途切れていく
目の前で微笑んでいる老人
誰だろう?
俺のそばにいて何かを語りかけている。
俺の知らない名前を出して、嬉しそうに語りかけている。
不思議な感覚だ。
何か懐かしい。
俺は今まで何をしていたのか?
ベットで休み、白衣?
誰かが話しかけてくる。
この白衣は見覚えがある。
何時も俺のことを気づかって、かいがいしく世話をやいてくれている。
そういえばこの老人も毎日見ているような?
ふー、何も浮かばない・・・。
俺の頭はどうなったんだ?
俺は誰だ?
ここはどこだ?
段々怖くなって周りを見渡す。
ここはどこ?
怖い・・・。
俺は、動けない。
何が起きているんだ俺の体は?
今俺は混乱している、震えている。
そんな状況で俺の手が暖かな何かに包まれた。
動かない体。
それでも視線で何が起きているか確認する。
俺の手を老人が力いっぱい押さえているようだ。
その目は不安がいっぱいで・・・。
その不安な目、俺は知っている。
俺の子供が生まれるとき、難産になりそうと言われた君。
俺が仕事に疲れたときに愚痴を言っているときに見た顔。
子供がこの人と結婚すると、ヤンチャそうな男をつれてきて、怒鳴っているところをなだめた時の顔。
俺が大病を患い、何とでもなるといった時の顔。
今でも思い出す?
思い出す?
俺は知っている、あなたの顔を。
何時でも自分の事より俺の事を心配するあなた。
あー、その手・・・。
ここまで苦労をかけた・・・。
何故俺は思い出せないんだろう?
あなたといた幸せな時間を。
幸せだったことは覚えている。
だけど思い出せない・・・。
また次の記憶も繰り返すのだろうか。
またこの老人は誰だ?
そんな思いから始まるのか。
誰か教えてほしい、この思いを持ったままいる方法を。
世界で一番大切な人の事が頭に残ったままいる方法を。
・・・
・・・・
何か白衣の人が慌ただしくなってきた。
何だ?
俺の体に触れないでくれ!
俺に触れるのは・・・。
あー、体に何か付いている。
・・・・
・・・・
どうして悲しい顔をしているの?
俺が何も伝えられないから?
・・・・
ごめん、今なら言える。
あなたを世界で一番大切にしたい。
あなたを世界で一番愛している。
もう忘れない、あなたとの幸せな記憶を。