伝説の極道、その名も将門
承平天慶の乱を極道風にアレンジして描いてみました。
残念ながら、ギャグ要素はありません。
たまには、真面目に書いたっていいじゃない。
「オヤジ、また朝廷から通達が来てますぜ」
「なんて言ってやがんだ?」
「新皇なんてふざけた事を抜かしてんじゃねぇ。これ以上、親に逆らうなら、破門した上でぶっ潰すぞ! だそうです」
「相変わらず連中は、わかっちゃいねぇな」
「どうするんですオヤジ。このまま放置すると、宮家と戦争になりますぜ」
「今更、破門も何もねぇだろうが! そもそも、俺は独立してんだ。今更、あいつらの言う事を聞く義理はねぇ」
「純友のオジキも、だいぶ不満が溜まってる様ですしね」
「俺とあいつは、似たような境遇だしな。あいつも、そろそろ爆発する頃だろ」
「やるんなら、純友のオジキがやらかした後ですか?」
「そうだ。東西から事を起こせば、奴らの戦力を少しは削れんだろ。そうすれは、やつらと手打ちがし易い。それより将頼、てめぇは貞盛の奴を見張っとけ」
「国香のオジキの件ですか?」
「あいつは、間違いなく根に持ってやがる。しつけぇぞ、あの手の野郎は」
「わかりました。オヤジ」
京から遠い関東では、本家の威信が届かない。源組の護一家と平組の真樹会の、縄張り争い。玄明会の横暴等。当時の関東では傘下の組同士が権力争いを繰り返していた。当然に被害を被るのは、一般市民である。
「俺達は渡世人だ。だがな、堅気の衆に迷惑をかけちゃぁ、渡世人の名折れってもんだろ」
そして、下総で家業を継いだ将門は、叔父方の国香との抗争から始めとし、各地で暴虐の限りを尽くす傘下の組を叩きのめす。
そして将門は、関東のやくざを平定し、この地に安定を取り戻す。しかし、その行為は本家への反乱と見なされた。
そこで将門は、自分の正当性を主張した。
一旦は、本家を納得させたものの、将門の中に本家への不信感が高まっていた。
将門自体、本家組長の血筋を引いている。関東という遠い地に送られてる故、本家の跡目を継ぐことは叶うまい。
それ自体は、大した問題ではないのだ。
本家の威光が届かない、それ自体が問題なのだ。だから、関東の地が荒れた。自分が行動を起こさなければ、どうなっていたか。
本家筋の者達は、傘下の組を押さえ付ける事をせず、のうのうと京で優雅な暮らしをしている。しかも、地方の直参から徴収した会費を使って。
それは何の為、誰の為の任侠なのだ。京で任侠が廃れたのなら、親と袂を分かっても、己が任侠の道を示せねばなるまい。
そして関東を平定した将門は、傘下に収めた組をまとめ本家から独立し、自ら新皇を名乗った。
自分達に対抗する、巨大な組織が出来上がったのだ。本家筋の者達は、面白くない。そして、将門に独立を認めない旨を告げる。
しかし将門は、それをつっぱねた。
ただ、幾ら任侠道を謳ったとて、力で押さえ付けて関東を平定したのだ。
将門に対して、何かしら思う者は存在する。特に抗争の際、実の親を殺された国香会の二代目平貞盛は、怨嗟の念を隠しながら恭順している。
内に火の粉を抱えたまま、本家筋との抗争は出来まい。今は、地固めをする時なのだから。
しかし本家筋は、その隙を見逃さなかった。
既に西国では、藤原組系の純友一家と戦争状態に陥ろうとしている。これ以上、本家に弓を引く組が現れれば、長く続いた宮組の根幹を揺るがしかねない。
そして、本家筋は最後通告の意味も込め、若頭である藤原組系忠文会の会長、藤原忠文を将門の下へ向かわせる。
如何に若頭とは言え、相手は武闘派の将門である。苦戦は必至。そこで忠文が講じたのは、将門に恨みを持つ者達を動かす事であった。
「貞盛よぉ。てめぇは、実の親をぶち殺されて、悔しかねぇのか? それでも極道か?」
「親父は負けた、それだけだ。それに、関東の藤原組は酷すぎた。特に玄明会の横暴は、目に余る。いずれにしても、新皇は関東を制した。それが嘘偽りの無い事実だ」
「恨みつらみってのは、簡単に消せるもんじゃねぇ。てめぇは、将門の野郎を恨んでる、そうじゃねぇのか?」
「当たり前だ。良兼のオジキだって、新皇に殺されたようなもんだ。だがなぁ、それでも新皇は関東を救った。てめぇら本家の人間が見放した、この関東をよぉ」
「いいか、よく聞けよ。天下に長は一人でいい。二人もいたら、天下がひっくり返る。それこそ、動乱の幕開けだ。将門の野郎は殺さなきゃならねぇ、わかるな? それに、ここでお前が動けば、幹部に取り立ててやる」
確かに、幾ら将門が任侠道を謳い、堅気の衆から人気が有っても、実の親を殺された恨みを消せはしない。
忠文が調略したのは、貞盛だけではない。
抗争に敗れた事で将門に恨みを持つ、藤原組系の為憲組を味方に引き入れる。また、同じ藤原組系だが、将門の傘下に入らなかった、武闘派の秀郷一家の説得に成功する。
それは丁度、抗争がひと段落した為、傘下の組織をそれぞれ、留守にしていた地元へ帰した時の事だった。貞盛を中心として、藤原為憲や藤原秀郷らは、将門に反旗を翻す。
その時、将門の下にいたのは、幹部を含めた僅かな組員しかいなかった。対して貞盛率いる連合軍は、その四倍近くの戦力がある。
特に藤原秀郷の活躍は凄まじく、破竹の勢いで将門の戦力を削っていく。ただし、将門も負けてはいなかった。
「秀郷! てめぇは、俺が直々に相手をしてやるぜ」
「かかってこいや! 最早てめぇに義はねぇ!」
秀郷とのタイマン勝負は、決着がつかなかった。それよりも早く、将門の陣営が押され始めたのだから。将門は撤退を余儀なくされる。
ただし、この敗走が将門に火をつけた事は、間違いない。
将門は各地を転々としつつ、味方を集めようと画策する。しかし、思うように味方が集まらない。既に各地には、将門の悪評が流されていたのだ。
味方が集まらず、地元へ帰した傘下の組織は、到着していない。
そんな中、最後の戦いが始まった。
窮地に追い込まれた将門は、悪鬼羅刹と化した。圧倒的な戦力差を物ともせず、次々に連合軍を打ちのめしていく。
激しい戦いの中で、連合軍のほとんどが逃走する。そして、将門と幹部達が勝利を確信した時、それは起こった。
一発の銃声が鳴り響く。
「オヤジぃ~!」
幹部達の叫びが空しく響く。将門は頭を撃たれて、即死していた。その後、撤退した幹部達は次々に打ち取られる。
かくして、将門組は壊滅した。
確かに一部の者達は、暴虐の限りを尽くした。それは、本家から遠い関東の地で、辛酸を舐め続けた結果、道を間違えたのだろう。
天下を二分したかったわけではない。関東の者達を救いたかった。
将門の想いは、ここに潰えた。
壮絶な抗争の末に倒れた将門は、伝説となる。
その後、数多の極道達が将門を崇拝し、任侠道を歩む事になる。
「珠よ。これまでと雰囲気が、ガラリと変わってしまったが良いのか?」
「仕方ないですよ。だって、将門さんをギャグ仕立てには出来ないですし」
「それは、お前の技術的な問題ではないか?」
「くっ、流石ですね。確信を突いてくる」
「まぁいい。俺が登場する事は、二度と無いだろうからな」
「えっ? もう出て下さらないですか?」
「うん? お前は俺を題材に、もっと面白い物が書けると言うのか?」
「い、いえ。それは」
「なら、仕方なかろう。さらばだ珠よ」
「ま、将門さん! 将門さ~ん!」