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スライム育成論  作者: 桜木はる
神聖、穢れを知らず
16/39

16話『守秘義務事項交換会』

 森へ入って数時間。

 休むことなく歩き続けた馬は、疲れ果てて動けなくなってしまった。

 そこで私たちは、一昨日利用した泉を使うことを提案した。

 夜のうちに魔物が現れる事がなかったということもあり、馭者やクラウスたちもそこが良いだろうということになった。

 そして、その泉の前で馬車を止めた私たちは今、泉の前で一昨日と同じように焚火をした。

 昼間とは一転、空は黒い雲が立ち込めており、一昨日のように星々は一切見えなかった。

 その影響なのかどうか、一昨日よりも森は暗く静かだった。

 妙に生温かい風が木々の隙間から吹いてくる。

 まるで誰かの吐息みたいな……。

 うっ、いや考えたくない。

 身の毛がよだつ。

 ……よだつ毛はないけど。


「ふう、少し洗うだけでも気持ちいいな」


 チクチク男が泉の水で上半身を洗い終え、小さなタオルを片手に焚火の前にやってきた

 鎧で見えなかったが、この男もなかなか筋肉がある。

 いや、あの巨体の突進を抑えるくらいだから当然か。

 ちなみに、他の3人は少し遅れて体を洗いに行き、御者は馬車の近くで馬の面倒を見ている。


「嬢ちゃんは身体洗わなくていいのか?」


 デリカシーとかそういうのないのかお前は。


「え? いやぁさすがに……」

「…………まあ、そうだな」

「…………」


 ……気まずい。

 そういえばこのチクチク男の名前はなんというのだろう。

 あのハチマチ男が『クラウス』、筋骨隆々で左目に傷が入っているのが『ジゴ』、そしてローブの青年が『カルナ』……といったか。

 私はそう記憶しているが、マイラは覚えているだろうか。


「ええと……」

「ガノックだ」

「あ、ありがとうございます。ええと、ガノックさんたちは、何故フェデロニーにいたんですか?」

「ん? ああ……ここらに現れた『盗賊集団』を探してたんだ」

「盗賊……」


 マイラが太腿に右ひじを置いて頬杖をつく。


「まあ、ちょっとあってな」

「ちょっと……?」

「……依頼だ」

「どんな依頼なんですか?」

「……嬢ちゃん。大人には守秘義務ってもんがあってな」

「…………」


 マイラがガノックをじぃっと見つめる。


「確か――マイラだったか」

「はい」


 コクリと頷くマイラ。


「一体どこであんな便利な魔法モンを覚えたんだ?」

「…………え?」


 顎に手をやり、目を細くするガノック。


「……話題、すり替えましたね」

「大人の事情ってもんがあんだよ。で、答えは?」

「そうですね……。『ある人』から教わりました。まあただの友達ですけどね。それ以上は『しゅひぎむ』です」

「……カルナから聞いた。あれは高度――いや、高度とかそういう比ではない魔法だってな」

「……」

「お前こそ一体何者だ?」

「いや、普通の人です」

「……嘘はバレないようにしろと習わなかったか?」

「本当です」

「……本当か?」

「……はい」


 マイラに問い詰めようとするガノックに、私は飛び跳ねて攻撃し抗議した。


「うわっ!? そいつ動くのか!?」


 驚いたガノックは私を両手で抑え込み動けないようにした。


「あ、やめてください。潰れてしまいます」

「そう言われても、仕掛けてきたのはコイツだからな……」

「まあ、何といいますか……たぶん想いの強い子なんです」

「……わかったわかった」


 私を解放したガノックは不満げな表情をしている。

 再びマイラの隣によこされた私は強く身震いした。


「よし。じゃあこうしましょう。私はこの魔法を誰に教わったか、そして私の正体……というより私の事を教えます。その対価といっては何ですが、ガノックさんはその依頼の内容を教えてください」

「……何で依頼の内容なんて気になるんだ?」

「田舎人の性なんです。そういうの隠されるともっと訊きたくなっちゃうんですよね……。つまるところは『守秘義務事項の交換』。どうでしょう?」

「……ヒヨっ子だと思っていたんだが、なかなか面白いことを言う嬢ちゃんだな。……いいだろう」


 ノってくれるんだ……。


「と言っても、どちらかが全て話し終えた後に『はい私は教えませーん』なんてなっても困るので、どちらも断片的に情報を出し合っていくのはどうでしょう?」

「……これが田舎の交渉力か」


 それはなんか違うと思う。


「じゃあまずは嬢ちゃんから言ってもらおうか」

「……はい。単刀直入に申しますと、この魔法は『魔導国ジェイム』の魔導研究室の長に教わりました。まあ色々とありまして、魔導国ジェイムに行った時に」

「……なるほど」


 ガノックが少しの間目を瞑る。

 何か考え事をしているのだろうか。


「じゃあ次は俺だ。依頼の内容についてだが、俺も詳しいことは知らない。ただ、()()()()()()から『盗賊に盗まれたモノを取り返してほしい』。そう頼まれた」

「変な格好……? 大事なモノ……?」

「次は嬢ちゃんの番だぜ。そうだな……何故ジェイムに行く必要があったのか――それを聞かせてもらおうか」

「……分かりました。それは――」


 マイラが深呼吸をする。


「とある『火竜』の討伐隊の補助役を任されたからです」

「……どういうことだ?」

「簡単に言えば勉強です。とりあえず、その火竜を討伐するために必要になるかもしれない補助魔法・治癒魔法は全て習いました。いや、教えてもらっていない魔法がない程度には教わりましたね」

「……火竜、か」


 ガノックがひと息ついている。

 何か心当たりがありそうだ。


「さて、次はガノックさんの番です。その変な人から言われた『大事なモノ』って、何なんですか?」

「……さっきも言ったが、詳しい事は知らない。ただ、それだと「何を取り返せばいいのか分からない」と言ったら、()()と言っていた。それだけだな」

「……なるほど。では次に私から――」

「その前に1ついいか」


 ちょっと待ったと手を開いて見せるガノック。


「さっきの火竜……恐らく10年前に討伐された『バジラマリク』だろう。違うか?」

「そうです。まあ有名ですからね」

「……そういうことじゃねぇ。確かあの討伐隊、火竜を討伐した者たちとして皆表彰されていたはずだ。だけどそこに女の姿はなかった。ましてやエルフの子どもなんていなかったはずだ」

「……まあ、無理もないと思います。私、表彰断りましたから」


 マイラがにこりと笑う。


「……なに?」


 そんなマイラの言葉を疑ったのか、ガノックが更に目を鋭くさせる。


「変な噂がたって頼られるのもコリゴリでしたし、もう冒険に行くなんていうのも当時はコリゴリでしたから……」

「……もしそれが本当だとしたら、冒険者の証が銅であることにも説明がつかなくはない。表彰を受け取らないということは、『自分は一切関わっていない』と言ってるようなものだ。そのような者が証の昇級を受けられるはずがない」

「……そうですね。そうでした。むしろそれでよかったです」

「それに、それはあくまで10年前の話……。もし嬢ちゃんがその時いたら、今は22歳以上のはずだろう。でもその見た目だ。おかしいだろ」

「まあこれにも色々とワケがありまして……」


 ガノックは腕を組み、眉間にしわを寄せながら目を瞑る。


「あ、次は私がお話する番ですね。さて、では次に私の正体をお話しましょう」

「……ほう?」

「私の正体ですが……。マイラ・オリキスと言います」

「オリキス……? どこかで聞き覚えがあるような……」

「火竜の討伐表彰を知っているガノックさんはご存じないですか? ガイア・オリキスって」

「まさか、あのガイアさんの娘……?」

「……いえ、あのー……妻です」

「なるほど、妻か。…………妻――!?」


 ガノックは驚きのあまり後ろに仰け反った。


会話、多めです。

次話もよろしくお願いいたします!

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