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スライム育成論  作者: 桜木はる
旅の始まりは突然に
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6話『港町、到着!』

 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン――。

 身体が揺れている。

 どうやら私が眠っている間に、馬車は出発していたらしい。

 マイラは既に起きていたようで、窓から外を覗いてぼんやりとしていた。


「そろそろ森を抜けますからねぇ」


 商人の言葉にマイラが反応する。

 記憶の中の地図によれば、この森を抜ければフェディロニーがもう近い。

 まさか目が覚めてからすぐにこんな旅をするとは思いもしなかったが、少し楽しみな自分もいる。

 フェディロニーとはどのような場所なのだろう。

 セラは港町だと言っていたし、確か交易などが盛んだとも言っていた。

 とはいえ目的はあくまで私の正体の究明。

 観光に行くわけではないのだ。


「あなたの事が分かると良いけど……。あとでケルコニーさんの住んでいる所とか、商人さんに訊いておかないとね」


 そう言えば、商人はケルコニーとかいう生物学者と交流したことがあるとか言っていたか。

 取引相手とはいえ商人と生物学者の間で何を取引するんだ?

 木箱を見る限り、野菜や果物などの食料や何かしらの道具を取り扱っているように見えるが……。

 あるとすれば食料とか?

 そもそも生物学者って何? 魔物学者と何がどう違うんだ?

 生物学者の内訳の1つが魔物学者なんじゃなくて、生物学者と魔物学者は別のカテゴリ?


「それにしてもこのワンピース、こんなに大きかったかな……。私、丁度いいサイズのもの買った気がするけど……」


 そう言い、ワンピースの袖を抓るマイラ。

 私からしてみれば特に変わっているようには見えない。

 本人の気のせいだろう。

 丁度いいサイズと言っても日によって丁度いいサイズは変わるわけで、ワンピースを買った日は偶々身体がいつもより大きかったのかもしれない。

 私は服を着ているわけではないが、昨日より身体が張っているように感じるし、そういうものだろう。


「森を抜けますよー」


 商人の声がした途端に、反対側の窓から差し込む光が強くなった。

 森を抜けたことで、木々によって遮られた光が一気に入り込んできたようだ。


「町が見えてきやしたよ」


 窓から身を乗り出して前方を見るマイラ。


「まあ! あれがフェディロニーですか?」

「そうです。あの大きな白い灯台が目印ですねぇ」

「海も綺麗ですね!」

「そうですねぇ。フェディロニーは高度が低いので、ここからだと海と町が一望できて良いかもしれません」

「確かに……。写絵(しゃしん)でも撮って、今度パパに見せてあげればよかったかも……」


 私は景色を見ることはできないが、何となしに情景は思い浮かぶ。


「何で白い壁の家が多いんですか?」

「ええと……日差しが強いからだとか、風化や汚れを防ぐための素材が白いからだとか、色々あるみたいですが、私もよく知りませんねぇ……」

「はあ」


 険しい顔をしているマイラだが、あまり分かっていなさそうだ。

 私はよく知らないし、想像もできない。


「――さて、そろそろ着きますよ」


 それから少しして、町に辿り着いた。

 町の入り口付近で馬車が止まる。

 商人が荷台の白いカーテンを開けて私たちを外へ出してくれた。

 それにしても、道中は本当に何もなかったな……。


「さてと……ん? マイラ――さん?」

「はい?」

「い、いや……何でもないですが……。そうだ、ケルコニーさんのお家教えましょうか?」

「あ、是非教えてください」

「ええとですねぇ――」


 商人は指で灯台や家を指して、ケルコニー宅までの道のりを示した。

 時々マイラの顔を見て頭を掻いている。


「それでは私らはこの辺で……。その子の事が分かるといいですねぇ」

「ええ。では私も失礼しますね。ありがとうございました」

「はあ……」


 商人は何か浮かない様子であったが、とりあえず目的地には到達した。

 あとは生物学者のケルコニーに会いに行くだけだが、事前の連絡なしで対応してくれるものなのか。


「よし、まずはご飯と観光ね」


 マイラ的には、すぐにケルコニー宅へ向かう方針ではないらしい。

 私はすぐに向かおうが観光しようが何でもいいのだが、どうせなら私だけ預けて行った方が手荷物が減って楽なのではないかと思う。

 まあ、ここで思った所でマイラには伝わりはしないのだけれど。


「そういえば、あなたは何も食べなくていいの?」


 マイラが私を上から覗き込む。

 私自身、お腹が空くという概念がよく分からないから結構なのだが、何かしら食べた方が良いのだろうか。

 健康上の問題……というより、生物は食料を摂るものだろう。

 何も食べなかったら、私が生物じゃないことになりかねない。

 それは何か嫌だ。


「それにしても、風が心地いいわね。潮風はお肌に良くないらしいけど、たまにはこういう所に来るのも新鮮で良いね。……この気持ちわかる?」


 もしかして私に話しかけてきてる?

 とりあえず身震いでもしておこう。


「……何? 怖いの?」


 私の行動ボキャブラリーが1つしかないため、そう読み取られても仕方ない気がする。

 これは馬車で(ようや)く気づいたことだが、跳んでみたり歩いてみたり、或いは何か物を掴むなり、色々と出来ればいいものの、今はこれが精一杯なのだ。

 跳べば喜びや肯定の意味を表せるかもしれないし、歩ければマイラの負担は減るだろう。


「怖くはないのかしら……」


 そう、怖くはない。

 私にはその気持ちが微塵も分からないが、適当な「そうですね」という返事であることを悟ってほしい。


「うーん。コミュニケーションについても、ケルコニーさんに訊いてみようかな……」


 それだったらいち早く行くべきなのでは。


「ま、とりあえずご飯と少し観光してからでも遅くはないよね」


 私の考えを無視するかの如く切り替えが早い。


「よし、とりあえずご飯食べれる所探そう!」


 そう言ってマイラは歩き出した。

一体主人公の正体は何なのか……。物語もいよいよ大詰めです。(うそ)

次話もよろしくお願いいたします!

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