24話『行方不明の調合師』
「行方不明……ってことですか?」
人差し指を口に当てるマイラ。
「ええ……。あなたに売ったあの治癒のポーションを受け取りに行ったあの日にはもういませんでした」
「ということは……14日前からですか?」
「あなたの話が本当であればそうなりますね」
こくりと頷く男の子。
初めて聞いた事だが、マイラがポーションを購入したのは14日前らしい。
つまりマイラが旅に出た7日前がその調合師が消えた日ということになる。
「前日まではいつも通りでしたし、次の日は何処かへ出かけるとも言っていませんでしたから……偶に何処か遠出する時はあったのですが、そういうときは事前に僕に言っていましたし、頼んでおいたポーションは全て家の外に置いておくという形でした」
「その時はどうだったんです?」
「……家の鍵が開いていて、玄関の前には『治癒のポーション』と書かれた紙が貼られた壺が置いてありました。中には誰もおらず、いつもは湯気が立っていた釜にも何もなく、という感じでしたね」
「それは不思議ですね……」
「ええ、だから『忽然と姿を消した』と表現したんです」
「なるほど」
そういえばこの前、夢で調合師らしき人を見た。
予知夢……というより過去の記憶に近しいものだった気がする。
おそらく今回の件と何かしら関係がありそうにも見える。
もちろん、夢で見たものが事実であればの話だが。
「それで、頼み事なんですけど――」
「……はい」
マイラが静かに答える。
おおよその頼み事を察しているかのようだ。
私にも何となくわかる。
たぶん。
「その人を探していただけないかな、と……」
「……まあそうですよね」
「確か……冒険者でしたよね?」
「一応ですけど……」
「なら、依頼としてお願いします。報酬は……そうですね。美容系のポーション一式はどうでしょうか……?」
「……えっ、いいんですか?」
「あの人一応、大事な取引相手なので……」
「よしやります! とりあえずその人の家は何処ですか!? 様子だけでも見ておきたいので!」
手をぐっと握りしめるマイラ。
よく見えないが、目が輝いていそうではある。
そもそも美容用のポーションなんて使わずとも肌とかは綺麗だろうに……。
いや、美容に気を使ってきたからこその肌なのかもしれないけど……。
「あ……はい。え、ええとですね、この店から出て――」
……と、そんなこんなで調合師の家がある場所を教えられた。
その後に『正式な依頼であることの証明』のために紙による正式な誓約書を酒場まで行って書いた。
少し大変ではあったが、正式な依頼を受けて私たちは店主の男の子と別れた。
そしてポーション店のすぐ近くの出入り口から町を出た。
「今回は馬車に乗る必要はないね。結構近いし、一直線だから迷うことないだろうし」
そう言って草原にできた道を進むマイラ。
あの男の子が示していた調合師の家までは土で固められた道がある。
なんとその調合師が迷わないように自分で作った道だという。
町からは凡そ30分の距離。
……相当な根気がなければできない。
「草原で歩くのは久しぶりだなあ……」
最近は馬車に乗って降りての繰り返しだった訳だから、そう思うのも無理はない。
「……そういえば、その調合師ってどういう人なんだろうね。あの店主さんは『あの人』なんてちょっと変な言い方してたけど……」
私に言われても……。
「一応、あなたを誕生させた人だと思うけど……。行方知れずなんてね」
腕を組みながら鼻息をふーっと漏らすマイラ。
……夢で見た人物にあの後何かが起きたということだろうか。
「……無責任にも程があるよ。ホント」
マイラが口を尖がらせた。
◆
その後、特に何もないまま歩き続けてとある家に辿り着いた。
低い岩の塀に囲まれている、横に広い一階建ての質素な木造の家。
その敷地内には小さな池があるが、濁っていて生き物の気配は感じない。
何か分からないが、この場所は見たことがあるような気がする。
「……ここ、だよね?」
私は無意識に体を震わせた。
「…………覚えてる?」
マイラが帽子の上に乗っている私を手で持ち上げる。
少し目線が高くなり、周辺をより見回せるようになった。
……見たことはあるような気がする。
でも、気がするだけ。
ここに訪れたことはないし、具体的なことは何も覚えていない。
ぼんやりと覚えているのは……壺に入る前の私…………?
ピリッと頭に電撃が走るような感じがして、思考がシャットダウンされる。
私、そう、私……。
薬になって、薬を飲んで……。
それで…………。
あれ、私――。
誰なんだろう。
次話もよろしくお願いいたします!




