ちょちょぷりあん 接触編
ここは温泉と野球と俳句とみかん……だけではない他にも良いところがあると思うが思いつかない街、愛媛県松山市。私は住んで二年程になる。住んでいる理由はここに摩訶不思議なものが多い……と言われているからだ。所謂、私はオカルト好きだ、つまり幽霊だとかツチノコだとかUFOだとか、そういうものだ。
そんな摩訶不思議なことにテレビやインターネット等では専門家だとか視聴者やタレント達も見たことある、体験したことあると言うが私自身はそう言ったものは見たことがない。
見てみたいし、遭ってみたいがそんなことが一切ない。何故だ? 最近、私が読んだ本にはある温泉宿に色んな神様が泊まりに来るとあるんだがそんな宿も見つからない。どういうことだ?
そんな宿は見つからないが良い食べ物は見つかる。スーパーや道後のお土産屋さんや和菓子屋さんにあるタルトは最高だ。
タルトとは卵と砂糖と小麦粉で作った生地に炊きたての餡を塗り、 手作業で美しい「の」の字になるように手巻きする。しかし、ここで疑問がある。
タルトという名前でよく分からない円形の堅そうな生地の上に果物やクリームが乗ってる洋菓子のこともタルトというのだ。
同じ名前のお菓子があるのか……不思議なものだな。そう言えば、サクラ鍋とかボタン鍋と言って桜や牡丹が入ってるのではなく馬や猪の肉が入っているのだが……『サクラ』や『ボタン』という『品種』なんだろうか? よく分からないなぁ……。
さて、タルト以外に美味しいものがある。それは坊ちゃん団子と言って抹茶餡、黄身餡、小豆餡の餡子、色で言えば緑、黄、茶の串に刺した三色団子がある。これがまたタルトとは違った美味さがある。中にはこちらの方が好きだという人もいるほどだ。
道後商店街を一通り歩いた帰る前に私はいつものお土産屋さんに行ってその坊ちゃん団子を買おうとした。いつもと同じ道だが今日は違った、店の前には『ちょちょぷりあん』が浮いていた。『ちょちょぷりあん』とは坊ちゃん団子が大好きな宇宙生命体だ。
でも何故か真ん中の黄色の団子だけを食べて、他の二つは誰かにあげるという勿体無いことをする奴だ。三十センチメートルの藍色のビー玉のような体と下の方に雑草のような足が十本生えている奇妙な姿をしている。では餡子が好きなのかと一度赤福餅をあげようとしたら藍色の体が真っ赤になり、足をペシペシされたことがある。何故だ?
この『ちょちょぷりあん』は大変悪戯好きで人の頭上に金盥を落とすことがある。これは見聞きしたことではなく、その場で見たことがある。特に昨日は道後商店街で大量発生した時にどれだけ金盥をぶつけられるかを競うオフ会と化した時は恐怖したものだ。
私はなんとか避け続けて坊ちゃん団子を購入出来たのだが素早く真ん中の黄色の餡子を食べられたという失態を犯したことがある。あの時の屈辱は宿敵を倒して浮かれている中で何故か腹部に新型の爆弾をぶちかまされたような気持ちになったものだ。
ところでこの『ちょちょぷりあん』はここで一体何してるんだ? 浮いてるだけでまた何もしない。日向ぼっこなら商店街にはアーケードがあるためあまり意味がないだろうし、坊ちゃん団子を買いたいようでもなければ、狙っているのでもなかった。
まぁ、『ちょちょぷりあん』はコミュニケーションは取れるし、なんとか会話も出来るから解決は出来るだろうと思い、私は彼……彼女……? に対して何もすることなく、坊ちゃん団子を買って坊ちゃんカラクリ時計の近くにある放生園の足湯で食べることにした。
放生園の湯釜は明治二十四年から昭和二十九年まで道後温泉本館で使用されていたものだ。そんなに年季入っているのに未だに比較的綺麗に残っているのを見ると地元の人から愛されているのがよく分かる。
私は坊ちゃん団子を取り出すと視線を感じる。確かに足湯に浸かりながらあんまり食べるのは行儀が良くないような気がしなくもないが……足湯で坊ちゃん団子食べてる写真を見たことあるし、紹介してる人がいるから怒られるようなことでもない気がするのだが……。
視線の方を見るとそこには『ちょちょぷりあん』が浮いていた。なるほど……この『ちょちょぷりあん』は私の坊ちゃん団子を狙っているのか……。カラクリ時計から流れる伊予万歳が試合開始のゴングに感じた。
坊ちゃん団子は二本あるが『ちょちょぷりあん』には一個もやらん! そう思い、素早く開け、一気に口に入れる。すると、勢い余って串で喉を突いてしまった。
情けない咽せ方と姿をしてると私の背中を摩ってくれる感覚がした。涙目になりながら振り返ると『ちょちょぷりあん』が足を使って摩っていた。なんと優しいんだろう……。この『ちょちょぷりあん』にもう一つの坊ちゃん団子をあげようとして、手にかけようとした時だった。
頭に鈍い音と衝撃が走ったと思うと私はついつい頭を両手で抑えた。更にそれは鈍い音をたてて地面に転がっていった。金盥だった。頭上を見ると『ちょちょぷりあん』が居た。その上に居た『ちょちょぷりあん』は金盥を持って、どこかへ去っていった。
何故金盥を私の頭に落とす必要があるのだと思っていると背中を摩っていた『ちょちょぷりあん』からテレパシーが来た。
「こないだ、あんたが空気読まずに金盥に当たらへんかったからや……」
私はため息をつきながら残ってあったもう一本の坊ちゃん団子の真ん中を食べてから『ちょちょぷりあん』に渡してやるとまた金盥が私の頭上に落ちてきた。