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スライム育成論  作者: 桜木はる
旅の始まりは突然に
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5話『聖物』

 ――それからしばらくして、今回留まる泉に辿り着いた。

 夜の静けさ、また不気味さはあるものの、焚火で泉から取れた魚を焼いて食べるという雰囲気はとても良い。

 マイラも少し眠そうではあるが、心なしか雰囲気を楽しんでいるようにも見える。

 私はマイラの膝の上でただ呆然と3人の会話を聞いているだけだが、馬車に乗っている時より遥かにマシである。


「そういえば……マイラさん? その丸い物体はなんでぇ?」

「ん、この子ですか? 実は――私にもサッパリなんです」

「……サッパリ?」


 首を傾げる商人に、マイラはうんうんと頷きで答える。


「それって魔物か? それとも何かしらの生物か?」


 護衛の男が目を細くして、私をまじまじと見つめる。


「それすらも分からないんですよね」

「『それすらも分からない』? どういう事だ?」

「実は、息子が冒険者になるときかなくて、それなら私も全力で応援しようと冒険者の必需品らしい治癒のポーションを1壺分買ったんですけど……その中にこの子がいて」

「1壺も……?  はぁ、それじゃあ差し詰めポーションから生まれた生物ってことですかねぇ?」

「まあ、その可能性もあるかもしれませんね」

「ポーションから生まれる生物なんて聞いたことないぞ。三大陸を歩き回っている俺ですら聞いたことが無い」


 絶対に『三大陸を歩き回っている俺』の情報いらなかったと思う。


「一応、この子の事を調べてもらうために、フェディロニーに行くんです。優秀な生物学者さんがいらっしゃるみたいなので」


 私の身体を手で擦るマイラ。

 やはり少し擽ったい。


「生物学者……。あっ、ケルコニーさんですかねぇ……。確かに、彼女は色々と凄い方だと思いますよ」

「ケルコニーさん……。お知り合いなんですか?」


 マイラが商人に顔を向ける。


「まあ一応。取引をする方でもありやすので」

「商人さんの人脈って凄いですね」

「はは、そんな事ないですよ」


 マイラが微笑むと、商人は照れくさそうに頬を掻く。

 それとは別に護衛の男は夢中で魚を貪っている。


「しょれにしてもアレだな。何者か分からない生物を自分のしょばに置いふぉくのって怖くないか?」


 口に物を含んだまま喋る護衛の男。

 マイラは焼き魚を飲み込み、話を始めた。


「そんなことはないですよ。この子結構大人しいし、ちゃんと言うことは聞いてくれるみたいなので」

「んぐっ、ふぅ。……そういうもんか? 未知の生物は何を考えているのか分からんぞ?」

「まあ……実際、何を考えているかは分からないですね。けれど、恐怖は感じることができるみたいで、怖い時は身震いしてくれるので、怖いっていう感情はあるんだろうなと思ってます」

「なるほどな。ビビリなのか」


 なんかムカっとくる、その言い方。


「お前さんには懐いているのか?」

「さあ……。今日出会ったばかりなんですけど、私の言うことは聞いてくれているみたいなので、懐いているというより……忠実な魔機(ロボット)みたいな?」

「うん……でも魔機には見えねぇよなぁ」


 護衛の男が眉を(しか)める。


「ゼリーっぽいし、食い物なんじゃないか?」

「……食べ物が恐怖で身震いします?」

「しないな」


 護衛の男がガハハと笑う。

 食べ物が意志を持っているはずないだろう。


「あぁ……そういえば、その子に似たようなモノは聞いたことがありますねぇ」


 商人が口を開いた。

 そして徐に立ち上がり、その辺にある木の棒を取って来て、再び焚火の前で座った。


「えぇとですねぇ」


 木の棒で地面に何か絵を描き始める商人。

 蝶の羽のようなものが生えている人型の何かに、隣には丸い物体。

 どこかで見覚えがある。

 そうだ、夢の中でこんなものを見たような……。


「とある国の書庫に1冊だけ収められている伝記ですが、『精霊見聞録(せいれいけんぶんろく)』と呼ばれる物です。まあ見聞録と言っても、非現実的なあまり嘘だと言われていますがねぇ」

「どういうお話なんです?」

「精霊という種族の少女が、人間の家族と共に幻の聖域に帰るという話なんです。まあ、精霊なんてものも幻の聖域なんてモノも実際には誰も見たことはないんですが……。そこに登場するのが、柔らかく丸い身体をした聖物(スライム)と呼ばれるモノです」

「はあ。それがこの子だと?」

「さぁ……。あくまで伝説なので。それに、聖物(スライム)は聖域外では凶暴だと書いてありやしたので、その子とは一致しませんし」

「まあ凶暴そうには見えないですね」

「そうでやんしょう? まあこれはあくまで伝説ですから……。やはりケルコニーさんに訊くのが確実だと思いますねぇ」

「やっぱりそうですか」

「ええ」


 商人が優し気な顔でコクリと頷く。

 ここまで聞く限り、夢の中の情景然り身体然り、私の正体が聖物(スライム)というモノに近いということが分かった。

 それでも尚、あくまで私視点の話であって他の人に伝わる話ではない。

 そもそも伝説上の生き物が普通に壺に入ってるのがおかしな話か。


「さて、そろそろ寝ましょう。明日は早く出ますからねぇ。マイラさんは馬車の中で寝てください。私どもは収まらないでしょうし、外で寝ますんで」

「お気遣いありがとうございます」

「いえいえ」


 マイラは立ち上がり、頭を軽く下げてから馬車へと歩いて行った。

 商人と護衛の男は私たちが馬車に向かっている途中でも世間話をしていた。

 あの2人、割と仲がいいのか楽しげに話している。


聖物(スライム)かあ……」


 馬車に乗り込み、横になりながらそう呟くマイラ。

 相変わらず、私を抱きかかえたままでいる。


「ずっと思っていたけど、触り心地良いわね。あなた」


 私を擦る手は少しひんやりとしている。

 まるで子どもをあやしているかのような優しい触り方だ。

 私は別に子どもじゃないのだけど。


「……それじゃあ、おやすみ」


 そう言ってマイラは目を瞑った。

 数分後には寝息が聞こえてきて、私もつられるように眠りについた。

次話もよろしくお願いいたします!

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