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スライム育成論  作者: 桜木はる
神聖、穢れを知らず
15/39

15話『何か』

 エレファンホースのふらつきが収まり、再び私たちの方へ振り向いた。

 息を荒げてかなり怒っているみたいだ。

 しかし、その怒りの矛先はマイラやチクチク男ではなく、他の者に向いているらしい。

 自分の突進が通用しないと思ったらすぐに対象を切り替えるみたいだ。

 頭がいい。


「次は僕を狙っているらしい。くるぞ――!」


 皆にそう呼びかけその場を離れるクラウス。

 エレファンホースは先端が鋭利な角を正面に向けて、今度はクラウスに突進してきた。

 クラウスは横に前転することで攻撃を避ける。

 突進攻撃が森の入り口付近の木々に当たり、木々が次々と折れてゆく。


「次の突進で奴の動きを止める。……カルナ、あいつを縛れるか?」

「や、やってみます!」


 カルナと呼ばれるその青年が空中に魔法陣を描き出す。


「――準備はできてます!」

「よし、じゃあ惹きつけるぞ!」


 チクチク男が再び自分の胸を強く叩くと、先ほどと同じような衝撃波が周囲に響き渡った。

 挑発のようなものだろうか、振り返ったエレファンホースがチクチク男を睨んでいるように見える。

 先ほどまで見向きもしていなかったのに。


「おい、全員俺の後ろで構えとけ!」


 チクチク男が前に進み出し、股を開いて腰を落とす。

 そして両腕を一度回し、先ほどと同じように腕を前に突き出した。

 いかにも「いつでもこい」と言っているみたいだ。


「よーし、こいデカブツ! 次もしっかりと受け止めてやろうじゃねぇか!!」


 エレファンホースが迷わずチクチク男に突進してきた。

 それも先ほどよりも早い速度で勢いがついていた。

 だが、それにも関わらずチクチク男がその攻撃を軽く受け止める。


「嬢ちゃん! この力、なかなかいいもんだな! おらァ!」


 チクチク男がエレファンホースの2つの鼻を、片方ずつ腕で抱えるように持ち上げて横に振り払った。

 それで体勢を崩したエレファンホースが横に倒れる。


「今だ、縛れ!」

「はい! ――縛罠(ジトラ)!」


 ローブの青年がそう言って杖をエレファンホースに向けると、地面に魔法陣が現れた。

 その魔法陣から木の根っこのようなものが出てきて、一瞬のうちにエレファンホースの体を縛り上げた。


「クラウス、ジゴ! 仕上げは頼むんだぞ!」

「分かってる……! はあああぁぁッ!」


 クラウスが大剣を構えて力を入れると、刃に炎がまとい始めた。

 すごい、どういう原理。


「ジゴ、そいつを宙にあげられるか!?」

「……ああ」

「頼んだ!」


 ジゴと呼ばれるスキンヘッドで上半身裸の男がエレファンホースに近づき、巨体を両手で持ち上げてそのまま真上に投げ飛ばす。


「いくぞ――!」


 落下する巨体を目に、クラウスが大剣の先を下に向けて構える。


「――飛翔炎剣(ひしょうえんけん)!」


 エレファンホースが落ちてくると同時にクラウスが大剣を振り上げる。

 そしてその燃える刃はバチバチと音を鳴らしながら、巨体を真っ二つに切り裂いた。


――ドンッ!


 地面に重たい物が落ちる鈍い音が鳴り、その巨体は動かなくなった。

 ドロドロとした血液が緑色の草原を赤く染める。


「ふう、何とか倒せたな」


 チクチク男がおでこの汗を手で拭き取りながらやってきた。


「エレファンホース……。普段は温厚で森の中に棲んでいるはずなんだが……」


 顎を右手の人差し指と親指で支えながら死体を見つめるクラウス。


「ああ、知ってるぜ。それにディアナで出るなんて聞いてないぞ」

「……そうだな」





 それから私たちは馬車へ乗り込み、旅を再開した。

 森へと入りつつ、先ほど戦ったエレファンホースと言う名の魔物について、クラウスから一通り話を聞いた。

 ――エレファンホースは元来、この大陸の西に位置するメアリム大陸の森林地帯にしか存在しない動物――いや、魔物らしい。

 エレファンスという動物の亜種らしく、普段は温厚であるがストレスや攻撃などの外的な刺激を受けると興奮し暴走してしまうという。

 しかし、今回は予測外の事態だった。

 そもそもここはディアナ。メアリム大陸ではない。

 それに私たちが何かをする前から興奮状態にあった。

 このことから推測されることとしてはざっくりと3つある。

 『誰かが飼っていたエレファンホ―スが脱走し、何かしらの影響で暴走した』。

 『エレファンホースが何かしらの手違いでこの森林に棲みつき、何かしらで暴走した』……。

 そしてもう1つ。

 おそらくこれが、今最も()()()()()()であるとは思う。

 『()()が意図して起こした襲撃』の可能性――。

 その『何か』の存在については誰も分からない。

 それにこの『何か』もあくまで憶測でしかないのだ。

 もしかしたらそれはただの富豪であったり、魔物飼いであったり、あるいは――そう、神のイタズラかもしれない。

 だが、今回の襲撃には『何か』が絡んでいるとそう考えるほかない。

 私は一昨日くらいまで「何も起きずに暇だな」なんて思っていたが、こうなると話は別になる。

 もしもマイラが危険な目に合うようなことがあったら――。

 ……今はまだ憶測でしかないが、嫌な予感がする。

 もちろん全て憶測でしかない。

 そう強く自分に信じ込ませたい。

 ただ、確実に忍び寄っている『何か』がいる気がする。

 直観的にそう感じたのだ。

 ……ああ、体が痛いな。

次話もよろしくお願いいたします!

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