牢屋脱出2
ーー東西の争い真っ最中の出来事だった。
現在戦場はエリストリアが優勢。
このまま行けば今回こそ決着がつく。
と誰もが勝利を疑わなかった。
しかし、
「ロベリア王子!」
「どうした?そんな慌てて。」
「それが…アスティカンの1番隊の女が1人で攻めてきていると。」
(女が?1人で?)
はじめはどんな冗談かと思った。
女自体、戦場にいるのは稀なことだ。その上この状況で1人で突っ込んでくるなどどんな頭のネジが壊れたヤツかと思った。
だが、会ってみれば分かることだった。
「っああ!痛い…痛い!ハハハッ!」
そこには傷だらけにながら、赤く染まった剣を振り回す女の姿があった。
その姿は正に醜悪。
団員に聞けば彼女は1人で前線に駆け上がり、何名もの団員を殺したという。
紛れもなく狂気の存在だった。
「…ハエになっているな。」
「王子、どうしましょう?」
団員はみな彼女に殺意の目を向けていた。
それはそうだ。仲間を殺されたのだから。
しかし、僕は誰も予想していなかった判断をした。
それはほんの好奇心だ。
「捕獲して、国に持ち帰る。」
ーそして、今…彼女を見て気づいた。
この醜く美しい女を壊したいと。僕の手で。
ーーーーー
「さて、今のお気持ちは?」
「…あ。」
(し、死んだ…)
目の前の男は楽しそうに問いかけてきた。
男の目はまるで人間を見るよな目ではなく、玩具を弄ぶような…そんなイカれた目をしていた。
青く澄んだ目…。
その目を私は知っている気がする。
「あなた…どこかでお会いしましたでしょうか?」
「そんな堅苦しい言葉遣いじゃなくていいよ。苦手でしょ?君は。」
白髪の髪をなびかせ、不気味な笑みを見せる。
まるで私を分かった気になっているのが気に食わない。
私は拳を握りしめた。
(どうする…逃げ切れるか?1体1ならまだ可能性は。いや、コイツ…恐らく強い…!)
さっきから隙がない。ずっと逃げようとしているが、逃げる隙さえ与えてくれない。
コイツは…
「あなた何者です?」
「うーん、死体に答えてあげるほど僕も優しくないんでね。まぁ、どうしてもって言うなら」
私は男の言葉を最後まで聞かず遮り、
「そうですか…なら仕方ないですね。」
握りしめた拳を男の顔に送った。
パシッ
食い止められた。私の全力の拳を。片手で。
「あなたっ…なにもッ」
男はフッと鼻で笑い、私の胸ぐらに手を伸ばす。
「ガッ…!な、なにをッ」
「ハハッ。こんな傷物なくせに我儘な玩具は嫌いじゃないよ。」
(コイツっ…イカレてる。)
男は私を煽るように言葉を続けた。
「どうした?逃げないのか?このままじゃ、またあの牢屋行きだよ?」
ネジにヒビが入る。
「クソがッ…うるさっ」
そして、次の行動が私の運命を決めることになる。
「それとも…もう、裏切った?アスティカンの兵器さん♪」
私の中のネジが完全に壊れる音がした。
もう、破片も残らないほどに。
そして、私は
「ハハッ…死んで。」
気を失った。
…いや、そこからの記憶が無かったの方が正しいだろうか。
ただ、最後にひとつ覚えている言葉がある。
「ッハ!お前は本当、最高に醜いよ…。」
次回もよろしくお願いします。