服が見える。ナーナが思っていたよりも、多くの生徒がこの街を利用しているのだろう。


(すごくちゃんとした街だわ)


 ナーナはモナたちに街を案内されながら感心した。

 治安が驚くほど良いのだ。

 連れられて行く店々の先の景色も、街の者の様子も荒れた様子はない。とはいえ後ろ暗いところはあるようで、それらしい裏路地もあった。日陰で、じめじめとさびれた古めかしい家屋は辺境でも珍しくはないものだった。


(本当に呆れるくらい平和なのね。魔獣の一つも街中に出ないなんて)


 ナーナが暮らしていた辺境では、気性の荒い魔獣が多い。

 都と違い、そういった魔獣が集中する土地に隣接しているからだ。

 つまるところ都のための防波堤代わり。ナーナとテトスを始めとした辺境出身者は、そう認識している。

 世界中に魔力を持った人間がいるように、あらゆる動植物にも魔力がある。人が魔法を用いるのと同じくして、獣もなんらかの特殊な技能を使う。

 狂暴化した魔獣をはじめ、魔力を持った生物の猛威は昔からの課題であった。

 それに対抗するために世界各国は今も頭を悩ませ、互いにけん制しながらも手を取り合い、国をまたいだ傭兵業や私兵団といった職業の需要があるのだ。

 あらゆる学園で実践的な武術や魔法の技術を学ぶのも、こういった対策を持てる人材を育てるためである。

 学園に近い橋の街に、優秀な人材をスカウトするべく募集の張り紙が張られているのもそのせいなのだろう。


「ガヴェ傭兵団だわ」


 そのうちの一つを見つけて、ナーナは思わず声をだした。


「あらナーナ。興味がありますの?」

「私が、というよりティトテゥスよ。大規模ながら実力者が集う人気の団だって」

「そうねえ。どこの国でも人気なのは確かかしら。社交界でもウワサがない日はないくらいですもの。商売のところでもそうでなくって?」


 モナがアミクとヨランへと話を振ると、二人はそろって肯定した。


「確かに。傭兵団をモデルにした絵や彫刻、デザインを売ってくれって結構きますねえ」

「あやかれたのなら、その商家はさぞ名が売れるでしょうね」


 ナーナもヨランの意見には賛成だ。実家の魔法道具も傭兵団愛用としたなら、一時の風靡は得られるだろうと思えた。


「ミヤスコラの卒業生もガヴェ傭兵団に入った人がいるのかしら」

「そうだったらもっと派手に学園側が喧伝していますわよ」


 ナーナの疑問に、モナが頬に手をあてて思い出すように答えた。


「我が学園で有名なところといったら、王家の選任魔法官だとか武官だとか?」

「あとは建築家もいますね」

「それはあなたの家でしょう。まったく」


 モナがアミクを睨むと、アミクはへらへらと笑う。二人で作業をしている間に、ずいぶんと気安くなったようだ。とはいえ、男女の仲というより姉弟のような雰囲気にみえた。

 二人の軽口の応酬を聞きながら道中を進む。次第に混みあってきている。


「なにかあったのかしら」


 ナーナからは良く見えない。街の住民以外にも学生の姿もひとかたまりに集まっている。


「……号外みたいです。都で事件が起こったようです」


 しばらく黙ってから、ヨランが言う。それぞれに手を伸ばした人々が何かを掴んでいる。きっとそれが号外だろう。


「ちょっと気になるわ。私が魔法でとりましょうか」

「いいえ、ナーナ。魔法を使うのって気疲れするじゃないですの。アミク、あなた背が高いのだから取っていらっしゃいな」


 高飛車に言い放つモナに、アミクは緩い返事をして人だかりに向かっていった。

 間もなくして、折りたたまれた紙を手にしたアミクが戻ってきた。

 紙面には都での下卑た噂話が誇張してあれこれ書かれている。内容はこうだ。


『社交界をにぎわせたお騒がせカップル、衝撃の結末。華のジョストン卿、凄惨な遺体となって見つかる。浮気相手の女性は行方不明か。

 都の治安維持部隊が異形持ちの犯罪者の線で捜査。

 発見された異形持ちの静養所として、新たに中立特区付近に施療院が出来る見込みだったが、本事件により建設に遅延が発生中』


 四人で紙面を眺め、そろって顔をしかめた。

 明るいニュースもある。国の浮浪児は減少傾向やら財政状況の向上やらも書かれている。

 だが、真っ先に視界に飛び込んでくるほど大々的に書かれている猟奇事件のせいで、良いニュースの印象は薄くなってしまった。


「いやですわね、物騒な」

「うーわ。すごい絵面だ。ま、都はここから離れてますし、学園は安全でしょうよ」


 モナが言えば、同調してアミクも言う。

 新聞紙面の殺人事件欄には、簡素な現場のスケッチが載せられている。淡々とした筆致が余計にうすら寒さを与えるようだった。

 遺体はまず四肢が切り離され、ところによって欠損していた。

 皮膚がない。切り開かれた体内の臓器の一部がない。筋肉がちぎられてばらけている。骨が突出していたところは奇妙に削られていた。

 凄惨とはよくいったものだ。

 単純にばらばらにされているというより、丁寧に切り分けられているように感じる。整えられたのかと思ったが、発見当時の再現スケッチと書かれていたことから、すでにこのような状態だったのだろう。

 ナーナが辺境の実地訓練で見た遺体とはまた違う。獣には不可能な人為的な仕業。底知れない不気味さがあった。


(都でも……人死にがでるんだわ。国のどこでも変わりはないのね)


 ふるりとナーナが体を震わせると、気遣うようにヨランが声をかけてきた。


「あの。小間物を見る前に、温かい飲み物でもいただきませんか?」


 その提案に、全員が賛成をした。そうして、ひとまず人心地つけてから街の散策を再開することになった。


 暖かな飲み物で、不安を喉から下に流し込めたのだろう。

 軽食をすませた後、調子が戻ったモナによってナーナ達は買い物へと戻った。

 モナがすすめるままに可愛らしい小物を見たり、お供に荷物を持たせてあちこちと歩き回る遊びは、ナーナの心を潤してくれた。

 自分の培った美貌や魅力を出し惜しみせず、女王然としてふるまうモナの様子と、賑わう街の様子がいい薬になったのだ。大げさにかしずくアミクの姿も面白かったからというのもある。

 ヨランも、ナーナへのお礼であるからと言って何かと気にしてくれた。

 辺境の地では味わえなかった丁重なもてなしを受けて、ナーナは感動した。

 なぜなら、辺境ではことごとくテトスと張り合っていたせいで、誰もナーナを見た目通りのか弱いお嬢さんと思ってくれなかったからである。


 モナたちのおかげで、ナーナは大変充実した休息日を送り学園へと帰るのだった。

 見かけた新聞の不穏な記事内容も、淡々とした遺体のスケッチも、ひっそりと頭の隅へと埋もれて行った。



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