あの日と、それから
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ーーー。『まずは、情報を整理しようか。今君たちがいるところは、日本に数カ所ある陽術の起源とされる土地の一つ。そして今、私はその中でも一番歴史が古くて、呪力が特殊な場所にいる。本当は君たちに直接会いにいきたいのだけれど、状況が状況でね・・・だから、直接会うことはできないんだよ。ごめんね』
「まぁ・・・それは、構わないですけど」
『そうかい。ありがとう。そういえば、姿を見せるのを忘れていたね』
そういうや否や、ヴォンという音を立てて、ホログラムの立体映像のようにステージの上に一人の男・・・だと思う人物が現れる。
銀髪な長髪。すらりとした顔立ち。そして、両目は透き通った青色。年齢は二十台半ばから後半といったところに見える。
ギリギリ顔のパーツや体つきから恐らく男なんだろうと判断できるが、確証は持てないほど中性的だ。
『これは、最新の陽術と科学を組み合わせて使って作り上げた式神さ。私と意識を共通することができる。それじゃあ、これからはこの式神に話をしてもらうことにするよ。よろしくね』
ぷつりと、電源が切れたような感覚が脳の中で起こった。
それと同時に目の前に現れた式神の天翔が口を開く。
「・・・改めて、こんにちは。継島烈火くん、継島美空くん。出会ってすぐにはこんなことを聞くのは気がひけるんだけど・・・少し質問をさせて欲しい。君たちはもう十三年前の出来事についてどれくらいの説明を受けたかな?」
「あ、はい概要がわかるくらいには受けました」
美空が答える。
「・・・よろしい。それでは酷だとは思うけど、もっと踏み込んだ話をしなくてはならない。辛いとは思うけど、聞いてくれると嬉しいな」
天翔の式神。まぁ、めんどくさいから天翔と呼ぼう。は、指で宙に何かを描く。
すると、紙芝居のような絵が空中にふわふわと浮かび上がる。
「知っての通り、十三年前、陽術の名家、継島家総本山。金烏の館に穢神、千呪の襲撃があった。千呪が現世に現れたのは記録にある限り、二度目だ」
これは、俺も今朝聞いたことだが穢塊は基本[間]と呼ばれる負のオーラが充満する人間の住む世界(陽術の世界では現世言うらしい)とは違う、異質の世界に生息しているものらしい。
「千呪の目的が一体なんだったのかは今でも分かっていない。けれど継島の血に関わる何か。というか、君達の中にある何か、もしくは君たちを殺すか、連れ去りなんらかの条件で発動する目的がある・・・というのは間違いなさそうだ」
ヴォンという、機会的な音ともに千呪と思われる存在の後ろ姿が映し出される。
顔こそ分からないものの、逆に不快感を覚えるほど、美しい髪を一本に束ねたそれこそ、人間のような姿で肌は灰色の生命体をこれが、穢神か。
「どうして、そう思うんですか?」
美空が聞く。
「千呪の目的が先の、継島夫妻の殺害なら、あの日、真っ先に君たちを狙う必要はないし、仮に君たちを殺すことで激昂した継島夫妻と戦いたかったのだとしても、今君たちに向けて穢塊を放つ必要はないからね」
「あっ、たしかに」
「まぁ、何故そこまで君たちに固執するのかは正直分かりかねるんだけどね。たしかに由緒があって強力な術を使うのは確かなんだけど、それだけ《・・・・》の人物ならたくさんいるしね」
天翔は、お手上げだと言わんばかりに、やれやれと両手をあげてすかして見せる。
「というかそもそも、なんで急に俺たちに施した術が解けたんですか?」
烈火は気になったことを聞いてみる。
天翔は痛いところを突かれた。という顔をした後に答える。
「うん。それははっきり言って私たちの誤算だったよ」
「誤算・・・ですか?」
「そう。君達には、その術をかけるまでの記憶と引き換えに全ての呪力を消去した。何かを差し出して、その代わりに望んだ別の効果を得る。これは口での約束なんかではなく、陽術による縛りで絶対に発動する制約。その術を我々は〈契り〉いう。この話も聞いているかな?」
「あ、それは聞きました」
美空は優等生らしい自信を持った声で答える。烈火もそれについては知ってますよーと頷いた。
「よろしい。なら話が早いね。契りは何かをするための代償が大きいほど力を持つ。
君達は、まだ長く生きていなかったといえど、記憶というのは、陽術的観点でも大きな力と意味を持つんだ。
これまでの人生の証明そのものだからね。しかも、小さい頃から教育されているであろう継島の陽術。陽術的観点の話に戻ると、記憶よりも大きな力を持ってる。だから、もっと長く持つと思っていたんだ。かなり強固な呪力を消して、陽術の世界とは関わらず、普通の生活を送るのであれば、或いは一生効力があるかもしれないとね。だけど・・・」
天翔のトーンがわかりやすく低くなる。
「千呪の力はやはり強大だったようだ。記憶を代償にした契りでさえもこんなに早く打ち破ってくるとは。全く予想できなかったんだ」
あまり意味がわからなかった。
「君たちに施した契りは千呪に見つからないためにと言う意識が含まれていたんだよ。その対象が強ければ、もちろん契りの効力がなくなるのは早くなる。それにしても、こんなに早いとは思わなかったよ。そして、契りの無くなった今、我々もこの先、何が起こるか全く分からない」
ここで、少しの静寂があった。
何か、言い出しづらそうな顔をしている天翔。
「・・・そういえば、君たちを今日ここに呼んだ理由をまだ言っていなかったね」
すぅー。息を吸い込む音。意を決したようで、口を開く。
「急ですまないとは思う。けれど、大切な話だから聞いてほしい。
我々は協議の末、これからの君たちの護衛を取りやめることが決定した」
「・・・つまり、君たち自身にも戦ってもらうことになったんだ」