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スライム育成論  作者: 桜木はる
故にポルツィオネ
34/39

34話『Sanctuary』

 光に入ると、そこは見覚えのある空間だった。

 私がゴブリンを殺した時に入った森。

 そうか。ここが聖域だったのか……。


「綺麗……」


 目の前の景色にマイラが口をぽかんと開けている。

 白い木々や草木に、透明度の高い泉。そして、奥には巨大な崖から水が大量に流れ落ち、滝になっている様子が伺える。透明な球体が至る所に浮いており、それはあたりの景色を反射していて鏡のようだ。


「ここが聖域――って、マイラさん。手……」


 ユウアが頬をポリポリと掻く。


「え、あ、ごめんなさい! なんか手が勝手に……」


 すぐに手を離して顔を隠すマイラ。

 ここでも親子でのろけるのはやめてほしいな。私の気分にもなってほしいなあ……。


「それにしてもこんな綺麗な場所……。あの子たちがここを守る理由は、もしかしてこの景色を守るためなのかも」


 マイラが近くにあった切り株にちょこんと座る。よく見ると、マイラの横にはもう1つ切り株が並んでおかれている。まるで、私たちが来るのを見越していたかのように……。


「ユウアくんも座った方がいいんじゃない? ちょうどほら」


 マイラが隣の切り株をポンポンとたたく。


「ここ、空いてるよ。ユウアくん」


 ユウアは軽く頷き、その切り株に座った。


「…………」


 少しだけ沈黙が訪れる。

 時折吹く風は春風のように温かく私たちを包み込む。心地いい。いれることなら、ここにずっといたいと思えるほど心地いい。


「リースのひいおばあさん――メアさんは何処にいるんだろうね」

「……何処にいるんだろうな」


 私はもう気づいている。

 メアさまとは一度、ここで出会っていた。

 あの時のあのエルフ……あの人がメアさまだ。ただ、メアさまは私がひ孫であることは気づいていなかった。私の姿が聖物(スライム)だったからなのか、それとも単純に知らなかっただけなのか……。


「……どこかで見ているんだろう」


 私はポケットから出てマイラの太ももの上に立った。


「分かっているんだ。何となく、気配を感じれるから」


 私は後方にある林に向けてそう言った。


「……あら、バレていたんですね」


 林から今にも消えてしまいそうな綺麗な声がした。


「区域へようこそ。ここに人が来るのは千年ぶりくらいです」


 林の奥から姿を現したのは、あの時のエルフだった。


「……え、誰ですか?」


 マイラが後ろに振り向く。


「……初めまして。確か……マイラさんでよろしいのでしょうか」

「そ、そうですけど……」

「私は……そうですね。大精霊――いえ、管理者とでも言っておきましょう」

「管理者……? ということは、リースの――」

「…………リース? ああ、その聖物のことですね」


 どうやら、本当に私がひ孫であることを知らないらしい。


「それにしても、()()なんて懐かしい名前……久々に聞きました」

「やっぱり……! リースのひいおばあさんですよね……?」

「…………私がひいおばあさん?」


 そのエルフは一瞬何かを考えるかのように顎に手を当てた。


「ああ、そういうことですか。その聖物()――いえ、リース。あなたは私の子孫なのですね。ということは、メルサの――――あっ、それよりも()()は……あの子は元気にしていますか?」

「……おばあさまは、私が国から出ていくときには既に他界していた。重い病でな」

「……そうですか。でも、血は途絶えずにメルサは続いているのですね。……よかった」


 エルフが胸をなでおろす。


「さて、積もる話もあるでしょう。……どうでしょう。せっかくなので、歩きながらお話しませんか?」


 エルフが私たちの前に出る。


「……ああ、わかった」





 この森には泉や滝などの自然で形成されているものしかない。少し歩いてみても、見えるものは木や草木、湖であったり遠くにそびえる山であったり……。ただ、何も変わらない光景であるにも関わらず、不思議と飽きてはこない。


「それにしても驚きました。まさか()()で来るなんて」

「……えっ」


 ユウアが立ち止まり、マイラの顔をじっと見つめる。


「もしかして、母さんなの……?」

「…………うん」

「じゃあ、そのリースさんって……」

「この子は、ユウが冒険に出るときに壷から出てきたあのぷにぷになの」

「そう……だったんだ……」

「ごめんね。本当は隠すつもりはなかったんだけど、色々と複雑で……」


 容姿が前のそれとはまったく異なっているのだから、それも当然だろう。


「……ううん、いいんだ。何となく、そうじゃないかって思ってたから」

「うん……」


 少し気まずい空気の中、再びマイラとユウアは歩き始めた。


「それにマイラさん。あなたには『精霊の血』が通っています」

「…………え?」

「私が見る限りでは、あなたは人間でもエルフでもない。()()()()()()です」

「……ど、どういうこと? リース?」

「い、いや、私に訊かれても……」

「きっと()()()の子孫なのでしょう。おそらくは人間の子と交配して、子孫を残した結果、人間の血の方が強くなったと……」

「あの子……ですか?」

「…………ええ。およそ千年前の話ですから忘れてください。けれど、あの子もあの子なりに家庭を持って子どもを育んだのですね……よかった……」


 そのエルフは小さくため息をついた。


「私が人間からこんな姿になったのとも関係があるんでしょうか……」

「ええ。おそらく、聖物スライムであるリースに触れることにより、精霊の血が活性化したのでしょう。その結果、体が変容してしまった……といったところでしょうか」

「……なんというか、運命なんですかね」

「…………さあ、どうでしょう」


 体や顔を触るマイラを見てから、遠くの空を見つめるエルフ。


「さてと、そろそろ本題に入りましょう。あなたたちがここに来た理由を――話していただけますか?」

次話もよろしくお願いいたします!

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