君への贈り物ー④
「俺は、本当の意味でお前の祖父ではない」
オマエノソフデハナイ。
言葉自体は理解できるが、意味は全く理解できない。
は?何を言っているんだ?
数秒か、数分か、とにかく間を置いて、ようやく言葉の意味は理解できたが、信じられない。
祖父でないなら何なのだ?
固まっている烈火を気遣うように、茂雄はゆっくりと話を続ける。
「俺の名前は、遠山茂雄。それは本当だ」
「だったら、家族じゃないか」
烈火はすかさずそう言う。恐らくこの後理由を説明してくれるのだろうが、聞きたくないから。家族と言うことにしておきたいから。
「いや、正確にはお前の本当の苗字の方が違うんだ。遠山というのは俺がそう思い込ませていたんだ。お前の本当の苗字は継島という」
その名前を聞いた時、烈火の心の中に芽生えたのは、ただ純粋な懐かしいという気持ちだった。全く聞いた覚えはないのに心臓がきゅっとなるような感覚。
そんな感情が湧くことに烈火は驚く。
それでも、それとこれとは別で腑に落ちないことがある。
「何で俺は苗字を変えることになったの?」
「それを説明するには、先程の怪物について知らなければならない」
半ば忘れかけていた怪物の姿を烈火は再び思い出す。
「先程、お前を襲ったあの怪物。あれは名を穢塊という生物だ」
「・・・えかい?」
「ああ。穢れの塊。意味はまぁ、そのままの意味だ」
いきなり始まる超常の話。
「穢塊についての説明は簡単に、漫画やらでよくある悲しいとか、辛いとか、苦しいとかの負の感情が積もって生まれる存在だ」
茂雄は簡単に言うが、そんな生物が現実にいるのだろうかと未だに思ってしまう。
「その穢塊は人を襲って殺す・・・それは本能だとされている。ここまでは分かるか?」
「え・・・うん」
文明が発達した現代。幽霊などの存在は殆どの人間にとって創作物として理解されている。無論烈火を同じである。いや、今となっては同じであったと言うのが正しいか。
「そしてな、俺たちはそんな穢塊から人々を守るという仕事をしているんだ。職業名を言うなら、陽術師ってとこかな」
「よーじゅつし」
「あぁ、お前が先程見て、自分でも出したと言うその炎。それが〈陽術〉と呼ばれる物だ。俺たちが強力な穢塊に対抗するために生み出した物だ」
「・・・それは、まぁ分かった。でも、それが何で俺の苗字を変えることに繋がったの?」
烈火は一番知りたいのはそっちだ。
「あぁ。それじゃあ本題に入るか。俺たち遠山家はな、代々お前の家である継島家に仕えてきたんだ」
「仕えてきた?戦国時代みたいな感じで?」
「・・・まぁ、そんな感じだ。継島家は陽術の世界でかなり有名な名家なんだ。俺たち以外にも複数の家が傘下についていた。その中でも、俺の家が筆頭だったと言うわけだな」
「・・・へぇ」
「数多くの実績、傘下との信頼関係、優柔な人材の育成、どれをとっても完璧の素晴らしい家だった・・・・だがな、十三年前。とたる事件が起こった。その事件でお前の両親は命を落としたんだ」
「事件?事故じゃなくて?」
「・・・あぁ。その事件を起こしたのは穢塊。その中でもかなり強い奴だった」
「強い奴ってのは?」
「穢塊にはランクと言うのがあってな。基本的に強くなるにつれてどんどん大きくなっていくんだ。先刻お前を襲った穢塊はBとカテゴライズされるものなんだ。しかし、穢塊は強さを極めると、知能が上がり、姿形も我々と同等のものになる」
「・・・」
思い出すのも辛いのか茂雄は涙を堪えるように、目尻にグッと力を込める。
「事件が起こった日、継島家の総本山である金烏の館にて、継島家の傘下が全て集まる大きな会議が行われていた。
それを狙っていたのは分からないが、そこに奴が現れたんだ。そいつの名前は、千呪と言う」
「・・・千呪」
実感はないが、仇の名前だ。
ここで、茂雄の左目から一筋の涙が流れる。
「ちよっ・・・無理しなくても」
「いや、俺にはお前に真実を伝える義務がある。聞いてくれ」
「・・・わかった」
「千呪というのは、現在確認されている穢塊の中でも最強とされている個体だ。金烏の館に集まっていた傘下の人間は勿論全力で迎え撃った。けれど、千呪にとっては足止めにもならなかった。まるで虫を潰すように簡単に人間が死んでいった。あれはまさに地獄だった」
その情景は想像するだけで、吐き気がしそうなほどひどいものだったのだろう。
茂雄の手は小刻みに震えている。それは後悔からか、恐怖からかは分からない。
「その時、お前の両親は急に入った任務で一瞬離れたところにいた。お前たちの護衛はほとんどいない状態だった。抵抗虚しく、ついに魔の手がお前と妹に伸びたんだ。そしてーーー」
「ちょいちょいちょい!ストップストップ」
「なんだ?」
なんだじゃないよ。妹って何!?」
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