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眠れぬ夜(続々)

「あれ?お兄ちゃんは?」


「フレデリックならポールの家に行くって出て行ったわよ」


「ポールお兄ちゃんの家に?」


 学園の課題を終え、眠る時間になっても姿の見えないフレデリックに気づいた。


「二人で何の話をしてるんだろ……」



 今日のエラリーのお見舞いは、結局見舞ったのか何だったのか、わからないままバタバタと帰ってきてしまった。それもこれも全てディミトリのせいだ。


「まさかディミトリ様があんな風におっしゃるなんて……」


 クラリスを婚約者にと言っていたのが本心だとはとても信じられない。


「だいたい、ディミトリ様とお話ししたことなんて数えるほどだし。もちろん、ブートレット公国に残るルーマニ時代の文化はすごく気になるけど」


 そう言って、アンソニーからもらった本の表紙に触れた。


「アンソニー様、ルーマニ時代の遺跡を見に連れて行ってくださるっておっしゃってたのにな……」


 パーティーの後、誤解が解けるまでの間、クラリスはアンソニーからもらった高価な本を返すべきかどうか、ずっと悩んでいた。


 もう友人でないなら、こんなに高価な物を貰う理由はないように思えたからだった。


 だが、返してしまうと、一緒に遺跡を見に行くという約束も叶わなくなってしまいそうで、決心がつかないまま、毎日のように本に触れてはため息をついていたのだ。


 もう既に何度も読み返していたが、丁寧に扱っているため、本は綺麗な状態だった。


「ディミトリ様に聞かれて答えてしまったけど……」


 好きな人はいないが、気になる人はいる、とは何とも矛盾した答えだ。


 好きだから気になっているのだから。結局は好きな人がいると答えたも同然だ。


 そして、その相手が誰かは、自分の中ではとうに答えが出ていた。


「あそこで、あれ以上問い詰められないで良かった……」


 叶わない恋なのはわかっている。でも、今はまだもう少しこのままでいたかった。


「同じ学生として友人でいられる間だけでも……」


 クラリスはアンソニーからもらった本をギュッと抱き締めた。



 =========================



「ウィリアム、アンソニー、手間を取らせてすまないな」


「陛下と二人で話していてもなかなかいい考えが浮かばなくてね」


「何かいい解決策がないか、知恵を貸して欲しい」


 国王と宰相がウィルとアンソニーに頭を下げる。


「父上、アラン殿、そのように頭を下げられなくても、もう怒ってはいませんよ」


 ウィルはにこやかに告げる。


 その言葉に、国王が明らかにホッとした様子で言葉を続けた。


「アンソニーは夕食の時から元気がないようだったが、どこか具合でも悪いのか?」


「……いえ、そういうわけでは……少し疲れが溜まっているようです。お気遣いありがとうございます」


「そうか、それならこの話し合いも手短にすませよう」


 アンソニーが無言で頭を下げた。


「早速だが、セベールの今後の処遇をどうした方がいいか、二人の意見を聞かせてくれ」


「セベール殿は今は自宅謹慎中ですよね?」


 ウィルが確認する。


「ああ。沙汰が下るまではおとなしくしているように命じてある」


「セベール殿の罪は?」


「あの反乱分子達の企みを知りながら、誰にも報告せずに単独行動に走った。挙句、民を危険な目に合わせてしまったことだ」


「セベール殿の功は?」


「結果的にセベールの働きで反乱分子の残党を一掃できた。おまけに、巷で悪行を重ねていた悪党どももまとめて逮捕できたことだ」


 ウィルの問いに国王が簡潔に答える。


「まさに功罪相半ばする状況ですな」


 宰相がため息をつく。


「父上は罰を与えたいとお考えなのですか?」


「……本音を言えば、あまり厳しい罰は必要ないと考えている。だが、何のお咎めもなしでは、被害にあったクラリス嬢達は納得しないだろう」



「畏れながら、陛下」


 アンソニーが発言の許可を請う。


「うむ、何だ」


「ポールと話しましたが、彼らはセベール殿に対しての厳しい罰は望んではいないと思います」


「どうしてそう思う?」


「ポールが言っていたんです。『あのセベールって奴は一発殴らないと気が済まない』と」


「…………」


「…………」


 国王と宰相は顔を見合わせる。


「……つまり、セベールを一発殴れば気がすむということか?」


「恐らくは」


 アンソニーが頷く。


「父上、ポールもクラリス嬢も話がわからない人間ではありません。セベール殿からの真摯な謝罪があれば、許すだけの度量のある人間です」


 ウィルが補足する。


「ならば、ポールとクラリス嬢をセベールと直接引き合わせた方がいいというのか?」


「そうですね。恐らく、ポールは実際に一発殴って終わりにすると思います」


「そうか……クラリス嬢の優しさにつけ込むようで気は引けるが……」


「ですが、それで幕引きとできるのであれば、我々としては大変助かります」


 躊躇う国王を宰相が後押しする。


「よし。ウィリアム、アンソニー、クラリス嬢とポールに話を通してくれ。アラン、早速セベールに知らせを」


「「「御意」」」

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