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準備万端

「おかえり、メル!会いたかったよ!」


 

 王宮の研究室でポールの血液と点滴液の解析をしていたジャンは、ウィル達の帰国の報に、王宮の入り口で彼らを出迎えた。


 イメルダを見るなり飛びついて、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。


「ジャ、ジャン様!人前です!」


「関係ないよ。メルと二日も離れてて、メルが足りなさ過ぎて倒れちゃうかと思ったんだから。メルを補給させて」


 イメルダの抗議などどこ吹く風で、ジャンはイメルダの小柄な体をしっかりと抱きしめて放さない。


「……私もアリスが足りないな」


 その様子を見ていたウィルがボソッと呟いた。


 その呟きにギョッとしたアリスは慌ててウィルと距離を取ろうとするが、ウィルが一拍早くアリスの腰に手を回して抱き寄せる。


「ウィ、ウィル様!」


「アリス、今回の件が片付いたら……覚悟しておいてくれ。アリスが全然足りてないんだ」


「!!!」


 耳元で囁かれ、真っ赤になったアリスを満足そうに眺めながら、ウィルがジャンに声をかける。


「ジャン、それで、状況は?」


「今、成分の解析中だよ。明日までには結果が出ると思うよ」


 ジャンはイメルダを抱きしめたまま答える。


「なら明日には公国に向けて再出発できるな。私は父上に報告と応援の要請をしてこよう。今日はもう遅い。皆は休んで明日に備えてくれ」


 ウィルの言葉に三人は頷き、それぞれに用意された部屋へと移動した。



 =====================



「検証が終わりましたわ」


 翌朝早くに解析結果を確認していたアリスがジャンに声をかけた。


「ジャンの推測通りです。ポールさんの血液からも点滴液からも、あの違法薬物と同じ成分が検出されました」


「やっぱりね。すぐに陛下とウィルに報告して来よう」


 ジャンの言葉にアリスとイメルダが頷いた。




 昨夜から大急ぎで進められていたおかげで、ジャン達の報告が終わる頃には、公国に向けて立つ準備は既に完了していた。


「私は先に馬で行く。皆は応援部隊と一緒に馬車で来てくれ」


「僕もウィルと一緒に行くよ。ディミトリの馬を返さなきゃだしね」


 ジャンが言って、出がけの駄賃とばかりにイメルダをギュッと抱きしめる。


「またしばらくの間メルと離れ離れになっちゃうのは寂しいけど。公国で待ってるからね。気をつけて来てね」


「はい……」


 真っ赤になって俯くイメルダの額に軽く口付けを落とすと、ジャンは表情を一変させてウィルを見た。


「さあ、行こう。ポールとクラリス嬢を傷つけた奴らを徹底的に叩き潰してやる!」



 ======================



「あれ、私……」


「クラリス様、お目覚めですか」


 クラリスの側に付き添っていたミミが声をかけた。


「ミミさん……?えっと、ここは……?」


「ブートレット公宮です」


「はっ!そうだ!ポールお兄ちゃんは?!」


 寝起きでまだぼんやりしたままのクラリスだったが、ミミの答えに慌ててベッドから出ようとした。


「ポール様はまだお眠りになっています。ご安心ください。アンソニー様とエラリー様がお側に付いていらっしゃいますから」


「エラリー様も……」


「はい。クラリス様、今湯浴みの用意をいたしますので、少々お待ちくださいませ」


「……はい。ありがとうございます」


 久しぶりにぐっすり眠ったおかげか、クラリスはだいぶ落ち着きを取り戻していた。


 ミミは表情こそ変わらないものの、クラリスが少し元気になったのが嬉しいようで、甲斐甲斐しく世話を焼く。



 コンコン。


 ちょうど着替えが終わったタイミングでドアがノックされる。


「私です。アンソニーです」


 主人の声にミミが素早く扉を開けた。


「クラリス嬢、起きていらっしゃいましたか」


 身だしなみを整えて、こざっぱりした様子のクラリスに微笑みかける。


「アンソ……トニー様。昨日はみっともない所をお見せしてしまいました……申し訳ありません」


 クラリスが恥ずかしそうに頭を下げた。


「みっともないなど、とんでもない。お疲れだっただけですよ。それより、昼食の用意ができているようです。エラリーも一緒に食事を取りに行きましょう」


 アンソニーはにこやかにクラリスに手を差し出した。





 公宮の食堂に着くと、既にディミトリが席についていた。


「やあ、クラリス嬢、アンソニー、エラリー。今日は私も一緒に食事を取らせてもらうよ」


 優しげな笑顔を見せるディミトリに、三人は黙って頭を下げると、席についた。



「先ほどカリーラン王国から知らせがあったよ。ウィリアムとジャンが馬で向かっていると」


「お二人だけですか?」


 アンソニーが少し訝しげに尋ねる。


「アリス嬢とイメルダ嬢は少し遅れて馬車で来るようだよ。お土産をたくさん乗せてね」


「……ということは、ジャンがやったんですね」


「どうやらそのようだね」



 ディミトリとアンソニーの会話に、クラリスの顔には何かを聞きたそうな表情が浮かんでいたが、話の内容を察してか、無言で食事を続ける。


 そんなクラリスを愛しそうに、だが、少し寂しそうに見つめると、アンソニーはいつものようにクラリスの世話を焼き始めた。

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