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スライム育成論  作者: 桜木はる
神聖、穢れを知らず
22/39

22話『「何もなかった。いいね?」』

「あれ……」


 昼。

 マイラが目を覚ます。


「私……」


 そう言って起き上がり、目を擦るマイラは目をパチパチさせていた。


「…………どういうこと?」


 森を抜け、何事もなかったかのようにガタゴトと音をたてながら進む馬車。

 クラウスたちも、まるで何もなかったかのように外にいる。


「……」


 マイラが視線を下にやり、傍にいた私をじっと見つめる。


「私昨日、盗賊のゴブリンに襲われてた……よね?」


 私には口がない。

 しかし身震いで肯定や否定を示すことはできる。

 というよりマイラが察してくれる。

 ……実は早朝、馬車が出る前に話があった。

 御者はあの事態について何も知らないためいいとして、クラウス、ジゴ、ガノック、カルナ、そして何故か私。

 この5人で話し合い、こういう結論が出た。



『何もなかった。いいね?』



 クラウスが口にしたその言葉に悪意はない。

 ガノックは自分たちの評価が下がるんじゃないかと危惧していたが、そういう理由でこうなった訳ではない。

 何よりも、マイラの精神上の話だそうだ。

 襲われた時の恐怖、痛み。

 それはどんなものよりも辛く苦しいものだと。

 昨日得た恐怖という名のトラウマは性別や年齢なんて関係ない。

 何もなかった事――そう、ただの悪夢ということすれば、それをマイラの中でも消化できるのではないか、と。

 ガノックの言うように自分たちの評価のこともあるし、それが現実的で合理的なのではないかという話になった。

 もちろん、私は口がないため賛成も否定も言えない。

 ただ私は『現場を唯一見た者の可能性』ということで召集されたのだ。

 そして先ほどの結論を告げられた。

 私としてはそれは有耶無耶にしちゃいけないだろうと思ったが、マイラの心は読むことはできないし、確かにクラウスたちの世間的評価のこともあるし仕方ないと思った。

 カルナがマイラの腹部への物理的な傷は治癒したと言っていたし、それで済むならそれが皆にとって一番良いだろう……となったのだ。

 正直、大人の事情的なモノを感じた。


「……私、夜にあなたと会ったよね?」


 私は身震いせずにじっとした。


「…………うーん、夢だったのかなぁ。そんな訳ないと思うんだけど」


 マイラがバッグの中身を確認する。


「何も盗られてない……」


 腕を組み、首を傾げて唸るマイラ。


「お腹、殴られた気がするけど……」


 そう言ってお腹を擦るマイラはどうも納得していないような気がした。


「痛くない……服も汚れてない……」


 あの状況の中、ゴブリンの血やあの黒い泥は奇跡的に服には付着していなかった。

 唯一汚れていたいたのは髪。

 手で触ったかのような泥の跡があったらしい。

 だが、それはカルナがマイラを回復する際に傷と同時に消えていったとか。

 ……不思議。


「私、トイレ行ったよね」


 私は身震いした。


「うん……。でも終わってからの記憶がない……。その時にあなたに突進された覚えがあるんだけど、その時に気を失ったとか……?」


 もうそういうことでいいよ。


「それで、その後クラウスさんたちに探されて……とか?」


 もうそういうことでいいよ。


「……クラウスさん?」


 マイラが馬車の横を歩くクラウスに声を掛ける。


「ん? ああ、おはよう」


 爽やかな顔で挨拶をするクラウス。


「え……? お、おはようございます……」


 あまりにも不自然すぎる自然な挨拶にマイラが困惑している。


「あの、突然なんですけど……昨日の夜、何かありませんでした?」

「……ああ、大変だったよ」

「え……? どんな風に大変だったんですか?」

「君がトイレと言ってそのまま帰ってこないから心配して全員で探したんだ。そしたら、少し離れたところで倒れた君とその子がいるのを見つけてね」

「……周りに何もいなかったんですか?」

「……ああ、何もいなかった。あそこにいたのは()()()()()()()()()()だったよ」

「そうですか……」


 クラウスの視点ではその言い分で嘘偽りはない。

 あの場には私とマイラ、そして()()()()なかった。

 紛れもない事実だ。

 マイラはお礼するように小さく頭を下げた。


「うーん、やっぱりあなたに突進されて気を失ったのかあ……なんか納得できないけど……」


 マイラが疲れているかの如く深いため息を吐く。


「まあいっか」


 壁にもたれかかり、腕をだらーっとさせる。


「早く着かないかなぁ……」


 起きたばかりだというのに、口を大きく開けて欠伸をするマイラ。

 疑念は解けたのか、それでいいのか……。

 私にも分からない。


「すぅ……」


 そうして、マイラは再び眠りついてしまった。

 ――それから3日間。

 何事もなく食事して話をし、寝て起きて馬車に揺られて……。

 そうやって馬車の旅を普通に楽しんだ私たちは、到頭(とうとう)『商人の町チコフィ』に辿り着いた。

 マイラはクラウスたちや馭者にお礼をし、クラウスたちに元々約束していた報酬の金貨3枚を渡した。

 ただ何かを悪く思ったのか、クラウスが「報酬は銀貨1枚でいいよ」と言い、金貨をマイラに返した。

 マイラは終始首を傾げ、ガノックはクラウスに大声で文句を言っていたが、ジゴやカルナもクラウスと同意見だったようで、多数決により報酬は金貨2枚と銀貨1枚となった。

 それから私たちはクラウスたちと別れて町に入った。


「さて、てっとり早く商人さんを探しちゃおっか。でもその前に――」


 マイラが私を頭に乗せる。


「観光! ね!」


 マイラが軽快に走り出した。

次話もよろしくお願いします!

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