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誤算と誤解

「やあ、遅かったね」


 血相を変えて駆け寄ってきたアンソニーにセベールはいつもの調子で声をかけた。


「セベール殿!っ!こ、これは……」


 室内の惨状に、アンソニーが息をのむ。


 手足を拘束され、猿轡を噛まされて床に転がされている男が三人。


 顔をズタズタに切り裂かれて虫の息となっている男が一人。


 血溜まりの中で事切れている大男が一人。


 さらに、部屋の奥の方には、身体のあちこちを押さえて呻いている、貴族らしい身なりの男達が三人。


 アンソニーに続いて屋敷に入ってきたディミトリと騎士達も、あまりのことに動けないでいる。



「クラリス嬢は?!」


 そんな中、いち早く我に返ったアンソニーがハッと室内を見渡す。


「こ、ここです……」


 エラリーの腕の中に閉じ込められたクラリスが小さく答えた。


「エ、エラリー様、もう離してください」


「駄目だ」


 クラリスの訴えにエラリーは短く返すと、サッとクラリスを横抱きにし、クラリスの顔を自身の広い胸に押し付けた。


「見ない方がいい」


 そう言ってクラリスの視界を塞ぎながら、エラリーは玄関へ向かう。その後ろ姿を見て、アンソニーが声を上げる。


「エラリー!血が!」


 後頭部を強打されたエラリーの髪には血がこびりついており、その顔は真っ青だった。


「俺は大丈夫だ」


 短く答えるエラリーだったが、重傷なのは間違いなかった。



「アンソニー殿。ひとまず弟を休ませてもらえるかな?出血は止まっているようだが、頭を強く打たれたようだからね。心配だよ」


 セベールの気遣わし気な言葉に、アンソニーも頷く。


「わかりました。馬車を用意していますのでそちらに。エラリー、クラリス嬢と一緒に馬車に乗ってください。王宮で怪我の治療を」


 アンソニーの言葉にエラリーは無言で頷くと、馬車に向かった。


「あ、あの、エラリー様、私は大丈夫ですから降ろしてください。エラリー様の方がお怪我を……」


「大丈夫。掴まっていてくれ」




 そして、クラリスをそっと馬車の座席に降ろすと、エラリーはその隣に座った。クラリスの両手を握りしめながら、絞り出すように呟く。


「クラリス嬢……本当に、本当に、無事で良かった……貴女に何かあったら俺は……」


 と、その時、エラリーの身体がクラリスに向かって倒れ込んできた。


「エ、エラリー様?!」


 クラリスの、悲鳴にも似た声が響いた。



 ============================




「クラリス!大丈夫か!」


 王宮に着いたクラリスを真っ先に出迎えたのはポールだった。


「すまない、俺がそばを離れたせいで……あんなに守ってやると言っていたのに……」


 クラリスをぎゅうぎゅうに抱きしめながら、ポールはクラリスに詫びた。


「ちょ、ポールお兄ちゃん、苦しい、苦しい!」


「ポール、クラリス嬢が窒息しちゃうよ」


 後から追いかけてきたジャンがやんわりとポールを諌める。


「あっ、すまない!」


 ポールは慌てて腕を緩めると、改めてクラリスをじっと見つめた。


「大丈夫か?何もされなかったか?」


「それが……私は薬で眠らされていたから、何も覚えていないの」


 クラリスは辛そうに目を伏せた。


「でも、私よりも、エラリー様が……ひどい怪我で……」



 馬車の中で意識を失ったエラリーを膝に抱き抱えていたため、クラリスのドレスにもエラリーの血がこびりついていた。


 ディミトリと騎士の一人が、馬に乗り一足早く王宮に戻り、事の次第を報告していた。そのため、王宮でやきもきしていた面々には、だいたいのことは伝わっていたおかげで、クラリスとエラリーを乗せた馬車が到着するとすぐに騎士団長と複数名の騎士達が出迎え、エラリーを運んで行ったのだった。



「エラリー様、大丈夫かしら……」


 クラリスが泣き出しそうな顔で呟く。


「大丈夫だよ、エラリーなら。しっかり鍛えているから、あれぐらいかすり傷だよ」


 クラリスを慰めようと、ジャンがわざと明るい声で告げる。


「エラリー様のことは確かに心配ですが……でも、クラリスさんに何もなくて良かった……!」


 アリスとイメルダもクラリスの側に駆け寄って来た。二人とも目が赤くなっている。


「クラリス嬢、王宮内のパーティーでこんなことになってすまなかった」


 アリスの隣に立ったウィルが頭を下げる。


 その時、騎士の一人が声をかけた。


「皆様、王の間にお越しいただきたいと、陛下が仰せです」


「ああ、わかった。皆、ひとまず移動を」


 ウィルの言葉に全員が頷いた。


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