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スライム育成論  作者: 桜木はる
故にポルツィオネ
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28話『心配の裏返し』

 街に戻った私たちは、まずはあのポーションの店にやってきた。店主にはこれまでの経緯や、私が調合師であることなどを伝えると、非常に驚いていた。

 それもそのはず。

 まあ普通、あのぷにぷにした物体が私だとは気づかないのは当然だろう。私だって他人が別の姿に化けていたら分からない。たぶん。

 マイラは約束通り美容系ポーションを一式受け取った。マイラはそれはそれで嬉しそうにしていたが、一方店主は困っていた。私という取引相手がいなくなったことにより、ポーションが不足しているという。それに、私も薄々感じていたが、私はこの体で調合師として生きていけるのだろうか?

 お腹が減らないのはいいとして、調合師としてまだまだやりたいことはあったから。やめるわけにはいかない。この小さな体でもできるように釜を作ってもらうことも視野に入れておかないと……。


「それでは、また買いに来ますね」

「はい、ありがとうございました」


 そうこう考えているうちにマイラが店を出る。扉がガチャリと閉まり、マイラが「んーっ」と言いながら大きく背を伸ばす。


「もう夕方だね。今日は一先ずどこかに泊まって、明日出発しようね」

「そうだな」


 夜の探索は危険だ。魔物も狂暴化する種がいるし、なにより今回目指す場所は森そのものなのだ。何かの拍子ではぐれてしまう可能性もある。


「とりあえず宿をとって、ご飯食べに行こうね。あ、でも、ご飯食べれる……?」


 肩にちょこんと座る私に、横目で呼びかけるマイラ。


「食べることはできると思う」

「味って感じるの?」

「……さあ?」

「お腹は空かないの?」

「……空かないな」

「空かないんだ。すごいね」


 他愛もない会話をしながら、木造の小さな宿屋に入る。話をしながら空をずっと眺めていたせいか宿屋の外観はわからなかったが、内装を見るにフェデロニーで泊まったようなどこにでもあるような普通の宿のようだ。


「1名様ですか?」


 少し痩せた男性の受付がマイラに尋ねる。


「えぇーっと……2名……かな?」

「え? 2名様ですか?」

「あ、でも1人部屋で大丈夫です」

「……? しょ、承知しました」


 受付の男性は終始疑問を隠せない様子であったが、不思議そうにしながらも1人部屋分の料金をマイラに請求した。マイラが小袋から銀貨を2枚取り出して支払うと、受付の男性は鍵を差し出した。


「それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」


 マイラがカギを受け取ると、受付の男性はそう言って一礼した。


「部屋に荷物置いたら、ご飯食べに行こうね」


 マイラがそう言い、受付のカウンターのそばにある階段で2階へと上がった。





 その後、街中の料理店で夕食を済ませて、私たちは宿屋の部屋に戻ってきた。

 マイラがベッドの上で欠伸を漏らす。つられるように、私もマイラの太ももの上で欠伸を漏らした。


「お風呂入ってくるね。あ、一緒に入ろう。さみしくなっちゃうよね」

「え? いや、さみしい訳ではないけど」

「そんなこと言って……。ぷにぷにしてた時は寂しくて弾けてたのに」

「寂しくて弾けたわけじゃないぞ」

「ほんと?」

「何とか手を出そうと思って、体を伸ばしたらああなっただけだ」

「……ふぅん。じゃあ、森の中で私がトイレに行ったときに付いてきたのは?」

「あれはその……色々とあって心配になってな」

「……そっか」

「私は大丈夫だから、マイラは入ってきていい」

「……分かった」


 少し不満そうに頬を膨らませるマイラ。

 むしろ寂しがっているのはマイラの方なんじゃないのか……? 私は長らく孤独と渡り歩いてきたようなものだから、独りになるのはそんなに気にならない。

 ……マイラは常に家族がそばにいたからな。

 確か、マイラが家を出る前にもそんなことをぼそっと呟いていたような気がする。家族が心配だとか、確かそんなこと……。

 ……勝手に城を飛び出してきたが、もしかしたら両親は私を心配していたりするのだろうか。当時は少し外に散歩に行っただけでも物凄く怒られた記憶がある。私が家を出る時だって、ひどく怒っていた。もしかしたらそれは、()()の気持ちの裏返しなのだろうか。

かれこれ十年前もの話だが、もしかしたら私、ひどいことをしたかもしれないな…………。





 それから私たちは何事もなく夜を過ごして宿を出た。


「さてと……。とりあえず何から始めよっか?」

「まずは――」


 まずはラミア大森林に行くまでの馬車を確保するために、酒場へ向かった。

 この街の酒場は至る所に点々とあるようで、フェデロニーの酒場よりも一回り小さい木造の家屋だった。ひし形の『酒場』という文字とガラスのコップに入った飲料のマークの入った看板がなければ、大抵の人は見逃しそうだ。

 両開きの扉の片側のみを開けて酒場に入る。酒場は想像していたよりも中は広く、丸い机が4個ほど並べられていた。左側はカウンターになっており、カウンターには馬車の受付や依頼が貼ってある掲示板などが設置されている。人は少ないが、案外しっかりとした酒場だ。

 奥に4人組の客もいるようだ。

 なんかちょっと見たことあるような気がする。


「すみません、馬車をお願いしたいのですが」


 馬車の受付にいる、おでこに小さな赤い角の生えた魔族の女性に話かけるマイラ。


「どこまでですか?」

「ええと、ラミア森林までなんですけど……」

「え、ラミア森林ですか? 一応行けますけど……」


 受付の魔族は白い髪を耳にかけて、一枚の紙を見る。


「ラミア森林には入口と定められている場所までしか行けないのですが、それで大丈夫なら……」

「まあ、大丈夫……だよね?」


 肩に乗る私に声をかけるマイラ。


「私に聞かれてもな……。ラミア森林は危険な場所だし当然なんじゃないか?」

「……それもそうね」


 受付の魔族は、マイラの肩に乗って喋る私を見て、ぽかんとしていた。おそらく、「なにこの生物」とでも思っているのだろう。私がこの魔族だったとしてもそう思う。


「じゃあそれお願いします。この後すぐに出発したいんですけど、今準備していただくことはできますか?」

「少し時間はかかりますが……可能ですね」

「じゃあお願いします」

「分かりました」


 受付の魔族はマイラから名前を聞くと、手早く書類を捌いて裏へ向かった。


「馬車が入口までしか行けないのは残念だけど、変なとこから行くよりかはマシね」


 私は静かに頷いた。


「さて、あとは誰かしら一緒に来てくれる人が欲しいけれど……。ちょうど良さそうな人たち、奥にいるね」

次話もよろしくお願いします!

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