27話『家族とは』
私はこれまで、メアさまに会うことを目的として聖域に入るための研究を進めてきた。
その研究を進める上で、聖域に入るために必要な条件が『聖域に通じる者のみが聖域への道を開くことができる』ということが分かった。また、聖域に存在する生物は主に精霊と聖物である。
これらの情報から導かれる答えは、聖域への道を開くことができるのは精霊と聖物であるという事実。そして、疑似的ではあるが私は今聖物になることができた。
つまり私は聖域に入る条件を満たしているのである。あとは聖域があると言われる場所を探し出してそこに向かうだけ。
一応、聖域があると言われる場所は知っている。ただ、実際に聖域への道を開ける方法は不明だ。
「あ、これかな?」
大釜の近くにいるマイラが、一冊の手記を私に見えるように高く掲げる。
実際、聖域があると言われる場所はあの手記には載っていない。いや、正確には載っているのだが、あまりにも非現実的なのだ。だから、私は精霊見聞録に記述してあった、とある場所をメアさまの手記に記していた。正直、数千年前の手記に文字が書けたのは意外だった。
「うわぁ随分と古いんじゃないの? この手記」
「まあ……数千年前の手記だから」
「……えっ、国宝級なんじゃない?」
「どうかな。私にとっては宝物だけど……」
マイラはその手記を両手で慎重に運び、私の前に持ってきた。
「ええと、『世界めぐり』……?」
「ひいおばあさまは旅が好きだったらしい。だから、最後に世界の絶景をその目で見てみたくて、旅をしていたとか」
「へぇ……最後ねぇ……」
マイラが手記をペラペラと捲る。
「なんだか、かわいい文章だね。まるで子どもみたいに、何が凄かったとか、何が綺麗だったかとか……。すごく生き生きとしてる」
「……ああ」
「きっと、この世界が好きなんだろうな……」
「…………そうなのだろうな」
引き続きペラペラとページを捲り、最後の方までやってきた。
「あ、これ聖域のことかな? ええと……『おばあさんに連れられてマキアに入った』?」
「ああ。そのおばあさんというのは不明な人物だが、マキアというのはおそらく聖域の名前だろう」
メアさまの手記の聖域に関する部分は、それまでの旅の内容と比べて内容が薄めだ。というより、まるで中身を書くことが禁じられていたとも思える文章量。聖域の内情は殆ど語られず、聖域に入る方法も「おばあさんに連れられた」という事実のみだ。
私は最初にこの書記を見たとき、違和感を覚えた。最後のページには『私は聖域の管理者になる』ということだけが綴られている。聖域の内情が記されていないのに、何故、聖域の管理者になることを決意したのか……。
小さい頃から疑問に感じていた。
「管理者……って、何するんだろうね」
マイラが眉を顰めて困ったような顔をしながらほほ笑んだ。
「分からない。あるとすれば……聖域には管理をしなければいけない何かしらの理由があるということだ」
「何かしらかぁ」
「それはそこにいる生物の問題なのか、環境の問題なのかはわからない。少なくとも、メアさまが管理者をやると決める前に別の管理者がいたことは確かだろうけど」
「うーん」
マイラが唸る。
確かに、管理者と言われると何を管理する者なのか、実際に想像はつかない。もしかしたら、生物や環境だけではなく、もっと何か……この世界に関する重要事項を管理している可能性もある。
「とりあえず、リースが残したメモを見てみるね」
「ああ」
「んーっと……。これかな」
マイラが開いたページには、ほかのページとは違うインクで文字が綴られていた。
「『聖域に通じる道はラミア森林の中心にある遺跡』……って書いてあるね」
「……そう、ラミア森林だ」
「確かメルサの少し南東にある森だよね?」
私は静かに頷いた。
「少なくとも、私が読んだ精霊見聞録にはそう書いてあった」
「……あくまで伝説だけど、それを信じるしかないよね」
マイラは行く気らしい。
ラミア森林は世界の中でも屈指の『迷いの森』として知られている。広大な森の中、行方不明者も後を絶たない。広いから迷ってしまうのではなく、魔式地図や魔式方位磁石が完全に機能しなくなるという摩訶不思議な現象が起きるのだ。
「じゃあ行こう。その森に」
「……え?」
マイラを守りたいという渇望でこの姿になったものの、やはりマイラに危険な旅に付き合わせるわけにはいかない。
私はすでに独り身だが、マイラには家族がいる。そもそも、マイラを守るためなら私の我儘に突き合わせる方が危険だ。
「いやいや、危ないぞ? 私だって1人で動けるようになったから、1人で……」
「ダメ」
「え、ええ?」
しゃがんだマイラが机上の私に目線を合わせる。
「私にとってあなたはもう家族も同様なの」
「……どうして?」
「私が落ち込んでいる時は必死に励ましてくれたり、少し離れたら心配になって付いてきちゃったり……それに、私のことも助けてくれたよね?」
「……まさかあの時のことを覚えて……!?」
マイラはにっこりと笑った。
「その様子だと、私が感じたこと、覚えていたことは間違っていなかったのね」
鎌をかけられた。
「私はあなたの足になって助けて、あなたは私を必死に助けてくれたでしょ? それに、ラミア森林が危険だと分かっているからこそ、私に付いてきてほしくないんだよね?」
「そ、それは……」
「……私たちは持ちつ持たれつ。それはもう、家族と言ってもいいんじゃない?」
「…………」
「確かに血は繋がっていないけど……これはきっと細い糸で繋がっている運命なんだと思う。だから、私はこの運命の糸を途切れさせたくないし、最後まで見届けたいな」
「……そうか」
……私には本当の家族がいる。
それはマイラにも既に伝えたし、変わりようがない事実である。だが、私はその家族の反対を押し切って国を出た身。今更、戻るわけにはいかない。
その状況をこじらせ続けて、ずっと孤独に感じていた私がいることも知っていた。その上で、『マイラ』という第三者に甘えてもいいのだろうか?
……家族とは、何だろうか。
「よし! 次の目的も決まったことだし……一旦街に戻ろう? 依頼の件もあるからね!」
「……そうだな」
それから、私たちは家を後にして街に戻った。
次話もよろしくお願いいたします!




