願う
『その人にあったらどうしたらいいんですか?』
『その時は俺に知らせろ。』
ー絶対に助けてやるー
隊長。あなたは今、ここにいない。あなたに知らせることができない。なら、自分で運命を決めてもいいんですよね?私は、
「お前…本当に愚かだな。」
コイツを…王子を殺します!
「死んでください。」
私は全力で王子に向かって突進し、目の前に迫る。とれる…!拳を振った。
パシッ
確実にとったと思った。疑わなかった。
しかし、手応えは無かった。
どうして?動きが読まれた?どうして!?
その時隊長の言葉を思い出した。
『いいか、敵を殺る時は切り替えが大事だ。』
…いや、そうだ。切り替えろ。考えろ。
速く。速く。速く…!もっと!
また、褒めて欲しいから。だから…!
『お前は天才だな〜!凄いじゃないか!』
そうして、隊長はよく私の頭の上に手を置き、撫でてくれた。
『お前は幸せになれよ。』
そして、私の代わりに願ってくれた。幸せを。
そして、代わりに絶望していた。この世界に。
「殺してやる。エリストリア…殺してやるッッ!!」
ーーーーー
あと、1秒…いや、あと0.8秒速かったらなにか変わっていたのだろうか。私の運命は。
「想像以上にバカだったな。お前。」
彼の剣は私に腹に突き刺さっていた。
「がはっ…!」
血が止まらない。…もう、何も見えない。
死んだんだ。私は。
「これで分かったろ。お前は俺に勝てない。」
私が
「諦めて、お前は」
死ぬ?
そんなのありえない。私はアスティカンの兵器だ。隊長が私を見つけてくれた。そして、教えてくれた。
「私は…」
腹に刺さった剣を抜く。血が大量に飛び散るのが実感して分かった。
痛い。とんでもなく痛い。泣きたい。でも、誰かが手を差し伸べてくれるわけもない。
よろめきながら立ち上がる。もう、視界も役立たない。ならどんな武器でも使おう。
王子が不機嫌そうに首を傾げる。
「いいのか?次は殺してしまうかもしれないぞ?」
「構いません。兵器である自分が死のうが関係ない。」
音、匂い、感覚。全てを研ぎ澄ませ。感じろ。
「…っ!」
「見つけましたよ。殺意丸出しじゃないですか。」
私は彼に向かって拳を振る。かわされようが関係ない。またもう1回。もう1回。もう1回!振ればいいだけ。
「はぁはぁ…」
まずいな。息が上がってきている。時間はない。相手から感じる殺意で位置を把握しろ。
頼れるのは私の脳みそとこのイカれた魂だけだ。必ず殺してやる。今、ここで!
「本当に愚かだな。」
彼の冷たい声と共に拳が捕まる。体が一気に崩れる。私はその場に倒れ込んだ。
「ア…」
「そりゃそうだろ。既にお前はもう限界なんだよ。」
負けだ。
「負けです。」
「やっと認めるか。可哀想だな。死ぬまでの残りの時間慰めてやろうか?」
彼が私の頭の上に手を置く。
…それが許されるのは、あの方だけだ。
「えぇ…お願いします。あなたが死ぬまで。」
「…は?」
この時を待っていた。
私は頭の上の彼の手を掴む。そして、腰に隠し持っていた、先程刺さっていた剣を王子に目掛けて振るった。
「おまっ…いつの間に!?」
ハッ…油断したな。
「これで私の勝ちっ…」
あ、しまった。失血のせいで意識が…クソ。
あと少し。少しなのに…!
刃があと少しのところで私は完全に意識を失った。
「…」
ーーーーー
もし、次目を開けるならアスティカン…いや、隊長がいるならどこでもいいや。とにかく、会いたい。会いたいよ…隊長。夢であって欲しい。こんなの全部。あんなクソ王子も消えて欲しい。
いや、もう次は無いのかも。目を開けることはないのかも。
…それでもいいや。
私は代わりに願うから。 隊長の幸せを。
だから、だから…私を
───愛して───
第一章 完
次回もよろしくお願いします