9話『夢現』
ああ、眩しい。
窓から朝日が入り込んできているのだろうか。
いや、昨日は確かマイラがカーテンを閉めていたはずだから光が入ってくることはないだろう。
ということは、ここは夢の中?
「(なんだ……この部屋は……)」
奥に人間が簡単に入れるような巨大な釜がある。
その釜からは湯気が立っており、その後ろに誰かがいるようだ。
しかし、視界が少し歪んでいる上に少し曇っているためか顔までは見ることができない。
それに窓からの光も眩しくて外の景色は一切見えない。
ここはどこだ……?
夢だとしても、何故こんな景色が目の前に広がっているのか……。
「チタリン、フラプトラプト、マイセルアキアカセル、プリムナナ、アズラバミシェル、パンヤル、マリナイドフォクサー、シセル、カリント、マキナム……」
奥から男性のものか女性のものか分からない声がする。
あの巨大な釜の後ろにいる人物が声を発していることは確かだがよく見えない。
「全て入れ終わった。あとはこれにマイナムスキンを入れれば、液体が収縮していくはず……そこにアレを入れれば――――が完成するはずだ」
奥にいる人物は立ち上がり近くの棚を漁る。
そこから一つの瓶のような物を取り出して、釜の中へ瓶の中身を入れた。
あれは……ポーションの調合だろうか。
直感ではあるが私にはそう思えた。
「さて、これで―――まであと一歩。これまでの研究が漸く実を結ぶんだ。材料の入手に随分と長い時間を掛けてしまったが、これで私はきっと、あの地へ行けるようになるはず……」
釜に入っているであろう液体を長い棒で掻き混ぜながらそう呟く謎の人物。
セラやケルコニーと同じ白衣を着ていること、そして髪が白いことは分かるがそれ以上は分からない。
顔はぼやけていて見えないし、見ようと目を凝らせば凝らすほど周りが黒く翳んでくるのだ。
「収縮が始まった。あとはアレを…………聖物の砕片を入れれば完成だ」
その人物がゆっくりと振り返り、私の方を見る。
そしてすぐ近づいてきたと思ったら、私の入っている瓶を開けて私を掌へ取り出した。
どうやら最後の材料とは私の事らしい。
つまり私は聖物の砕片――ということになる。
「やっと会いに行けるんだ。……ひいおばあさまに」
ゴクリと息を呑んだその人物は私を手に乗せたまま釜へ移動する。
両手を天に掲げ、最後に、高らかにこう叫んだ。
「私だけの体質変換薬……これで完成だ――!」
▽
(ハッ……!? 何!? 何が起きたの!?)
真っ暗な視界。
夢は、私が釜に落とされた直後に終わりを迎えた。
目が覚める直前、夢の中の人物の笑顔が見えたような気がするがどのような顔かは覚えていない。
耳が長かったような気がするし、もしかしたらエルフだったかもしれない。
確信はないけれど……。
「……ん。あれぇ、どう……したの?」
聞き覚えの無い声がして再び動揺した。
それに先程から周りが暗い。
何かに視界を塞がれているのか、それとも暗い場所に幽閉されているのか。
ともかく人肌のような温かみがあることは確かなのだが……。
「うーん……。何か変な感じ……」
また聞こえた幼い女の子の声。
私は確か昨日マイラと寝ていたはず。
それに元々は枕の横にいたはずだ。
ということは、まさかマイラ……?
いや何で一晩寝ただけで声が幼くなるんだ、よく考えるんだ。
そうまだ夢の中かもしれない。
頬を抓ることはできないから……何かこう…………何とかなれ。
「布団の中……潜ってたのね……」
まるで私のことを知っているような素振りをしている。
「今の時間は……7時……? もう起きないと……」
ガサゴソと音がして布団が捲れる。
「ふぁ……、あ、え? 何か寝巻がちいさ――は、えっ――はえええええええええぇぇぇえ!?」
その謎の女の子の出す大きな声に驚き、思わず跳びはねてしまった。
「か、からだ、身体が……縮んでる!?」
TSではないです。ただのちょっとした幼児化です。
次話もよろしくお願いいたします!