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スライム育成論  作者: 桜木はる
神聖、穢れを知らず
14/39

14話『この度再び馬車の旅』

新章に入ります!

 馬車の受付を終えて酒場の外に出る。

 既に町の入り口の方には馬車が止まっており、馭者(ぎょしゃ)の男性がこちらに手を振っていた。

 もちろん、その馬車の近くにはあの冒険者4人組も既に立っていた。

 色々と準備が早い。

 マイラは足早に馬車へ向かい、馭者の進めるままに乗車した。

 馬車の中には椅子のような長いでっぱりがあり、外見は殆ど変わらないものの、商人の馬車とは違い乗り心地が良さそうだった。

 それに加えて1人分の寝袋と枕が用意してあり、ある程度快適そうではある。

 マイラもご満悦みたいだ。


「まさかの実質貸し切りっ」


 他にも馬車はあるようだが、今の時間のチコフィ行き馬車はマイラ1人。

 ケルコニーが不景気だと言っていたのも何となく伝わってくるが、まさかここまでだとは。


「さて、それでは出発しますよ~」


 馭者がそう言うと、馬車がゆっくり動き出した。




 出発してから十数分。

 フェデロニーがすでに遠く感じる。

 既にあの商人が言っていた『海と町が一望できる場所』まで来ていた。

 凸凹とした道のはずなのにあまり揺れることもない。

 馬車の性能が良いのか馬の歩き方が良いのか、どうなんだろう。

 薄いレースのカーテンが取り付けられている小窓からは、時々微風(そよかぜ)が入ってくる。


「護衛の人って馬車には乗らないんですね」


 マイラが馬車の着いてきている男冒険者たちに話しかける。

 すると、馬車の後ろから付いてきている、赤い髪で軽装の男が反応した。


「ああ。いざって時に中にいたら、対応が遅れてしまうだろう。だからこそ、護衛する時は馬車を取り囲むようにして付いていくのが基本なんだ」

「へえ……護衛って大変ですね」

「何処から敵が来てもいいようにしているんだ。仕方ないことさ」


 男の背負っている大剣の先が陽の光を反射する。


「そういえば、お名前は何て言うんですか?」

「ん? ああ、僕は『クラウス』。君は?」

「私はマイラって言います」

「マイラねぇ……」


 クラウスが腕を組んで鼻から息を出す。


「何で冒険者になんてなったんだい? その感じだと、まだ12か13ってところだと思うけど」

「えーと……。パパが冒険者をしていて、付いていく機会も多かったので仕方なく……って感じです」

「へぇ……じゃあ父親譲りみたいなことか」

「んー……まあそういうことでいいです」


 何かすれ違っているような気もする。

 確かにマイラの夫は冒険者だと聞いた。

 それもかなり腕の立つベテランの冒険者だとか。

 息子が父親に憧れるくらいだから、相当なものだろう。


「1人で冒険しているのかい?」

「そうです」

「女の子で一人旅は危なくないか?」

「……だから護衛をお願いしたんです」

「あははっ、そうか」


 爽やかに笑うクラウス。

 この男は緑髪のチクチク男と比べたらだいぶ温厚なようだ。

 チクチク男はどうもこう(かん)に障る。


「そろそろ森に入るけど……。ん? 何かいないか?」


 馬車が止まり、クラウスが馬車の前へ駆けて行く。


「あれは……エレファンホース!? 何でこんなところに――!」


ブオオオォォォン――!


 大きな鳴き声と共に馬車が振動で揺れる。

 何か大きな物体がこちらに向けて走ってきているようだ。

 マイラが窓から顔を出す。


「わっ、なにあの生物!? 長い鼻がふたつもあるよ!?」


 マイラは驚きのあまり身体が固まっていた。

 その生物には長い鼻が2つついており、頭部には大きな白い角があった。

 図体は馬の数倍ほど大きなもので肌は薄い水色。

 脚は4本あり息も荒く、とても人間が敵いそうな相手ではなかった。


「おい、このデブ馬野郎! こっちを向け!」


 チクチク男が胸をドンと叩くと周囲に震動が響き渡った。

 そのエレファンホースという生物は馬車に突っ込む足を止め、チクチク男の方を見て大きく鳴いた。

 そして右の前足で地面を蹴りつつ、チクチク男を鋭い眼光で睨みつけていた。


「俺に壁をつけてくれ!」

「は、はいっ! 防壁(シールド)!」


 ローブの青年の弱々しい返事とともに何かが唱えられる。

 次の瞬間、エレファンホースがチクチク男に突進し、鈍い音と共にガラスにヒビが入るような大きな音が鳴り砂煙が巻き上がった。

 チクチク男は両手でエレファンホースの突進を受け止め、腰を落として押し合いをしていた。


「クラウス! 『ジゴ』! 今だ、攻撃しろ!」


 クラウスが背中の大剣に手を取って、エレファンホースに斬りかかる。

 それに続いて、筋骨隆々な男が手に何かをつけて殴りにかかった。


ブオオオオォォン――!


 大きな叫び声が鳴ったと思ったら、チクチク男がエレファンホースを弾き返した。


「チッ、バカみてぇな力だ! 壁がなかったら軽く腕が折れちまう所だったぞ!」


 チクチク男が鼻先を掻く。


「やはり、こっちの攻撃があまり通ってないみたいだ! ……『カルナ』! 魔法でどうにか攻撃できないか!?」


 クラウスがローブの青年に声を掛ける。


「や、やってみますっ!」


 ローブの男性は大杖を構えてボソボソと詠唱し始める。


「――燃え上がれ! メテオバーン!」


 青年が両手を空に(かざ)すと、エレファンホースの頭上に大きな火の輪のようなものができた。

 次の瞬間、その火の輪から地面に向かって炎の渦が出現し、火の粉をまき散らしながらエレファンホースを覆い囲んだ。

 エレファンホースが暴れて、自分の体に着いた火を振り払う。


「いい一撃だが……まだダメか――!」


 クラウスが大剣を構える。

 素手で戦う筋骨隆々の男も腕を構えてエレファンホースを睨みつけている。


「……私、役に立てるかもしれない――!」


 そう言って、マイラが馬車の外に出る。

 馬車は既に少し離れた場所に移動していたため、マイラは降りてすぐに4人組のもとに向かって走って行った。


「――っ!? 嬢ちゃん!? 何故出てきた!?」


 大盾を構えたチクチク男がマイラの姿に驚く。

 エレファンホースはその視線に気づいたのか、次は私たちの方を向いた。


「役に立てるかもって思ったので!」

「はあ!? 何言ってやがる! こいつは俺達でも厳しいくらいとんでもねぇ魔物なんだぞ! 銅レベルの冒険者に何ができる!?」

「私は戦いません! ただ、皆さんの支援をするだけです!」

「何を――言ってるんだ! 今すぐ馬車に戻れ! さもないと死ぬぞ!」


 エレファンホースがこいらを睨みつけてきた。

 あれ、もしかして狙われてる……?


「今から皆さんに魔法をかけます! それで何とか、倒してください!」


――ブオオオォォォン!


 エレファンホースがこちらに向かって突進してきた。


「マズい――!」


 チクチク男がエレファンホースとともに駆ける。

 しかし、エレファンホースの足は速くとても追いつけそうにはなかった。


「くるなら来なさい! 突破できるものなら!」


 マイラはどんと構えているが、私視点では恐ろしくて仕方ない。

 ここからどうするの!? 絶体絶命すぎない!?


「大丈夫。こんな奴よりも凄いの受け止めたことあるんだから」


 恐怖で震える私に呼びかけるように小声でそう言った。


「天津より授かりし神の衣、今ここに現れん!」


 マイラがそう言うと、目の前に輝く大きな光り輝く壁が現れた。

 エレファンホースがその壁に勢いよく激突したと思ったら、耳を(つんざ)くような大きな破裂音が鳴った。

 しかしその壁が壊れることはない。

 それどころか壁に衝突したエレファンホースは、よろけながら後退し目を回していた。


「な、なんだ――!?」


 チクチク男の足が止まる。

 そして、エレファンホースがよろついているうちにマイラが4人に駆け寄った。


「今のはまさか……天使の衣壁(エンジェルベール)…………?」


 ローブを着た青年がぼそっと呟く。


「マイラ。君、なかなか良い防衛手段を持ってるな」


 クラウスがマイラを横目で見てにやりと笑う。

 確かに防御としては圧倒的なものだった。


「私、こういうのだけは得意なので! ――不完全なる光壁(ノ・ライトシールド)! ――力の繁栄(パワレクト)!」


 マイラが空に向かって右腕をあげて人差し指をピンと立てる。

 マイラを含む全員の体の周りを囲うように、煌めくガラスのようなものが貼り付けられる。

 またそれを覆うように身体に赤い線が現れた。


「力が――溢れてくる……!」


 チクチク男は自分の体の変化に気づき拳を握る。


「あとはお願いします!」


 マイラがそう言った。

ついに魔物と戦闘! です!

次話から毎日投稿ではなくなります!(あらすじの部分にその趣旨を追記しておきます)

まあそれはそれとして、次話もよろしくお願いいたします!

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