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進路相談?

 エラリーが辺境伯領へと旅立ってから数週間後、学園では学年末の試験が行われた。


 一、二年生にとっては進級試験として、三年生にとっては卒業試験として、この試験の結果如何では留年もありえる、落とすことのできない大切な試験だった。


 二ヶ月以上も学園を休んでいたポールとクラリスにとってはなかなかの難関だったが、友人達の助けもあり、二人は無事に学年で十位以内に入ることができていた。



「あー、良かった!無事、合格点を取れたぞ。これで晴れて卒業だ!」


 試験が終わった翌日、S階の掲示板に張り出された結果を見て、ポールは大声を上げた。


 ついこの間まで寝たきりだったということが信じられないほど、すっかり元通りに回復していた。


「これで三人は卒業かあ。寂しくなるねー」


 ジャンが掲示板の名前を見つめながら言う。


 卒業試験の結果は、アンソニーが一位、ウィルが二位、ポールが九位となっていた。


「アンソニー様、あんなにお忙しそうだったのに、いつの間に勉強されたのかしら」


 イメルダが不思議そうに首を傾げる。


「ほんとだよねー」


 ジャンもうんうんと頷いた。




「みんな、ここにいたのか」


 そこに、生徒会室から出てきたウィル達が合流する。


「すごい!一年生はイメルダ様、二年生はアリス様、三年生はアンソニー様が一位なんですね!」


 試験結果を見たクラリスが嬉しそうな声を上げた。


「ほんと、お前らすごいよな。あんなに学園を休んでいたはずなのにな」


 ポールも感心したように言う。


「何を言うんですか。最近まで勉強する時間もほとんどなかったのに、合格点どころか、しっかり学年で十位以内に入っているポールの方が余程すごいですよ」


 ウィルの後ろからアンソニーが呆れ顔を見せた。


「そうですわ。クラリスさんだって、学年で七位なんて立派ですわ」


 アリスがクラリスに微笑みかける。


「ありがとうございます。全部イメルダ様達のおかげです」


「私達は少しお手伝いしただけです。これはクラリス様が努力なさった結果ですわ」


「メルの言う通りだよ。ともあれ、これで来年度も三人とも同じSクラスだね」


 イメルダとジャンがニコニコしながらクラリスを見る。


 その言葉にクラリスも微笑んで頷くと思いきや、クラリスは少し気まずそうに視線を伏せた後、何とも言えない顔でポールを見た。


「ポールお兄ちゃん……」


「ああ……ここで話すのはちょっとな……」


 珍しく歯切れの悪いポールに、ジャンが気を利かせる。


「良かったらこの後、みんなでお茶でも飲まない?この間メルと行った東方風のカフェがすごく良かったんだよね」


「ええ。お茶もお菓子もとても美味しくて。内装も珍しくて、すごく素敵でした」


 イメルダもにっこり笑うと、ジャンの言葉を肯定した。


「いいですわね!ぜひ行ってみたいですわ」


 アリスが弾んだ声を出す。


「じゃあ、個室を押さえておくよ。校門に集合ね!」



 =======================



「実はみんなにお願いがあるんだ」


 カフェの個室に入り、注文が済むや否やポールが口を開いた。


「クラリスがちゃんと学園を卒業するようにみんなで説得してくれ!」


「ポールお兄ちゃん!ひどい!皆さまにそんなお願いをするなんて!」


 ポールの言葉に、声を荒げるクラリスを皆が驚いたように見つめる。


「ちゃんと卒業するようにって……え?まさか、クラリスさん、学園をお辞めになろうと……?」


 アリスはショックを隠しきれない。


「俺は反対しているんだが、クラリスが聞かないんだ」


 ポールが困り果てた顔を見せる。


「だって、ポールお兄ちゃんは学園を卒業したらブートレット公国に帰っちゃうんでしょ?なら、私も一緒に行く!公国の学園に編入すれば、あちらでも勉強を続けられるわ」


「クラリス、別に公国に来るのは王国で学園を卒業した後でもいいだろ。せっかく特待生として頑張ってきたのに、もったいなさ過ぎる」


 「そんなこと言って……」


「ちょっと待ってくれ。話を整理させてくれ」


 言い争いになりそうな二人をウィルが止めた。


「ポールは卒業したら公国に戻るのか?」


「ああ。じいさんとディミトリと約束したからな」


「オランジュリー商会の後継として?」


「それもあるが、ディミトリに側近になって欲しいって言われているからな。まあ、まずは商会の方からになると思うが」


 ウィルとポールのやり取りを黙って聞いていたアンソニーが口を挟んだ。


「もう王国には戻って来ないつもりなんですか?」


「……そうだな。恐らくそうなるだろうな。ガキの頃から世話になった国が困ってるんだ。放ってはおけないだろ?」


「せめてクラリス嬢が学園を卒業されるまで待てないんですか?」


「お前もあの国のヤバさは知っているだろ。今はディミトリが一人で頑張っているような状況だ。あと二年なんて悠長なことを言ってはいられない」


 アンソニーの言葉にポールが反論する。 


「だから、私が公国の学園に編入して一緒に行くって言ってるのに、ポールお兄ちゃんは駄目だって……」


「お前は俺とは状況が違うだろう?クラリスが急いで公国に来る必要はない」


「そうだよ、クラリス嬢。後二年頑張ってからでも遅くないと思うよ」


「そうですわ。クラリス様、一緒に卒業まで頑張りましょう」


 必死に説得しようとするポールを、ジャンとイメルダがフォローする。


「でも、私、もうポールお兄ちゃんを一人で公国に行かせたくないんです!もうあんな……」


 ポールが寝たきりだった時のことを思い出したのか、クラリスの目に涙が浮かんだ。


「クラリスさん……」


 アリスがクラリスの肩を抱く。


「クラリス。心配かけたのは本当に悪かったと思っている。だが、俺はやっぱり反対だ。お前はちゃんと王国で学園を卒業するべきだ」


「~~~~もう!ポールお兄ちゃんのわからずや!」


 恐らく何度も繰り返されたであろう二人のやり取りに、皆困惑を隠せなかった。

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