論外です
ー私はまた夢を見ていた。これは昔の記憶だ。
「いいか?エリカ。敵国にも殺してはいけない…いや、会っては行けない人がいるんだ。」
「会っちゃダメな人…ですか?」
隊長に拾われて間もない頃、私はあることを教わった。
「あぁ。その人はエリストリアの王子であり、我らの敵だ。」
「…敵なら、殺してもいいのでは?」
本当に無知だった。
「いや、ダメだ。絶対にな。」
隊長は首を横に勢いよく振った。
何故そこまで否定するのか分からなかった。敵は誰であろうと全て殺せと教官に教わったのに。
「なら、もし…その人に会ったらどうすればいいんですか?」
一瞬目を丸くして、隊長は私の頭の上に優しく手をポンっと置いた。
今でもその顔はよく覚えている。忘れるわけない。
「その時は、俺に知らせろ。絶対に助けてやるから。」
この裏切り合いが当たり前の世界で唯一、私が信頼できた存在。その優しい顔は嘘を言っていない。
「…はい。」
私は赤くなった顔を隠して頷いた。
ーーーーー
あー、体が動かない。なぜだ?手足を切り落とされたか?いや、感覚はあるな。なら、ここは…
私はゆっくり目を開ける。
「あ、起きたか。」
「……は?」
目と鼻の先に居たのは先程殴り合いをした…気がする男の姿だった。そう、記憶はないのだ。ただ、なんだかそんな気がする…ん?よく見たら、なんだこの状況?
「って、あなた誰よ!?」
「うっ…!!」
驚きのあまり勢いよく起き上がり彼とぶつかってしまった。それも仕方ない。私は知らずのうちに男に膝枕されていたのだから。
…なぜ?
彼は呆れた顔をしてこちらの顔を覗く。
「せっかく、怪我を治してやったのに感謝の言葉もなしですか。」
「あ、え?」
そういえば、先程から体が少し楽な気がする。
…いや、楽すぎないか?先程まで動かなかったというのに、この治りは
「魔法?」
指をパチンと鳴らし、ウインクする。
「正解っ!」
ムカつくな。
いや、それよりも魔法って確かこの世界で1割も満たない希少な能力じゃ…
「…あなた、何者ですか?」
恐らく、先程の殴り合いで私はこの男に負けたのだろう。それも体が動かなくかるほどに。私は女だがアスティカンの1番隊の兵器だ。隊長の傍で戦ってきた身だぞ。そんな私がこんな屈辱を味わうなんて…。
彼はこちらをじっと見た後、小さくため息をついた。人の顔を見てため息とは失礼なやつだなと思いながら、声には出さなかった。すると、彼は呆れたような顔をした。
「お前、今失礼なやつだなと思っただろ?」
チッ、バレてたか。
どうやら顔に出ていたようだ。
「別に?…それよりも早くあなたの正体を」
「それは言えないな。」
彼の人差し指が私の唇に触れた。私はすぐに「触るな」とその指を追い払う。
不満そうに彼は私の顔にずいっと近づいた。
「それよりもこの状況分かってる?」
話を逸らさないで欲しい。
まぁ、言われてみれば…この雨漏りに灯りのない暗い場所。見覚えのある気が。
「お前がさっき居た牢屋だ。」
「あー、なるほどね。牢屋……は?」
どういうことだ?
「も、もしかして…捕まったとか?」
「いやぁ?」
「あ、あなたもなんか罪でもあるんですか?」
「ううん。全然。」
…は?
「じゃあ、なんでここにいるんですか!?牢屋ですよ!?牢・屋!!」
私は分かりやすく混乱していた。
私はともかくコイツはなんにも関係ないのにここに来たということ!?本当に馬鹿なの!?
混乱状態に入ってる私を見て、男はわざとらしくニヤっと悪戯っぽく笑う。
嫌な予感がした。
「じゃ、ここから出てみなよ。」
ため息を小さくつく。私のイヤな予感はいつでも当たるのだ。
「どういうことですか?」
「君には今、3つの選択肢がある。」
そうして、男は指を広げた。
1、このまま見知らぬ牢屋で死ぬか。
2、ここから出て、自由を得るか。
3、俺とここで暮らすか。
3つの指を1つずつ数えたあと、何かに気づいたように3つ目の指を私の唇に当てた。
「あ、ちなみに3は死ぬことないよ。俺がそばにいる限り。」
「論外です。」
私は明らかに嫌そうな顔をして、男の指を追い払った。彼は不満そうな顔をしていたが私には関係ない。とにかく、3は論外。1はアスティカンの人間として許されない。なら…
私は「はぁ…」と深くため息をついた。
その様子に男も察したのか手をヒラヒラと振る。
「じゃ、俺はここで待ってるから。」
「そうしてください。邪魔なので。」
男は「まったく…」という顔で私の耳に顔を近づけた。
「相手は3時の方向に2人。9時の方向に3人。そして出口に2人だ。」
それをどこで得た情報かは知らない。正直、コイツから得たことは信用できないし、使いたくないが…仕方ない。
「その情報、後で後悔しますよ?」
「もちろん。逆にそっちの方が最高に面白いだろ?」
また、男は悪戯っぽい笑みを浮かべ、私の背中を押す。
やっぱムカつく。
「ほら、最高のショーを見せてくれ。」
「特等席での観覧は高くつきますけど?」
「いくらでも。」
そして、私は当たり前かのように開いた牢屋の扉を勢いよく蹴って、飛び出した。
絶対ッにあの男の思い通りにはさせない。
誰にも想像できない最高のショーを見せてやる…!
次回もよろしくお願いします。