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薬が効かない?

 クラリス達がブートレット公国に来てから一週間が経とうとしていたが、その間、ポールが目を覚ますことはなかった。


 熱は下がり、傷の状態も悪くはない。だが、刺されて倒れたあの日からずっと、ポールは昏睡状態から覚めなかった。


 時間を空けて何度か解毒剤を投与し続けていたが、これ以上は解毒剤の副作用の懸念の方が大きいということで、薬の投与は中止となった。


 点滴と傷の消毒といった、最低限の医療行為しかできず、医師達もただ見守るだけの日々が続いていた。





「クラリスさん、少し休んだ方が……」


 アリスがベッドの側に置いた椅子に座りっぱなしのクラリスを気遣った。


「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」


 クラリスは張り詰めた表情でポールの手を握りしめたまま答える。


「クラリスちゃん、今日も何も食べていないんじゃない?私が代わるから、お友達と一緒に昼食を取って来なさい」


 ポールの母のナタリーがクラリスを優しく促す。


「私は大丈夫だから……」


 しかし、クラリスは動こうとはしない。その瞳はポールの閉じた瞳に向けられたままだ。


「クラリス嬢、お願いです。何か食べてください。このままではあなたまで倒れてしまう」


 アンソニーがクラリスの隣に跪き、クラリスを見上げて懇願する。


「アンソニー様……」


 その必死な声に、ようやくクラリスの視線が動いた。


「クラリスさん、私からもお願いします。一緒にお昼を食べてください」


「アリス様……」


 アリスの気遣わし気な声に、瞳を動かしてその顔を見たクラリスは、アリスの表情にも疲れの色が濃く見えることに気がついた。


「あ……私……すみません、皆さまもお疲れなのに……」


 クラリスがハッとしたように、頭を下げた。


「クラリス嬢、何も謝ることはありませんよ。さあ、みんなで一緒に昼食を取りに行きましょう」


 アンソニーが立ち上がり、優しくクラリスの手を取った。


「はい……」


 アンソニーに手を取られ、心配そうに見つめるアリスとウィルに囲まれて、何度も後ろを振り返りながら、クラリスはようやく部屋を出た。




 その後ろ姿を見送り、ベッドの横の椅子に座ると、ナタリーはポールの顔を見つめた。


 何も言われなければ、ポールはただ眠っているだけのように見える。


「ポール、早く起きなさい。昔から寝起きが悪かったけど、さすがに今回は悪すぎよ。あんなに可愛いクラリスちゃんを泣かせるんじゃないわよ」


 ナタリーはポールの手を握りしめながら、涙を堪えて話しかけた。



 =====================



「さあ、焼きたてのパンですよ。あ、クラリス嬢の好きなフルーツもありますよ」


「クラリスさん、この野菜スープも美味しいですわよ」


 クラリスの両隣に座ったアンソニーとアリスが、なにくれとなくクラリスの世話を焼く。


 今日ばかりはウィルも何も言わずに、その様子を見守っていた。


「アリス様、アンソニー様、ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから、お二人もどうぞ召し上がってください」


 二人のあまりの甲斐甲斐しさにクラリスが小さく微笑んだ。


「……ようやく笑いましたね」


 クラリスの笑顔に、アンソニーが安堵の声を漏らす。


「クラリスさんにはやっぱり笑顔が似合いますわ」


「あ、私、そんなに……すみません……皆様にご心配をおかけして……あ!そう言えば、もう学園の休暇が終わるんじゃないですか?皆様どうぞ先に王国に戻られて下さいね」


 クラリスは敢えて明るい声で言う。そんなクラリスの言葉に三人は顔を見合わせた。


「確かに明日から学園再開だな」


「ええ、すっかり忘れていましたわ」


「クラリス嬢は戻らないのですか?」


 アンソニーの問いに、クラリスは首を横に振った。


「私はポールお兄ちゃんが目を覚ますまでは帰れません」


 わかりきった答えにアンソニーが少し悲し気に微笑んだ。


「そうですか。では、私もお供しましょう」


「いけません!授業に出られないと!」


「クラリス嬢を一人公国に置いて帰れるわけがありません。ウィル様とアリス嬢はお先にお戻りください。今日出立できるように手配いたしましょう。明日には王国に着けるように」


「そうだな。私とアリスはひとまず一度王国に戻ろう。ジャンに相談すれば何かいい薬を教えてくれるかもしれないしな」


「……本当は、私もクラリスさんの側にいたい所ですけど……今は一度戻りますわね」


「ウィル様、アリス様、ずっとお付き合いいただき、ありがとうございました」


「お礼を言われるようなことは何もないよ。ポールは私達にとっても大事な友人なんだからね。トニー、後のことは頼んだよ」


 ウィルの言葉にアンソニーが大きく頷いた。

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