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全員集合!

「あ、帰ってきた」


 ウィルとアリスの姿を認めたジャンが声を上げた。


「ふふ。どうやら話し合いは上手くいったようね」


 ウィルの顔にはいつものキラキラ王子様スマイルが完全復活していた。そのウィルに手を取られ、真っ赤になりながら俯き加減で歩いているアリスを見て、クレアが微笑んだ。


「オストロー公爵夫人、みんな、お待たせしてすまなかったね。おかげでアリスともしっかり仲直りができたよ」


 先ほどとは打って変わって上機嫌のウィルがみんなに声をかけた。


「良かったね、ウィル、アリス」


 ウィルの言葉にジャンがにこにこと答えた。


「もう、二人が婚約破棄なんてことになったらどうしようかと思ったよ」


「……ジャン?そんな縁起の悪い言葉は口に出すもんじゃないよ?」


 途端にウィルのまとう空気が氷点下になるが、ウィルの黒い笑顔にもジャンはひるまない。


「だって、そんなことになったら、僕達の婚約発表がやりにくくなっちゃうもんね」


「「「「え?」」」」


 ジャンの言葉に、クレアとイメルダを除く全員の声がハモった。


「……誰と誰の婚約発表なんですか?」  


 みんなを代表してアンソニーが問う。


「もちろん、僕とメルのだよ。ね、メル」


「……はい」


 ジャンは席を立つと、隣に座っていたイメルダの肩を抱く。イメルダは恥ずかしそうに頷いた。


「えっ、いつの間に?!」


「これは、驚いたな」


「まあ、ジャン様、イメルダ様、遂にご婚約されたんですね!」


「さすがはジャンですわ……腹黒さはウィル様といい勝負……」


 各々が驚きを口にする。


「まあ、でも、めでたいことだよな。おめでとう、ジャン、イメルダ嬢」


 ポールが真っ先にお祝いの言葉を口にすると、全員がそれに続いた。


「ありがとう、みんな。半年後には婚約披露パーティー兼ドットールー侯爵家の嫡男発表パーティーをするから、みんな来てねー」


「侯爵家の嫡男とは、ジャン、君じゃないんですか?」


 ジャンの言葉にアンソニーが疑問の声を上げる。


「うん、今はまだね。でも、僕はメルと結婚してブルーム子爵家に婿に入るからね。侯爵家の家督は弟のジャックに譲ることにしたんだ」


 ジャンは嬉しそうに答えた。


「でも、ジャン様、本当によろしいんですか?ジャン様なら立派な侯爵になられるはずなのに……」


「何度も言ったでしょ。僕はメルの側にいたいんだって」


 心配そうにジャンを見るイメルダに、ジャンがにっこり微笑む。


「おいおい、いちゃいちゃするなら見えないところでやってくれよ」


 ポールの呆れた声にイメルダは真っ赤になった。


「だめだよ、メル。そんな可愛い顔を他の男に見せちゃ」


 ジャンがイメルダを腕の中に隠すように抱き寄せる。


「だーかーらー!」


 ポールが思わず声を上げた。



「あらあら、ご馳走様。皆さま、お口の中がすっかり甘くなってしまいましたわね。お茶のおかわりはいかがかしら?」


 一人平然とお茶を飲んでいたクレアが、口の中に砂糖の塊を入れられたような顔をしている面々を見回して、にっこり笑った。



 =======================



 コンコン。


 エラリーが滞在している王宮の客間のドアがノックされた。


「エラリー、僕だよ、入るよ」


「ジャンか。入ってくれ」


 エラリーの返事を聞いて、ドアがガチャっと開いた。


「エラリー、調子はどう?」


「エラリー様、今日の授業のノートをお持ちしました」


 ジャンに続いてイメルダが入ってくる。ここ最近のいつもの光景だ。だが、今日はその光景に続きがあった。


「エラリー、怪我の具合は?」


「見舞いに来るのが遅くなってすまない」


「目眩はおさまりまして?」


 アンソニー、ウィル、アリスが続き、さらにその後に、エラリーが一番会いたかった人物が顔を出した。


「エラリー様……お加減はいかがですか?」


「クラリス嬢?!来てくれたのか!」


「俺もいるぜ」


「ポール!」


「私もいるよ。エラリー、今日はおとなしくしてるかな」


「ディミトリ様!」


 予想していなかった顔ぶれに、エラリーは驚きを隠せない。


「ふふ、びっくりした?みんな、エラリーに会いたがってたからね、一緒に来ちゃった」


 ジャンが悪戯っぽい笑みを浮かべてエラリーを見る。


「ああ、驚いた!もうみんな大丈夫なんだな。……良かった!」


「エラリー、心配をかけてすまなかったね」


 ウィルがアリスの腰を引き寄せながらエラリーに軽く詫びる。


「ウィ、ウィル様!人前ですわ!」


「ん?じゃあ、二人きりになれる所に行くかい?」


 焦るアリスに構わず、ウィルはさらに身体を近づける。


「だーかーらー!そういうのは他所でやってくれって!」


 あまりの甘さに、たまらずポールが叫ぶ。


「全く羨ましいよ。私なんて婚約者すらいないのに」


 ディミトリがわざとらしいため息をつく。


「ご冗談を。ぜひディミトリ様の妃に!というご令嬢が列をなしているのは周知の事実じゃないですか」


 少し呆れ気味のアンソニーの言葉を笑顔でかわすと、ディミトリは、クラリスの方を向いた。


「時に、クラリス嬢にはもう決まったお相手がいるのかな?」


「「「?!」」」


 ディミトリの問いかけに、ポール、エラリー、アンソニーの三人が瞬時に殺気立つ。


「え?私ですか?」


「そう。もしまだお相手が決まっていないようなら、私なんてどうかな?カリーラン王国もいい所だけど、ブートレット公国も素晴らしい所だよ」

 

「「「!!」」」


 突然の問いかけに戸惑うクラリスが何か答える前に、ポールがクラリスの手を取り、自身の背中に隠す。


 アンソニーもポールの隣に並んで、クラリスの前に壁を作る。


 エラリーはベッドから起きあがろうとして、ジャンに止められた。


「冗談にしては笑えねえな」


「クラリス嬢は王国の宝です。どこにもやりませんよ」


「いくらディミトリ様でも、譲れません!」


「だが、それはクラリス嬢が決めることだろう?クラリス嬢、君の気持ちを聞かせてくれ。君には意中の相手はいるのかな?」



 ガルガルと牽制する三人にディミトリは余裕たっぷりに微笑んだ。



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