37話『誰が為』
(更新遅くなりました)
森を抜けて、広場のような場所に出た。中央には大きな切り株があり、その切り株の上には四角いクッションのようなものが置いてある。
エルフはゆっくりとその切り株に近づき、ちょこんと座った。
「例えば、マイラさんが何かしらの生物を飼っているとしましょう」
手を横に差し伸べるエルフ。あたりに飛んでいた何かが、エルフの掌に乗る。それは人間のような姿をしている生物で、透明度の高い羽根を背中から生やしていた。……まるで、神話に出てくる妖精のようだ。
「きっとあなたにはこういった言葉が出てくるはずです」
妖精を両手で優しく包み込み、手を膝の上に乗せる。
「――教育」
マイラが静かに俯く。
「私にも責務があります。先代から引き継いだこの地……そしてこの地に住まう生物を皆見守り育てること――しかし、それには大きな問題がありました」
「……問題ですか?」
「ええ。とても単純で明快ものです」
「……」
「……数が多すぎるのです」
「……え」
エルフは遠くを見つめ、マイラは目を丸くしていた。
「この世界には何千、何万もの生物がいます。種類も多く、それらすべてをまとめることは極めて難しいのです」
「……」
「だから私は、1種類の生物に対して1つの育成論を作ることにしました。その育成論を適応すれば、その1種類がそれだけで完結するように、と」
「……なるほど」
「でも、そうはいかなかった。皆さんも聞いたことがあるでしょうか。個性というものを」
「それは当たり前です」
「……ええ。もちろん、この世界に住む生き物にもそれぞれ個性はあります。それも、数えきれないほど……把握しきれないほどに」
「……」
マイラは静かに頷き、ユウアの頭を撫でる。
「私には、それを管理できる保証はありません。現実に干渉できないのに、何故現実の問題に対処できるでしょうか。私には、この教育に耐えられる自信がなかった。……端から、私の育成論は破綻していました。でも、そこに希望が生まれた。それが、あなた――リースだった」
エルフが私の顔を見る。
「私……」
「あなたに、私の育成論を引き継いでもらいたい……ずっと、そう考えています」
「…………」
「人間の本質を理解でき、人間の世界に溶け込めて、聖物のことを理解できる人……そう、あなたに」
「……断る」
「何故です?」
私はマイラから降りて、エルフの方へと歩いて行った。
「あなたの育成論は完璧ではない。そもそも、生物に育成論なんてものが存在したら、この世界はもっとまともになっているはずだ」
「……言い返せませんね」
「…………この育成論は私が完成させる。今のあなたを尊敬しようなんて気は微塵も起こらないが、もしもその聖物が外の世界に影響を及ぼしかねないのであれば、私はやる」
「…………誰が為ですか」
「…………家族のためだ」
「……」
エルフが目をつむりうつむく。そして、ため息をついて遠方の山を見る。
「……まったく、誰に似たんでしょう」
「……さあ」
「責任は……とれるんですか?」
「……正直、『はい』とは言えない。けれどやってみるしかない。これから先何が起こるか分からないんだ。それなら先に何かしら手を打っておいた方が良い。……あなたも同意見だろう?」
「……ええ」
手の上に乗せていた生物を優しく振って羽ばたかせるエルフ。
「私は――とんだ臆病者ですね」
エルフは小さな声でそう呟いた。
次話もよろしくお願いいたします!




