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ミラクラーズ  作者: 神渡楓(カワタリカエデ)
3/20

君への贈り物ー③

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」


その怪物は不気味な笑い声をあげると、じっと烈火を見つめて、異形の口を卑しく歪める。


ゾワッと、背筋が震え、明確に死をイメージさせる。

(コイツはマジでやばいっ!どうにかして逃げねぇと)

烈火は血だらけになった体を無理矢理起こして、怪物から逃亡を図る。


瞬間、僅か一秒前に烈火が立っていたところに、怪物の鋭い爪が突き刺さり、地面に大きく亀裂を入れた。

あれが、当たったらただの人間である烈火の体なんて噛んだプチトマトのように弾けて消えるだろう。

この鋭い爪の威力なら車でさえも簡単に破壊できそうだ。

額から無限に垂れてくる血を左手で押さえてながら走って、走って、走り続ける。


どうにかして、家の中に逃げ込みたいが、玄関前に怪物が居座っているのでそれは叶わない。

「こうなったら!」

烈火が選択したのは家の裏側に回って裏庭を通り、整備されていない側の山を下ってそのまま町まで降りてしまう作戦だ。

裏側は、道が舗装されている表とは打って変わり、木々が生い茂り、地面もかなりでこぼこだが小さな頃ずっとそこで遊んできた烈火にとってはこれ以上ないほど有利なフィールドだ。

おまけに相手は超巨体。隙間が小さい所では

思い通りに動けないだろう。

そうと決まれば、迅速に動くのみ。

烈火は裏庭に行くための、小屋横の道に駆け込む。

突然、怪物は追いかけてくるが、ここにはそうそう入ってこれないはずだ。

と、烈火は考えた。


しかし、怪物ははその鋭い爪と、ブヨブヨしていそうな見た目とは裏腹に実はかなり硬い皮膚を使って小屋ごと破壊しながらずんずん進んで来る。

それでも紙一重で魔の攻撃を避け続ける烈火。

しかし、その奇跡の逃亡劇は、長く続かなかった。

月に反射して美しく光る、醜い爪の一撃が、ついに烈火の太腿を捉えて一閃。

横一直線に皮膚がすっぱりと切れ、まるで噴水のように違う飛び出る。

足が千切れなかっただけマシだがもちろん走ることなんで出来るこわけはなく、そのまま滑り込むような形で烈火は地面に倒れる。

 

ーーー痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱いっ!

 

地獄の大釜で茹でられるような耐え難い灼熱が烈火を襲う。大怪我の時に感じるのは痛みではなく、絶え難い熱さだと何処かで聞いたことがあったが、それは本当だったんだと思う。

ドクドクドクと速くなり続ける心臓の鼓動が脳内に響き、恐ろしい勢いで血が体外に出ていくのがわかる。恐怖と痛さで意識が飛びそうになる。


どうにか意識を保っているのは死への拒絶だろうか?

今となってはそんなことはどうでも良いのだが、最早逃げらない烈火。

その体に怪物の巨大な手がすっと伸びて、小さなお菓子を摘むようにひょいと持ち上げる。

ぼやけた視界から見えるのは、涎をダラダラと垂らした怪物の姿。


嫌だ、死にたくない。死にたくない!


その気持ちとは裏腹に、脳の一部は死を受けているのか、走馬灯が流れる。翔や茂雄との思い出が大半を占める写真がフィルムに繋げて流れているような感覚。


死にたくない・・・体育祭、翔が応援団長だったんだよなぁ。優勝したんだっけ?・・・死んでたまるかっ ・・・確かこのまま先生に怒られたんだっけか・・・嫌だ、やめてれ・・・あぁ、昔はよくつまみ食いしてたなぁ・・・痛い痛い・・・あーこの人懐かしい山中さんどこ引っ越したんだろう?・・・


思い出と拒絶が交互に溢れる。


・・・死ねない・・・あの漫画結局谷原が持って帰ったんだよな返してもらわないと・・・絶対に死ねない・・・ん?この女の子誰だろう?記憶にないけど何処か、懐かしい。

 

その時、腹の奥から広がり、体の中全体が熱くなった感覚を覚えた。

不思議な感覚だ。体の中に現れた熱は心の恐怖を溶かしてくれるように感じる。


その熱は左腕に集中する。

何故かはわからないが、本能の赴くままに烈火はその腕を怪物に向けた。

瞬間、オレンジ色のマグマのような焔が手のひらから飛び出した。

「・・・は?」


「ぎゃおえあばっ!」

怪物は叫んで、烈火の体を離す。

どさっと音も立てて地面に打ち付けられるが、アドレナリンがようやく出てきたのかここにきて痛みが消えた。

何があったかは分からないがラッキーだ。今のうちに逃げなければ!と、烈火は立ちあがろうとする。しかし、

・・・太腿から下の感覚がない。動けない。忘れかけたが、烈火は足をすっぱりと切られているのだ。


奇跡に歓喜したのも束の間、顔を覆った炎が消えた怪物は今度こそ、余裕を一切感じさせない、ただ純粋な殺意だけを持って近づいてくる。

(・・・一瞬希望チラつかせてコレって・・・んなことありかよ)

これだけ抗っても勝てない。これはもう勝ち目がないと思った瞬間、烈火の心から不思議と恐怖が消えていった。

その無防備な体に、爪が伸びる。

 

・・・

・・・・

・・・・・?


(あれ、俺生きてる?)

不思議と烈火は死んでいない。不思議に思って瞑っていた目を開く。すると、眼前に広がっていたのは布や紐が怪物にキツく巻き付いて身動きを取らせていないという光景が広がっていた。

「なんだ?コレ?」

烈火が困惑している内に、さらに不可解な現象が発生した。


「〈焔柱えんちゅう〉!」


夜空と森に声が響く。瞬間、怪物の真下の地面が下側から爆ぜる。そのまま大きな炎の柱が空に向かってうねりながら昇っていった。

その焔は怪物の体を執拗に焼いていき、断末魔を響かせる。そして、

「今だっ!トドメを刺せっ!」

炎の柱が止まり、それでもなお虫の息ながら生きていた怪物に向かって一人の人間が手を伸ばす。

「眠れ」

言うと、手で掴んでいた毛糸の球が巨大な槍の形に変化して、怪物の胸をグサリと貫き、その生命活動を完全に止めた。

死んだ怪物の体は蒸発し、塵となり、煙と共に数秒で跡形もなく消えていった。


「辺り一体に残穢確認されず。原時刻をもって討伐作戦を終了する!付近の住民等に被害が出ていないか迅速に確認しろ!」

リーダー格だと思われる男が支持を飛ばして周りにいた数人の大人が返事をして散らばっていく。

しかし、一人だけ、先ほど、怪物にトドメを刺していた青年だけがリーダーの男の隣に残っている。

「隊長。どこまで伝えられるんですか?」

「・・・どこまで覚醒してるかだな・・・これからは俺の任務だ。お前は気にせずに行け」

「・・・了解しました」

そう言って、青年は烈火を一瞥したのち、木に糸を引っ掛けて飛んでいった。


「じいちゃん?」

烈火は呟く。リーダーの男の声は茂雄のものに聞こえたのだ。

その声は届いたのだろう。

狐のを象った面をしていた男はゆっくりと剥がしていく。果たして露わになった顔は、やはり祖父で育ての親、茂雄のものであった。

宙に浮いていた茂雄はゆっくりと地面に降りてきて、烈火の肩に手を置いた。

「烈火・・・怪我はないか?」

いつも聞いている優しい声だ。

「うん。大丈夫・・・いや、ぶっちゃけ太腿がやばい。もう死にそう」

烈火が伝えると茂雄は腰につけていたバッグから緑色に輝く宝石のような物を取り出すと、それを烈火の太腿付近に近づけて、

「発動」

と、唱える。

すると、すっぱりと切れていた太腿の傷はみるみるうちに治っていき最終的には髪で少し切った程度まで回復した。

「すげぇ」

「烈火。一つ聞いてもいいか?」

「・・・え。うん。どうしたの」

「お前は先程の光景が何処まで見えていた?」

「え?さっきの・・・なんかよくわからない怪物に追いかけ回されて、それをじいちゃんたちが焔とかでやっつけてくれた?」

質問の意味が分からなかったが、正直にありのまま見た光景全てを話す。

それを聞いた茂雄はショックを受けたように口を抑える。

そして、烈火は最も気になったことを話す。

「あのさ、じいちゃん」

「・・・なんだ?」

「俺もさっきさ、じいちゃんたちが来る少し前に、手から炎、出たんだよね」

「・・・まさかここまで進んでいたとは」

茂雄にとって何か想定外のことが起きたのだろう。茂雄は冷や汗を垂らしながらしばらく無言で考えて、烈火の目をしっかりと

わ見つめる。

「烈火。これから俺が話す事は、全くもって信じられないことかもしれない。でも、とても大切な事なんだ・・・聞いてくれるか?そして、信じてくれるか?」

普段聞くことのない不安が混じった声だった。

烈火が先ほどまで経験していたのは普通に生きていたらまず巻き込まれないであろう超常現象だ。今ならどんな話もすんなり受け入れられる気がした。

「うん。信じるよ」

「分かった。なら初めに俺はお前に謝らないといけないことがある」

「謝らないといけないこと?」

「ああ・・・」

茂雄は何かを惜しむように唇を震わせながらゆっくりと言葉を紡いだ。


「俺は、本当の意味でお前の祖父ではない」

物語の加速はここからです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が事件に巻き込まれていく 描写が良く書けていました
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