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筋肉は裏切らない

「いいじゃないか。エリーもわしの隣に来なさい!」


 息子の横暴を止めるどころか、クラリスの母の腕を同じように引く男爵。

 周りの常連客も助けたいと思いつつも、相手が貴族ということもあり、止めることができない。


「男爵様、おやめください!」


 フレデリックが止めようとするも、やはり平民が貴族の体に触れることは躊躇われる。


「なんだ、平民のくせに、わしらに指図するつもりか!」


 ぶくぶくと肥え太った男爵親子には、細身のフレデリックは敵ではないようで、ますます調子に乗って、フレデリックに手を上げようとする。


 だが、その時、厨房からヌッと大きな影が見え、ドスの効いた声が響いた。



「やめていただけますか」



「あなた!」


「お父さん!」


「父さん!」



 この店の主人であり、一家の主でもある、オーリーだった。


 オーリーは、上背もあり、身体全体がごつい筋肉で覆われていて、厳つい顔と相まって『歴戦の猛者』の風格を醸し出していた。おまけにその手には大きな肉切り包丁と特大のフライパンを握りしめている。


 さすがの傍若無人な親子もオーリーの登場には静かになり、エリーとクラリスの腕をパッと離した。


「……この店は定食屋です。女性の接客をご希望でしたら、そういった店に行かれてはどうですか」


「ふ、ふん!今日のところはこれで帰ってやる!だがな、これで済むと思うなよ!覚えてろよ!」


 オーリーの静かだが、有無を言わせない口調に、まだ手をつけていない皿を前に慌てたように立ち上がると、男爵親子はあたふたと店を後にした。支払いもせずに。



「うわ~、下っ端丸出しのセリフ、本当に使う人いたんだ~。かっこわるっ」



 クラリスは思わず前世の記憶に引きずられるまま呟いた。




「エリー、クラリス、大丈夫だったか?すまない、もっと早く出てこれなくて」


「いいえ、あなたのおかげで助かりました。クラリスは大丈夫だった?」


「うん、私は大丈夫だよ。腕を掴まれた時は気持ち悪かったけど」


「ごめんな、俺がいながら、嫌な思いをさせてしまって。俺も父さんみたいにムキムキになれたらいいんだけど」


「オーリーさん、悪いな。俺たちも見てるだけで何もできなくて……」


「いや、いいんだ。相手は腐ってもお貴族様だからな。下手なことをするとどんな仕返しをされるかわからないからな」


「しかし、あのぶうぶう親子、最近さらにしつこくなってるね」


「ほんとに。エリーもクラリスちゃんも気をつけてね」


 常連さん達が言うように、ここ最近の男爵親子の振る舞いはひどくなっていた。


「みんなありがとう。今日はすまないが、これで店じまいとさせてくれ」


 オーリーの言葉に店内のお客さん達は快く頷くと、みんなお会計をすませて出ていった。

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