11話『果たして正体は?』
意気揚々と立ち上がったマイラだったが、何をするにもまずは腹ごしらえ。
マイラは海辺のラフィンをバッグから取り出し、水色の包装紙を捲り、細長いラフィンに齧り付く。
それを口に銜えたまま魔式小型洗濯機の穴に手を突っ込み、何かを漁る。
「ん、はわいてるはね」
昨日着ていたワンピース、それに加えてジャケットを取り出すマイラ。
埃を掃うようにバサバサとワンピースとジャケットを上下に振りしている。
今になっては大きすぎて、着たら頭以外の部位は見えなくなってしまうだろう。
ジャケットは何とか着れるかもしれないが、下の部分は膝まで届いてしまいそうだ。
「ワンピースは折れば着れなくもないかも……あとは上にジャケットを着てボタンを閉めればぶかぶかコーデの出来上がりね」
ラフィンを食べ終えたマイラが着々と着替える。
結局、ワンピースはスカ―ト部分がジャケット下から少し見えるくらいになった。
またジャケットはもちろんぶかぶかではあるが、袖の部分を捲ることにより何とか手が出るようにしている。
うーん、どっからどう見ても昨日までのマイラの面影はない。
宿屋の受付にも、ましてやケルコニーにも驚かれること間違いないだろう。
「今は……10時ね。そろそろ行こっか。みんなにどう思われるかは分からないけど……」
そう言って私を抱えたマイラ。
それにしても、昨日までとは違い手が完全に塞がってしまうためかかなり不便そうだ。
何かをするたびに私を地面に置かなければいけないのは面倒だろう。
「あなた結構大きいのね……」
自分で歩くことが出来ればいいのだが、如何せん跳びはねる事しかできない。
跳びはねるとは言っても少し跳ねただけでもかなり疲れるし、長い間そうしているのは無理だ。
これも特訓して一日中飛び跳ねていても疲れないくらいの体力を身に着ける必要がありそうだ。
「……そうだ、良い事思いついた」
マイラは私の体を掴み自分の頭の上に乗せた。
少し滑り落ちそうになるも何とか持ちこたえる。
「これなら手が塞がらないね」
マイラも上手にバランスを取ってくれているようで、あまり力を入れずに済みそうだ。
「よし、行こう!」
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それから私たちは、受付に鍵を渡して宿屋を出た。
もちろん受付のエルフの顔は困惑で歪んでいたが、何とか何気なくに出てくることができた。
去り際に「あんな子いたっけ……」と聞こえたような気がするが、まあいいだろう。
「小さくなると景色も変わって見えるね。周りのモノがみんな大きく見える……」
すれ違う人や家々を見ながらそう呟くマイラ。
私は殆ど影響がないのだが、昨日よりは視点が低くなっているためか確かに周りのモノが大きく見える。
それに、先ほどからすれ違う人々から視線が飛んでくる。
まあこんな格好で頭に変な物体を乗せているのを見たら、一度見――いや普通に二度見してしまうかもしれない。
それに幼い女の子が1人で町を歩いているのだ。
おつかいをするわけでもないし、なんだなんだと思われるのも無理はない。
それに、髪の毛も地面に付いてしまいそうなくらい長いし、あとで切るか結ぶかをした方が良さそう。
……体が小さくなったのは私の所為だとして、何が原因でこうなったのだろうか。
体が縮み耳の形状をも変えてしまうような成分が私から染み出ているというのか?
だとしたら、今もマイラの頭部から体に染み込んでいるということに……。
いや、今は考えるのをやめておこう。
ケルコニーから私の検査結果が聞ければ何かしら分かるかもしれない。
「着いたよ。ケルコニーさんの家」
え、早っ。
私が目を瞑って考え事をしている隙に、いつの間にか到着していたらしい。
マイラが背伸びをして呼び鈴を鳴らす。
すると、家の中からドタバタと音がして、昨日と同じように玄関の扉の隙間からケルコニが顔を覗かせた。
昨日よりも隈がひどく髪もぼさぼさになっている。
「まだ11時ですよ……。早――あれ? 誰ですか?」
マイラの顔を見たケルコニーはきょとんとしていた。
「えーと、お嬢……ちゃん? 何か用かな?」
「お嬢ちゃんじゃないです! マイラです!」
「マイラさん……? え?」
そうなるのも無理はない。
「いや、でも……」
ケルコニーがちらりと私の顔を見てから、後ろに振り返る。
「確かにあの生物はいるけど……うーん」
「あのー」
「えっ、あ、はい?」
マイラが呼びかけると、ケルコニーが再びこちらを見た。
「私にも何が起きたか分からないんです。一晩のうちにこうなっちゃって」
「…………まあ、とりあえず立ち話も何ですから中で話しましょう。その生物がいるということは、マイラさんで間違いないと思いますから、たぶん」
そう言って、ケルコニーは私たちを家の中へと入れた。
中は昨日と変わらず汚くて、どんよりとした空気も健在だった。
歓喜くらいしたらどうなのと思う。
昨日に比べてマイラは歩きやすそうではあるが、険しい顔に変わりはない。
やはり臭いのだ。
「どうぞ座ってください」
壊れかけの椅子に座るマイラ。
ガタガタと音が鳴っていて、いつ壊れてもおかしくはなさそうだ。
「……その生物の話をする前に、少しいいですか?」
ケルコニーが顎に手を置いて、首を少し横に傾ける。
「はい?」
マイラも同じように首を傾げた。
「昨日、私と別れた後って何してました?」
「えーと……、町を歩き回って、宿屋で泊まって……それだけです」
「ふむ、そうですか……」
何か腑に落ちていない様子だ。
「まあいいです。とりあえず、その子の正体が分かったので、まずはそれだけお伝えします」
「え、分かったんですか!?」
「まあ、すぐにわかりましたよ」
「……じゃあ、ケルコニーさん、この子の正体は一体何なんですか?」
「……その子の正体はですね――」
マイラがゴクリと息を呑んだ。
「――ポーションです。それも美容用の」
次話もよろしくお願いいたします!