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スライム育成論  作者: 桜木はる
旅の始まりは突然に
13/39

13話『取引』

「町の入り口近くのー……あれかな」


 マイラが立ち止まる。

 頭を上げて何かを見ているようだ。

 私もそれに続いて少し目線を上にあげる。

 あれは――ジョッキのマークがついたひし形の看板?

 それが屋根のような低い出っ張りに張り付けられている。

 おそらくここが酒場なのだろう。

 外装的には周りの家々と大差ないのだが、大きな両開きの扉が正面についており、時折その扉から鎧や軽装を装備した冒険者らしき人々が出てくる。

 それに扉の左側についている四角い窓からは、奥にカウンターのようなものと掲示板のようなものが見える。

 酒場は依頼の受注も行える場所であるから、掲示板があってもおかしくはない。

 そもそもジョッキが描かれた看板がある時点でモロ酒場。


「……入ろう」


 正面を向いて静かに歩き出すマイラ。

 今更だが、この町の施設は入り口に屋根のような出っ張りがあって、そこに施設を表す看板が張り付いていることが多いみたいだ。

 土産屋の場合はリボンのついた箱のマークが描かれた看板があった。

 料理屋はどんぶりが描かれているものとか色々あったし。


 ギギィィ――。


 マイラが片方の扉に手を掛けると扉が(きし)みだした。

 扉を押す時に身体が震えているのを見ると、かなり力を使っているみたいだ。

 筋力も子ども並に落ちてしまったらしい。


「おもっ……」


 それでも、何とか扉を開けて中に入ることができた私達。

 中は意外と静かで時折誰かしらの小さな話声が聞こえてくるくらいだった。

 外装からは想像できないくらい広めの空間で、丸い机が疎らに置かれており、それを取り囲むように椅子が4つ並べられている。

 客は10人もいないようだ。

 1つ目のグループは男4人組。

それが入り口から見て左側手前の席についている。

 2つ目のグループは男1人に女1人の2人組。

 右奥の席に座っている。

 席についている客はそれだけで、あとは掲示板を見ている男が1人。

 昼とはいえ酒場ってこんな寂しいところだっけ。


「……んー? お嬢ちゃん、どうしたんだ?」


 左側に座っていた男4人組のうち、私たちを横目で見ていた男が話しかけてきた。

 白金色の鎧が動きに合わせてギラリと光る。


「え、私ですか?」


 マイラが男の方を見る。

 緑色で針の山のような短髪。

 目が細く、鋭い目つきで私たちを睨んでいる。


「それ以外にいるか?」

「……」


 マイラが辺りをキョロキョロと見まわす。


「いなさそうですね」

「そりゃそうだろ……」


 男がため息を吐く。

 その短髪の男に続いて、周りの男3人も私たちを見始めた。

 一番奥に座っているのは、ローブのような布製の衣服を着た痩せている青年。

 左に座っているのは頭の後ろに腕を組み、背もたれに体重を預けている筋骨隆々な男性。

 そして手前にいるのは、横の2人に比べて軽装で頭にハチマキのようなものを巻いている男性だ。


「何か用ですか?」


 マイラが緑髪の男の顔を見るために顔を上げる。


「いやあ、お嬢ちゃんがこんなところに何の用かなーってな」

「……チコフィまでの馬車に乗るためです」

「……馬車?」


 男がガハハと笑いコップに入った水を飲む。


「笑わせないでくれ。ここは()()()()酒場だぞ?」

「……それがどうかしましたか?」

「いやいや」


 男が立ち上がりマイラに近づく。

 そして尻を踵の上に乗せるようにして腰を下ろした。

 私と殆ど同じ目線だ。


「ここの馬車は()()()()()()()()()んだぜ、お嬢ちゃん? なあ、お前ら?」


 男が後ろに振り向く。

 奥の青年はおどおどしているようだが、他の2人は「ああ」と言って顔を上げて笑う。

 何、こいつら。


「いくら()()()()()だからって、乗せては貰えないと思うぜ?」

「……私…………です」

「……あ?」


 マイラが小声で何かを言った。


「何て言った?」

「私、()()()です!!!」


 マイラの声が酒場内に響く。

 後ろの男女2人組や掲示板の前にいる男、更に酒場の店員なども私たちに注目した。


「…………はあ? その身なりで?」

「はい。証もちゃんと持ってます」


 マイラが右手でバッグをごそごそと漁り、丸い形状の薄い何かを取り出した。

 それは何かのバッジのようで、茶色の剣と盾が描かれているみたいだ。

 マイラはそれを人差し指と親指でつまみ、手を伸ばして男に見せた。


「……ほう? 冒険者の証を持っているなんてな」

「…………」

「でも銅か。まだまだヒヨっ子だな」


 緑髪の男が鎧の左胸部分に付いているエメラルドグリーンのバッジを、右手の人差し指でポンポンと叩く。


「俺は()()()()()だ。俺の仲間も同じエメラルド。まあ、差があるのも無理はないがな」


 男がにやつく。

 どうやら冒険者には階級があるらしい。

 聞いている感じだと、銅は一番下でエメラルドは更にその上なのだろう。

 男の自信を見るに、2、3……いや、4階級くらいは上なのかもしれない。

 そもそもどこまで階級があるのかが謎ではある。

 というかマイラって冒険者だったのか……。


「それがどうかしましたか」

「いや? 別に」


 この男は自分の優位性を示したいだけか、それとも別の意図があってのことなのか。


「……もういいですか?」


 バッジをバッグにしまうマイラ。

 小さなため息と共にそう言って、再び男の顔を見る。


「……いや? 嬢ちゃん、俺たちがチコフィまで()()してやろうか?」


 男が薄ら笑いを浮かべてそう提案した。


「……え、いいんですか?」

「ああ。ただし報酬金は俺たちが決める」

「…………いくらですか」


 やはりそんな上手い話はない。


「そうだなァ……。ざっと()()()()でどうだ?」

「金貨――()()? 高くないですか?」


 マイラの返答に男が(あざけ)るように笑う。

 うーん、頭が痛い。


「俺たちは国の要人も護衛するくらい信頼された冒険者だ。そうしてみれば、嬢ちゃん1人を守るのにそれくらいの値段は安いもんだろう?」

「…………分かりました。金貨5枚ですね。では、事前報酬金貨2枚、事後報酬金貨3枚ということでどうでしょうか」


 マイラの思わぬ返事に男の顔がゆがむ。


「……ほう、払えるのか。ヒヨっ子にしてはなかなか金を持っているんだな」


 マイラが通貨の入った袋を取り出して金貨を2枚渡す。


「……確かに受け取った。おいお前ら、いいよな?」


 男の呼びかけに後ろの3人は頷いた。


「よし、取引成立だ。お嬢ちゃんは馬車の受付をしてきな。俺たちは外で待っておく」


 そう言って男冒険者の4人組は立ち上がり酒場の外へ出て行った。

 なんか私、最後に男に睨まれたような気がする……。


「……ふう、怖かったね」


 マイラが私を頭の上から降ろして私の体を撫でる。


「少し震えてたけど、怖かった?」


 私はあまりそういう感覚がなかったのだが、無意識に震えていたらしい。

 怖いのも勿論あったのだが何より何もなくてよかった。

 しかしマイラもマイラで何故彼らに護衛をお願いしたのだろう。

 ここは「いいえ、結構です!」と断るかと思っていた。

 まあ、マイラ的には護衛がいた方が安心というのが大きかったのかもしれない。

 今の状態では力がないし、何か襲撃があった場合に対応できないだろうから。


「よぅし」


 マイラが意気込み、再度私を頭の上に乗せる。

 そして大きく息を吸った。


「馬車の受付って――何処ですかぁー!?」


 マイラの声が酒場中に響いた。

少し不穏な空気感……。

次話もよろしくお願いいたします!

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