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手紙

「で?何で揃いも揃ってうちに?」


 開店したばかりの食堂で、ポールは一つのテーブルの前で仁王立ちしていた。


「ポールお兄ちゃん、そんな言い方、失礼よ!」


 口をへの字にしたポールを、クラリスが慌てて嗜める。


 それもそのはず、ポールの前には平民の格好をしたウィルとアンソニー、そしてディミトリの三人が座っていたのだ。


「もちろん夕食を取りに来たんだよ」


「ディミトリが、美味しいと評判の定食を食べたいと聞かなくてね」


「お二人を止めはしたんですが……クラリス嬢に会えるかと思うとつい」


 ディミトリとウィルがにこにこと言う。アンソニーは少し申し訳なさそうだが、普段着のクラリスの姿に、笑顔が隠せない。


「……全く。どんなに平民の服を着てたって、あんたらは目立つんだよ。食べたらさっさと帰れよな。騒ぎになったら迷惑だ。おじさん、おすすめ三つで!」


 ポールは三人を渋々受け入れると、厨房にいるオーリーに声をかけた。


「え、そんな勝手に注文決めちゃ駄目でしょ?!」


 三人の意見も聞かず、勝手に注文品を決めるポールにクラリスが焦る。


「いいんだよ。どうせメニュー見てもわからないだろ」


 言いながらポールは手にしていたメニュー表を片付ける。


「見てもわからないとはひどいなあ。だが、確かにこれだけの中から選ぶのは時間がかかりそうだ」


「ああ、ポールのおすすめなら間違いないだろう」


「私はクラリス嬢のおすすめが良かったんですが」


 三人は怒るでもなく、笑顔のままだ。



「あ、そうそう。ポール、君のご家族から手紙を預かってきたよ」


 ディミトリがそう言って懐から封筒を取り出した。


「俺に?」


「ああ。オランジュリー商会の会長からだよ。君のお祖父さんなんだろ?」


「オランジュリー商会?!あの、公国でも一、二位を争う商会ですか?!」


 ディミトリの言葉にアンソニーが驚きの声を上げる。


「あれ?知らなかったのかい?ポールはその商会の会長の孫息子だよ」


「初めて聞いたな。ポール、なぜ黙っていた」


 ウィルも少し驚いた様子で、ポールに問う。


「あー、別に隠していたわけじゃねえが……特に言う必要がなかっただけだよ」


「しかし、公世子を伝書鳩代わりに使うぐらいなんだから、公国ではかなりの地位にいる人物なんだろう?」


 頭をかきながら横を向くポールを見て、ウィルがディミトリに尋ねる。


「そうだね。我々大公家もオランジュリー会長には、だいぶお世話になっているからね」


「……ポールお兄ちゃん、お手紙が気になるんでしょ?奥で読んできたら?まだお客さんも少ないし、ここは大丈夫よ」


 クラリスがポールを気遣う。


「ありがとう、クラリス。少しだけ頼むな」


 ポールはクラリスの頭を優しく撫でると、三人に軽く頷いてから奥のキッチンへと向かった。





 三人はポールの言葉に従い、食事を終えると早々に席を立った。


「ごちそうさま。期待以上に美味しかったよ」


「次はアリスも一緒に来るとしよう」


「クラリス嬢、次は私一人で来てもいいですか?」


 口々に言いながら、お勘定を済ませて出て行く三人を見送り、クラリスはホッと息をついた。 


「ふう。……ポールお兄ちゃん、遅いな。大丈夫かしら」


 奥に引っ込んだまま戻って来ないポールが気になり、キッチンに向かおうとしたところに、食堂のドアが開いた。


「いらっしゃいま……お帰りなさい!お兄ちゃん」


「ああ、ただいま」


 兄のフレデリックが仕入れから戻ってきたところだった。



「クラリス、今出て行った三人は?」


「ああ、ウィル様達よ。わざわざ平民の格好をして食べに来てくださったの」


「……アンソニー様もいたのか?」


「うん……」


 フレデリックの問いに、クラリスは頬を少し赤らめて頷く。


(いつもと違って質素な服でも、やっぱりアンソニー様は素敵だったわ!顔がいいと何でも似合ってしまうのかしら)



 そんなクラリスを複雑な表情で見つめながら、フレデリックが尋ねる。


「……ポールはどうした?」


「あ、ポールお兄ちゃんは奥のキッチンにいるわ。ディミトリ様が公国にいるポールお兄ちゃんのお祖父さんからお手紙を預かって来てくださったの」


「そうか。ちょっと見て来よう」


 フレデリックは妹の頭を軽く撫でると、両親にただいまを言って、奥へと向かった。




「ポール、入るぞ」


「……フレディか」


 ポールはキッチンの椅子に腰掛けて、手紙を見つめたまま、返事をした。


「俺と入れ違いでアンソニー様達が帰って行ったぞ。何しに来てたんだ?」


「わからん」


「お前のお祖父さんからの手紙か?クラリスが話していたが」


「ああ」


「……あまりいい知らせではないのか」


「……」


「……今日はお前は休んでいろ。俺もいるし、店の方は気にするな」


 珍しく口数が少ないポールの肩をポンと叩いて言うと、フレデリックはキッチンを出た。

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