・・・その後
短編にしては、少し長くなってしまいました。
ラスボスを倒した。
正直言ってラスボスなどザコとは言わないが、俺にかかれば大したことなかった。
あの日、仕事が休みだった俺は何時ものように趣味のゲームを楽しんでた。
人気アクションRPGの最新作だ。
本来なら強くてニューゲームで何周もして消化するイベントを、俺はひたすらレベル上げをし1周目での全イベントコンプを目指していた。
全イベントをクリアし、レベルマックスの状態でラスボスと対峙。
呆気もなく倒してエンディングを迎えた。
そしてエンディング後に出る
レベル、経験値、お金、武具、スキルなど全てを引き継ぎ最初から冒険を始めますか?
強くてニューゲームの選択肢を前に悩んでた。
正直、イベント、アイテム等、全ての項目は埋まっていた。
やり直したところで、やることがないのは確かだった。
が、ロスを感じているのも確かだった。
それに、のんびりストーリーを楽しむのも良いかも知れないと思い、俺は強くてニューゲームを始めるを選んだのだが、それが間違いだった。
画面から光が溢れ消えたとき、俺は見知らぬ草原にいた。
いや、正確には何処かで見たような景色・・・。
辺りを見回してるうちに、自分の身体に違和感を感じ確認すると、これまた何処かで見たような鎧に腰には剣を帯びていた。
「これって、ゲームクリア時に装備してた格好・・・?
て、もしかしてここはゲームの最初のマップ?」
そう考えると、見たことある景色も納得出来る。
「ゲームの中に取り込まれた!?
え、ネット小説で良くあるゲーム世界への転移ってこと・・・。
て事はアイテムもあるはずだが・・・」
身体のあちこちを探してみるが、装備してるもの以外はどこにも見当たらない。
「無いな。もしかして」
辺りに誰もいないことを確認してから
「アイテムボックス。システムメニュー」
人に見られていたら恥ずかしいが、小説なんかでは良くあるワードを口にしてみると
「うぉ」
目の前に半透明のウィンドウが開く。
左側にアイテムボックスが、右側にシステムメニューが。
ボックス画面もメニュー画面も、ゲームで良く見た画面とほぼ一緒だった。
ボックスの中身も、クリア時に持っていたものと同じだと思える。
「まぁ、正直すべての所持アイテム覚えてないから確信は無いんだけどね」
ひとりごちる。
システムメニューの方は少し違っていて、セーブ・ロードの項目がなくなっていた。
「他の項目はあるんだけどな・・・。
しかし、どうやってアイテム取り出すんだ?」
アイテムボックスに触れようとするが触れられない。
「ん~・・・。
回復ポーション」
アイテム名を声に出して言ってみる。
が手元には何も出てこない。
「むむむ。・・・ん?」
よく見てみると、回復ポーションの個数が減ってる気がする。
「回復ポーション」
もう一度、今度は個数を睨みつけるようにガン見しながら声に出す。
「減った。
そうかダメージ受けてないから効果が出てないからわからなかったのか。
しかし、いちいち声に出すのは恥ずかしいな」
今度は心の中で、回復ポーションと言ってみる。
「おぉ減った減った。良かった、これで人前でも使えるな。
次はシステムメニューだな」
その後、ブツブツと独り言を言いながら、色々と確認する。
「よし、次は実戦だ。
今まで大した運動もしてこなかった俺が、どこまで武器を扱えるのか試してみないとな。
たしか少し進むとチュートリアル戦闘があるはず」
記憶をたどり、道なりに先に進む。
その後は正直楽しかった。
面白くてやり込んだゲームを現実?で追体験出来るのだ。
ゲーマーとして面白くないわけがない。
サブクエストをこなしながら、メインクエストを進め、ヒロインやノンプレーヤーキャラと交流(この世界ではゲームとは違い自分の好きなように会話が出来るので、ノンプレーヤーキャラも普通の人のように反応を返してくれるのだ)。
女性キャラともゲーム内以上に仲良くなれた。
セーブは出来ないのが少し不安だが、隠しパラメーターも上げ、トゥルーエンドに向け何の不自由もなく進んでいく。
そして迎えたラスボス戦である。
倒した後にエンディングを迎える。
と言ってもゲームとは違いスタッフロールはなかったが・・・。
そして目の前に選択肢があらわれる。
レベル、経験値、お金、武具、スキルなど全てを引き継ぎ最初から冒険を始めますか?
強くてニューゲームの選択肢だ。
ゲームを現実として体感し、満足しきってた俺は“いいえ”を押そうとして止まる。
(ゲームだと“いいえ”を押すとセーブ画面が出てきてその後ホーム画面に戻されるはず。
でも、今はセーブ機能ないし、ホーム画面に戻ったとして、その時俺はどうなるんだ・・・?
元の世界に戻れるのか?
いや、もしかしたらこの世界が、俺の存在が消滅する可能性も?)
そう思った瞬間、怖くて“いいえ”を押せなくなってしまった。
長い間考えていた気がする。
が、答えが出るわけもなく、このまま選ばないわけにもいかなく、仕方なく“はい”を選ぶ。
選んだ瞬間光に包まれ、気が付くとオープニング終了後の最初の草原にいた。
(また最初から始まった。“いいえ”を選んだらどうなるか・・・。
いくらゲームとは違い、NPCと会話が出来るとはいえ、答えを知っている人間がいるとは思えない。
どうする?
確かラスト近くの城下町に王立図書館があったな。
なにかあるとすれば図書館だけか)
方針を決め、目的地がラスト付近なので、今回はサブクエストを無視し急ぎ足でメインクエストを進める。
無駄だと思いながらも、一応行く先々で情報収集も行う。
が、やはりというか案の定というか何の収穫は無かった。
そうこうしているうちに目的の城下町に着く。
と同時に、王立図書館へと駆け込む。
当たり前だが、蔵書が多すぎ一瞬フリーズする。
(さて調べるなら、世界の成り立ちや仕組みについてになるのか?)
それでもすぐに気を取り直し、案内板を頼りに世界史関連のコーナーへと向かい本をあさり始める。
(ゲームの取説に書いてあるような世界設定しか書いてない・・・。
当たり前といえば当たり前なのか)
次々と斜め読みして見るが元の世界へ戻る方法など微塵も記されてなかった。
自分一人で探すのも限界があるので、司書さんにも相談してみたが、俺の知りたい内容を理解してもらえなかった。
メインを進めてないので時間の経過は無いが、体感では数日こもって本を読み漁っていたと思う。
(どうする。このままでは戻れない)
本から答えを出すのを諦め考えにふける。
(このゲームの主人公は、この世界で産まれた人間でシリーズ通して同じキャラだ。
取り込まれたゲームはシリーズの8番目、1~7も年齢が違うだけで同じ主人公だ。
人気シリーズなので次作も出るだろう。
そうすると、“いいえ”を選んでも、そのまま人生は続いていく可能性はある。
が、それはあくまでも可能性だ。
今回の世界は、ラスボスを倒して終わりだ。
それにシナリオを進めないと時間すら経過しない。
ということは、この8のゲームが全てである可能性の方が高いってことか
どうする・・・)
考えても考えても答えなど出るわけがない。
(このままシナリオを進めないという選択肢もありか?
いや、そういうわけにもいかない。帰る方法があるなら帰りたい)
「くそっ、どうすりゃ良いんだ・・・」
図書館を出た後は、今まで以上に変えるヒントがないか慎重にシナリオを進めていく。
が、やはり無駄に終わり再びラスボスを倒していた。
そしてあらわれる選択肢
レベル、経験値、お金、武具、スキルなどから一部を引き継ぎ最初から冒険を始めますか?
が、今までとは微妙に違う。
全てではなく一部になっている。
(何故だ?)
“はい”を選ぶと、引き継ぎ可能な項目が表示される。
ここから3つ選べと書いてある。
(そう言えば、隠しパラメーターで、グッド・ノーマル・バッドにエンディングが分かれるみたいな話を聞いたことがある。
よくよく考えると、ちゃんと見てなかったがエンディングも微妙に違った気がする。
つまりノーマルエンドだったというわけか。
確かバッドエンドだと強くてニューゲームすら選べないらしい。
て事は、帰れないからと自暴自棄になって好き勝手やらかしたら、問答無用で終わりってことか!)
ますます帰る方法を探さないといけなくなる。
取り敢えず、引き継ぎ項目から、武具・レベル・スキルを選び決定。
また光に包まれ、最初の草原へと降り立つ。
その後、いったい何周したのであろうか。
もうわからないくらい同じことを繰り返した。
何度も何度も、あちこちを訪ね、全ての住民に尋ね、図書館だけでなくありとあらゆる所に存在する書物を読み漁り、それでも方法は見つからなかった。
最初の頃は、グッドエンディング以上の何かがあって、それを達成すれば帰れるのかも?とかも考えたが、そういうこともなく、周回するごとに心はすり減り、ただただ死にたくない一心でゲームとは違いスキップ出来ないシナリオを進めていっていた。
もう何度目かわからないエンディング。
レベル、経験値、お金、武器、スキルなど全てを引き継ぎ最初から冒険を始めますか?
何度目かわからない選択肢。
正直、もう疲れ果てていた。
どうせ“いいえ”を選ぶなら、もう1周だけして好き勝手やろうという気持ちもあったが、正直そこまでの気力ももうなかった。
(もういい・・・。もう疲れた。
いくら好きなゲームでも、延々と何回も何回も終わりなくやらされるのは地獄だ。
もうどんな結果でも良いから開放されたい)
そして俺は・・・ゆっくりと指を伸ばし・・・“いいえ”を選んだ・・・。
“いいえ”を選んだ彼はいったいどうなってしまったのでしょう?
そこは読者様の想像にお任せしたいと思います。
是非とも感想から、こうなったんじゃないかとご意見を頂けると嬉しいです。
さて、次回はどんな話を書こうかな?