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もつれた糸の解き方

 騒動から数日後。



「何とかしないと……」


 ジャン達から話を聞いたエラリーは、居ても立っても居られず、王宮をこっそり抜け出そうとしていた。


「うっ……」


 傷がまだ治り切っているわけはなく、身体を動かすと目眩がする。


「馬車より馬の方が早いか……」


 目立たないように厩舎に向かったが、あいにくそこには先客がいた。咄嗟に身を隠せる場所もなく、呆気なく見つかる。



「あれ?君は確か……キンバリー伯爵のご令息の……」


「エラリーと申します。ディミトリ公世子にご挨拶申し上げます」


 ブートレット公国のディミトリがそこにいた。


「ああ、エラリーだね。そんなに畏まらなくていいよ。もう動いても大丈夫なのかい?」


 ディミトリが人懐こい笑顔を見せる。


「あ、いえ、少し気分転換に散歩を……」


 嘘のつけないエラリーは、途端にしどろもどろになる。


「ふふ。どこか行きたい所でもあるのかな?でも、その怪我で動き回るのはあまりおすすめできないな。特に乗馬は揺れるからね、頭の傷に響くよ」


「っ!」


 ディミトリにはエラリーの考えはお見通しのようだった。


「私は少し街へ行こうかと思っていたんだが……まずは君の話を聞こうか。部屋まで送るよ」


 ディミトリに促され、エラリーは渋々厩舎を後にした。



 ==========================



「ここか」


 夕食にはまだ少し早い明るい時間に、食堂の前に立つ長身の男がいた。


 平民と変わらない身なりだが、どことなく品がある。


 コンコン。


 軽くノックすると、男は扉を開けた。


「すみません、まだ準備中なんです」


 クラリスの母のエリーが応対する。


「ああ、忙しい時間にすまないね。クラリスさんとポール君はいるかな?」


「え?あの、あなたはどちら様で……?」


 エリーが警戒する。


 そこに、早目の夕食を終えたクラリスとポールが奥のキッチンから出てきた。


「ふぅー、食った、食った。おじさん、おばさん、今日も美味かったぜ、ご馳走さん」


「もう、ポールお兄ちゃんたら。お行儀が悪いわよ」



 賑やかに出てきた二人は、エリーが対峙している男に気付かない。


「クラリス、ポール、あなた達にお客様だけど……」


 エリーに言われて扉の前に立つ男に気付き、ポールが前に出る。


「おばさん、下がってて」


 男は帽子を深くかぶっており、顔は見えないが、長身のポールと目線がほとんど変わらない。


「何か用ですか?」


 ポールがぶっきらぼうに尋ねる。


「突然すまないね。私を覚えているかな?」


 男が帽子を外すと、美しいプラチナブロンドが溢れ出た。


「!あんたは……!」


「……ディミトリ様……?!」


「覚えていてくれて嬉しいよ」


 ディミトリが屈託のない笑顔を見せるが、ポールは顔を強張らせて、ディミトリを扉の向こうに押しやろうとする。


「ここはあなたの様な高貴な方が来るような所じゃありません。お引き取りください」


「ポール殿、クラリス嬢、少しだけ話をさせてくれないか」


「お話しすることは何もありません」


 ディミトリが真剣な顔で頼むも、ポールはがんとして譲らない。


「ポール殿、頼む。このままでは私は国に帰れない。今回の騒動は我が愚昧の責でもあるんだ」


「……」


「ポール、ひとまず奥に。そこにお前達みたいなデカいのが突っ立っていたら、客が入ってこられない」


 厨房から様子を伺っていたクラリスの父が声をかけた。


「……わかったよ」


「ありがとう、ご主人」


 ポールは渋々ディミトリを中に入れる。


「ポールお兄ちゃん……」


 クラリスがポールの側に来て、その服の裾をギュッと掴んだ。


「クラリス、大丈夫だ。俺がいる」


 ポールが優しくクラリスの肩を抱く。



「ポール、クラリス、キッチンを使え」


 オーリーの言葉に、ポールはクラリスを庇いながら、奥のキッチンへとディミトリを促した。




「あなた……いいのかしら……」


 エリーが不安そうに三人を見送る。


「ポールもクラリスも、このままじゃ前に進めないだろう。あの男が誰かは知らんが、パーティーの騒動についての話なら、二人はしっかり聞くべきだ」


 王宮のパーティーで何があったかは、ポールとクラリスから聞いていた。オーリーとエリーは、娘の身に起こったことに怒り、悲しんだが、友人を失って失意の底にいるクラリスとポールを見ているのも辛かった。


「あいつらはまだ若い。いくらでもやり直せる」


 オーリーは突然現れた、物腰の柔らかい、誠実そうな男を信じることにした。


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