君への贈り物ー⑤
なんだじゃないよ。妹って何!?」
聞き流せない発言に気付いた烈火はすぐ話に待ったをかけた。茂雄は片手を上げて烈火を制す。
「妹については後で説明するから少し待ってくれ」
その目は、真っ直ぐに烈火を見つめていて、煙に巻こうという意志は感じ取れなかった。
気になるが、それはもうめちゃくちゃに気になるが、その目をみたため烈火はやはり気になりながらもそれをしぶしぶ了承した。
「お前が殺される直前、お前の父と母であり、我が主でもあった、継島優斗様と明様が駆けつけて、勇敢にも千呪に立ち向かった。美空の育ての親で俺の妻である美代子に『子供達の未来を託す』と言ってな。
ここで妻というまた聞きなれない単語も出てきた(茂雄の妻。つまり、烈火の祖母は早くのうちに亡くなったと聞いている)が早く答えを聞きたいなら我慢だと飲み込む。
たった二人で千呪と戦いに行き、その後どんな戦いが繰り広げられたのかは分からない。だが、後日二人は無残な遺体で見つかった。あの二人の力を持ってしても千呪を倒すには至らなかったんだ」
「・・・」
「そして、俺たちが保護したお前たち兄妹。妹についてだが、妹はさっきも言ったが俺の妻、美代子の家で同じように育てている」
「え?じいちゃん嫁さんいたの?昔病気で亡くなったって」
ここで、しっかりと聞いてみる。
「あぁ。あれも嘘だ。心は痛んだが、契りを持たせるために必要なことだった」
ここで、茂雄は一息つく。
「それじゃあ、妹の話をしようか」
「・・・うん」
「お前の妹、名前は美空という。一個下の年子の妹だよ」
「うーん、やっぱりしっくりこないなぁ。妹の事も両親のことも」
「それもそうだろう。俺たちは兄妹二人の記憶を消し去っているんだから。いや、消し去っていた《・・》という言う方が正しいか」
「記憶を消し去るって?なんで?どうやって?」
「俺たちが扱う術の中に、〈契り〉というものがあるんだ」
「契り・・・」
茂雄は記憶について説明する。烈火が取り乱さないようにゆっくりと話しかけている。
「契りというのは、字の通り契約のような意味だ。その効果は、何かを差し出して、その代わりに利益を得るというもの。詳しくいうと細かいが、今はこれくらいで良いだろう」
「・・・うん」
「あの事件があった後、千呪の追跡を避けるためにも、お前たちの記憶を引き換えに、呪力。まぁ、陽術を使うために必要な・・・分かりやすく言うとお前のやってるゲームのMP?みたいなものだ・・・って言えば分かるか?ともかくそれと、身体にきざみこまれている術式を消したんだ」
追跡されないようにしていたのにも関わらず襲われたのかと烈火は考え、合理的な答えを出す。
「だけど、なんらかの原因で俺の居場所がその千呪?って奴にバレた?というか、俺が焔出せたってことはそもそも呪力と術式が復活したってこと?」
「ああ、察しが良いな。最初はたまたま野良の穢塊がお前をターゲットにしていると思ったんだ。穢塊は普通に人間を襲うからな・・・運悪くお前がターゲットになっただけだと。だが、お前が不気味な視線を感じるようになったと訴えたのと全く同じタイミングで美空ちゃん。彼女も、その視線を感じ取ったと美代子に言った」
「なるほど。そこで何者かが意図的に俺たちを狙ってるって事が判明したってわけね」
「ああ、本当に察しがいいな。だから俺らは警戒していたんだ。今日はその穢塊の討伐予定日だったのだが、先回りされてしまってな」
茂雄はすまないと言わんばかりに肩をすくめる。
「それで、美空?ちゃんの方は大丈夫なの?」
「ああ、術式の関係で、どちらかが覚醒した時、もう片方も覚醒するから、今頃美代子にお前と同じ説明を受けてるだろうさ」
「そっか・・・。まぁ無事ならよかったよ」
普通なら受け止めきれない程の情報が一気に流れ込んできたからか、今は一周回って烈火の脳はスッキリとしている。
つい先ほどまでざわざわとしていた心臓も今は落ち着いている。
一つ一つのエピソードを順序立てて整理することができる。
あとは、この後の事だけが心配だ。
「それで、じいちゃ・・・茂雄さん?これから俺はどうなるの?どうすればいいの?」
これは下手したら呪力を取り戻してしまったなら仕方ない。死んでもらおう!となるかも知れないから。それを危惧しての質問だ。
「じいちゃんのままでいいぞ。お前が、それでいいならな」
「うん・・・ならじいちゃんで」
「それで、この後のことか・・・取り敢えず明日、[総覇陽術師連盟]に行こう」
「そーは陽術師連盟?」
「ああ、陽術関連に特化した役所みたいなもんだ、色々手続きがあるんでな、この後のことについても明日、説明があるだろう。きっと俺が説明するより分かりやすいはずだ。俺が語っても何かしらバイアスがかかる可能性があるからな」
「りょーかい」
烈火がいつも通りのトーンで返事をすると、それを見て茂雄が不思議そうな顔をする。
「お前、怖くないのか?」
それは、不思議そうな目だった。
「え?何が?」
「いや、今さっき襲われたばかりだろう?普通は恐怖するんじゃないか?」
茂雄の言葉に烈火は納得する反面、不思議と恐怖がない事にどこか誇らしさを感じた。
「・・・たしかに、怖かったよ。だけどさ、そんな怖い存在がいるって知っちゃったじゃん。それを知ったらさ、この後また、俺を狙った穢塊が出てきてさ、何も関係ない友達が死んだりでもしたらって考えるとそれが一番怖いんだ。だから、友達とかを守れるくらいには強くなりたいんだよ。知ってるのに、分かってるのに見過ごすくらいなら死んだ方がマシって俺は思っちゃうんだよね。おかしいかな?」
その目は誰よりも透き通っていた。それが、烈火の嘘偽りのない本心だったからだ。
「・・・そうか、お前はすごいよ。何もおかしくない」
「・・・うん。ありがと」
「よし。今日はもう寝ろ。明日から多分忙しくなるぞ。結界を張っておくから穢塊は現れん。安心しろ」
「わかった。おやすみ」
ーーーー。
優斗様、明様、烈火はやはりあなた達に似ています。
素早い判断力もそうですが、それだけではない。他人のために命をかけることを厭わない。
アイツはきっといい陽術師になりますよ。
俺なんか追い越して、すぐ強くなりますよ。
しっかりと見ててくださいね。
ーーー。
『・・・ふわぁ・・・なんですかこんな時間に・・・先輩・・・俺のこと好きなんすか?』
『ウルセェ黙れ。大変なことになったんだ、よく聞け護明』
『呪具でも落としました?勘弁してくださいよ〜始末書代わりには書きませんからねぇ?』
『違う』
『え〜、なんですか、勿体ぶらずに言って下さいよ〜』
『継島烈火が陽術に目覚めた』
『・・・マジ?』
『マジ』
『・・・ということは、明日にはあそこに?』
『ああ、大丈夫なのか?いくら継島といえどいきなりアレは。中々きついと思うぞ?』
『・・・いえいえ、大丈夫ですよ。あの二人は強い。それは俺と、ヒマちゃんが保証します』
『そうか。陽毬そういうなら、そういうことにしておこう。じゃーな』
『ええっ!?俺の信頼ゼロ〜?』
つー。つー。つー。
「・・・ようやくきたか、烈火!」
月の光が差し込む部屋で少年はにこりと笑った。
第一話・君への贈り物・完
ここまでがプロローグとなります。
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