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スライム育成論  作者: 桜木はる
故にポルツィオネ
37/39

37話『誰が為』

(更新遅くなりました)

 森を抜けて、広場のような場所に出た。中央には大きな切り株があり、その切り株の上には四角いクッションのようなものが置いてある。

 エルフはゆっくりとその切り株に近づき、ちょこんと座った。


「例えば、マイラさんが何かしらの生物を飼っているとしましょう」


 手を横に差し伸べるエルフ。あたりに飛んでいた()()が、エルフの掌に乗る。それは人間のような姿をしている生物で、透明度の高い羽根を背中から生やしていた。……まるで、神話に出てくる妖精のようだ。


「きっとあなたにはこういった言葉が出てくるはずです」


 妖精を両手で優しく包み込み、手を膝の上に乗せる。


「――教育(せきにん)


 マイラが静かに俯く。


「私にも責務があります。先代から引き継いだこの地……そしてこの地に住まう生物を皆見守り育てること――しかし、それには()()()()()がありました」

「……問題ですか?」

「ええ。とても単純で明快ものです」

「……」

「……数が多すぎるのです」

「……え」


 エルフは遠くを見つめ、マイラは目を丸くしていた。


「この世界には何千、何万もの生物がいます。種類も多く、それらすべてをまとめることは極めて難しいのです」

「……」

「だから私は、1種類の生物に対して1つの育成論を作ることにしました。その育成論を適応すれば、その1種類がそれだけで完結するように、と」

「……なるほど」

「でも、そうはいかなかった。皆さんも聞いたことがあるでしょうか。()()というものを」

「それは当たり前です」

「……ええ。もちろん、この世界に住む生き物にもそれぞれ個性はあります。それも、数えきれないほど……把握しきれないほどに」

「……」


 マイラは静かに頷き、ユウアの頭を撫でる。


「私には、それを管理できる保証はありません。現実に干渉できないのに、何故現実の問題に対処できるでしょうか。私には、この教育(せきにん)に耐えられる自信がなかった。……端から、私の育成論は破綻していました。でも、そこに希望が生まれた。それが、あなた――リースだった」


 エルフが私の顔を見る。


「私……」

「あなたに、私の育成論を引き継いでもらいたい……ずっと、そう考えています」

「…………」

「人間の本質を理解でき、人間の世界に溶け込めて、聖物のことを理解できる人……そう、あなたに」

「……断る」

「何故です?」


 私はマイラから降りて、エルフの方へと歩いて行った。


「あなたの育成論は完璧ではない。そもそも、生物に育成論なんてものが存在したら、この世界はもっとまともになっているはずだ」

「……言い返せませんね」

「…………この育成論は私が完成させる。今のあなたを尊敬しようなんて気は微塵も起こらないが、もしもその聖物スライムが外の世界に影響を及ぼしかねないのであれば、私はやる」

「…………()が為ですか」

「…………()()()()()だ」

「……」


 エルフが目をつむりうつむく。そして、ため息をついて遠方の山を見る。


「……まったく、誰に似たんでしょう」

「……さあ」

「責任は……とれるんですか?」

「……正直、『はい』とは言えない。けれどやってみるしかない。これから先何が起こるか分からないんだ。それなら先に何かしら手を打っておいた方が良い。……あなたも同意見だろう?」

「……ええ」


 手の上に乗せていた生物を優しく振って羽ばたかせるエルフ。


「私は――とんだ臆病者ですね」


 エルフは小さな声でそう呟いた。

次話もよろしくお願いいたします!

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