29話『見知った顔』
酒場の奥で談笑をしていた人物……というか一パーティ。
それは、私たちが昨日まで旅を共にしていた奴らだった。
「……なるほどな」
顎に手を当てるチクチク緑髪男。ガノックである。
「その小さいのが行方不明の調合師だったと」
「はい」
マイラが頷く。
「で、そいつが聖物って生物になって、ラミア森林にあると云われる聖域に行きたいと」
「はい」
「なんとも現実離れした話だな」
「……正直、私もそう思います。ただ、『聖域がない』という確証もありませんから」
「それはそうだな……」
「なので、その聖域があると云われているラミア森林の遺跡までお供していただけないかと」
「…………報酬次第といったところだな」
「えっと……」
マイラが硬貨の入った小袋を取り出す。
「じゃあ、金貨3枚で」
「……まあいいだろう。俺はそれでいいが、お前らはどうだ?」
ガノックが他3人に目をやる。1人は魔法を得意としている弱気な青年カルナ。もう1人は無口なスキンヘッドの男、ジゴ。最後に、赤い髪が特徴的な大剣使いのクラウス。
3人はガノックの問いかけに頷いた。
「それから、昨日クラウスが弟子をとっちまってな……。そいつも連れて行ってもいいか?」
「お弟子さんですか?」
「ああ」
ガノックがキョロキョロとあたりを見回す。そして、腰を落としてマイラの耳元でつぶやく。
「もしかしたら、マイラ。あんたのよく知るヤツかもしれない」
「え? なんで私が知ってるんです?」
「……まあ、実際に会ってみた方が早いだろう。今、少しばかり用を頼んでいたところだ」
「はあ」
「――と、噂をしてたら来たみたいだな」
ガノックが酒場の入口に目を向ける。
「クラウスさーん! ポーション買ってきました!」
「この声……まさか――!」
マイラが驚くように勢いよく振り返った。一瞬振り落とされそうになるが、なんとか服を掴んでしがみついた。
驚きを隠せない様子のマイラを横目に、私も酒場の入口を見る。そこには、見覚えのある少年の姿があった。
「ユウ!?」
酒場に響き渡るように大きな声をあげるマイラ。
そこには、つい最近、冒険者として友人たちと旅に出たギザギザ茶髪の少年、ユウアが立っていた。ユウアはマイラの息子……。驚くのも当然である。
「えっと……どなたですか?」
マイラはすぐに何かを理解したようで、すぐに口を両手で押さえた。今のマイラは別人も別人。ここでもしマイラであることが判明してしまうと、色々と厄介なことになることを察したのだろう。
「あ、ごめんなさい……。ええと、えー……マイラです……」
「マイラ……さん? 俺の母さんと同じ名前……」
数秒の静寂が酒場を包む。
同じ名前も何も同じ人物だ。見た目どころか種族も変わっているが。
「へ、へぇ~、そうなんですね。えっとぉ、あなたの名前は?」
「俺はユウア・オリキスって言います。ユウアって呼んでください」
「…………ユウアくんかぁ……そっかぁ……」
私もマイラもユウアが冒険に出たあの日の姿ではないし、分からないのも必然だろう。
それにしてもマイラの余所余所しさがなんとも言えない。
「な、言っただろ。名前を聞いたときにピンと来たんだよ」
ガノックが腕を組みながらそう言った。
「神様はなんでこんなイタズラをするんだろう……」
と、静かにため息をつくマイラ。世間は狭いな。
「それで、マイラさんは何でここに? まるで師匠たちと知り合いかのような……」
「ああ。マイラはつい先日、俺たちがここまで護衛していた依頼人だ」
「……あ、カルナさんが仰っていた、すごい防御魔法を使うという……?」
「そうだ」
「エルフの方だったんですね! 俺と同じ年くらいなのに、エメラルド級の冒険者であるカルナさんが敵わないような魔法をいとも簡単に使うとか」
「うん……そうですね……」
マイラが目をつむりながら、何か言いたげに唇を噛む。
まあ……見た目年齢だけで見るとそうなるのか。それにしても、マイラは息子にも自分の力について話してもいないのか……。いや、逆に言えば、その力を求められることがなかった平穏な日々を送れていたとも言える。
「ああ。それで、今回もマイラを護衛することになった。目的地はラミア森林だ」
「分かりました、ガノックさん。俺は何をすればいいですか?」
「……馬車の中でマイラを護衛していてくれればいい。何かあればすぐに伝えてくれ」
「はい! わかりました!」
ユウアが元気よく返事した。
「ええと……じゃあ、そろそろ外に馬車が用意してあると思うので、今すぐ出発しましょう」
それから私たちは酒場の外に出て、用意された馬車に乗った。馬車はフェデロニーからここに来るときの馬車と同じような見た目をしていた。
昨日と同じようにガノックたち4人は馬車の外、私とマイラ、そしてユウアは馬車の中に入った。
「さて、それでは出発しますよぉ」
馭者が私たちに一声かけると、馬車はラミア森林へ向けて外へと走り出した。
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