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 ついに真のラスボスが姿を現す―――


 顔は魔王様だが頭のネジネジ角は4本、背中に大きな蝙蝠(こうもり)の翼もある。

 これぞ『ザ・魔王』の出で立ちだ。

「この姿、全くオリジナリティないよなあ。アンタもそう思わね?」

 気軽く話し掛ける第2魔王に警戒しつつ、なんとか魔王様の体を部屋の隅に移動させる。より安全だと思う場所―――抉じ開けられた檻へ。

「ホント健気だねえ」

 面白そうに呟く第2を私は睨み付ける。

「貴方が出てきたって事は魔王様は倒されたって事?でも魔王様の体はココにある。どういう――」

「アンタが精神的にコイツを倒しちゃったとゲームが判断したんだろうな」

 魔王様と同じく直球で話すタイプのようだが、やっぱり意味がわからない。

「アンタのアプローチが全て効いたんだよ。どストライクだったみたいだぜ?激レア『スマイル』に『告られ』に、『抱きしめ』『愛してます』の二段落とし。いや爆発しろよと思ったよ」

 なんだろう、ものっくそ腹立つ。

 コイツ必ずボコってやる!

 第2は身構える私の顔を(のぞ)く。

「…あったまったかな?」

「何が」

 もう不機嫌は隠さない。

「アンタの闘争心が。オレもガチで楽しみたいからな」

 第2は不敵に笑う。

「ご存じの通りオレは『素早い』。他の特徴は戦って勝手に気付け」


 勝てるだろうか。いや勝つ。

 勝った先に何があるのかわからないけど絶対勝つ。

 状態異常無効化の盾を構える私を、第2は一睨みすると、いきなり角からビームを発した。

 ビーム!魔王ってビーム攻撃なんだ!

 コントロールが悪いのかビームは私を大きく外れ、後ろの壁に当たる。

 そして壁は大きく穴が空いた。

 今まで周りの破壊はなかった。エスパータイプ中ボスさんの時でさえ。

 新鮮な気持ちになる私に

「余所見すんなよ」

 間髪入れずさらに物理攻撃をかます。

 一撃でHP半減のアレだ。

 タッチの差で辛くも回避した私はとにかく自分に『回避』を掛ける。

 前は無様にヤられたが、今回そうはいかせない。

 まがりなりにボス戦こなしてきた成果だな。

 ありがとう歴代ボスさん達(除く『哀れみ』別人)。

 相手の攻撃をかわしつつまずは第2の翼を封じる。

 角ビームは威力はあるが、案外コントロールは悪いらしい。

 飛行>ビーム

 という事で先に翼を潰した。

 野放しにしていた為、周囲はビームでどんどん廃墟と化している。

 外は雨らしく床にどんどん水溜まりができる。

 魔王様は大丈夫だろうか。

 振り返ろうとする私を第2は茶化す。

「おんなじ顔なのにオレじゃダメか?」

 目の端に魔王様の無事を確かめ第2に向き直る。

「やだ。貴方は魔王様じゃないもの」

「いや『魔王様』に変わりはないだろ」

 そう言いながらどんどんビームを放っていく。ノーコンは気にならないのか周囲はさらに瓦解し、今や玉座のある野外としか言えない。

 雨が降りしきる。

 雨の中の戦闘なんて珍しい―――。


 ハッと気付く。

 ようやく第2の狙いがわかった時は遅かった。

「滑るだろ?しかも素早く動こうとすればするほど滑る。勿論コッチも滑る。お互い移動に不確定要素が出る訳だ」

 第2は楽しそうに話す。

 話ながらさらにビームを放っていく。

「しかもオレのHP残量が半分になるとランダムで落雷もくる。勿論どちらにも」

「面白いようにフェアね」

 (うそぶ)く私に第2は笑う。いっそ快活に。

「アンタはホント良いな。オレは楽しみたいんだ。この無駄な難易度をさ」


 もうどのくらい戦い続けてるだろう。

 回復薬は尽きてしまった。

 MPもMP回復薬もヤバい。

 雨空に雷鳴が(とどろ)く。

 とうとう第2のHPが半分切ったのか。

 稲妻が野外ステージと化した『魔王の玉座』を照らす。

 ココは魔城の最上階だ。勢い余って滑ると、端で止まらず落下してやはりゲームオーバーなのだろう。

 どれもこれも詰みだ。

 先に角を封じるんだった。

 でも後悔は後でするものだ。

 私は『ケラソスの剣』を構える。

 エスパータイプ中ボスさんに教えてもらった最後の宝箱に入っていた。

「『ケラソスの魔城』とタイトル付けたので、関連性を持たせる為の苦肉策で生まれた武器でしょうね」

 中ボスさんが言っていた。

 全くアッチコッチがダメなゲームだ。


 ふいに第2に声かけられた。

「アンタ笑うんだな」

 …え?

「アンタ今笑った。さっきの悪人顔より断然可愛い」

 と言ってる第2に雷が落ちる。

 ダメージをくらったらしく「チッ」と口を鳴らすのが聞こえる。

 精神攻撃くらわそうとして自分が物理でダメージ受けるとか世話ない。

「…第2ってバカじゃね?」

「ん?オレに惚れたか?」

 惚れるわけないだろ。

「オレも感化されたかなあ……ま、でも」

 言いながら手を合わせると光の玉を作り出す。

 その光の玉は横に長く伸びたかと思うと剣の姿となる。

「!」

 第2はその手に私と同じ「ケラソスの剣」を発現させた。

「オレの体力3分の1で出せるんだ。粘るよなクリエイターも」

 第2は笑い、私は絶望する。


 『ケラソスの剣』は武器でありながら特殊アイテムでもあり、打倒魔王の最強で最凶の武器だ。

 実はさっき一度、特殊効果を発動させている。

 状態無効化された上に私がダメージを受けた。

 だからもう発動はやめた。


 つまり、

 特殊効果がランダムでどんな効果も発動する。例えば治癒(ヒール)も復活も当たればできる。なんなら『猛毒』も『一撃必殺』も。当たれば大打撃どころか1回発動でゲームクリアも可能と思われ。

 そして特殊効果の掛かる対象も敵味方なくランダムと。


 つまり、

 当たれば一発逆転だが外せば一発ゲームオーバーという。


 これをランダム大好き男が手にすると

「行くぜ特殊効果発動!」

 場に風が沸き起こった。

 雨と雷に暴風ときた。

 持続型全体攻撃とか『ケラソスの剣』すごい。

 てか、

 どんだけ両者自滅型好きなんだよ第2!


 踏ん張らないと位置がズレる。

 このまま攻撃を受けなくてもジリジリと風に足を取られて落下ENDだ。いやその前に落雷クリティカルのENDもあるか。

 横殴りの雨で視界が悪くなる。

 檻の魔王様の姿も霞む。

 もう時間は掛けられない。

 覚悟を決めなきゃ。

「ホラまた笑ってる」

 真後ろで声がした。

 こんな中で第2に後ろ取られるとか、どんだけ絶体絶命なんだ。

「なんで顔を見ないでわかるのよ」

 振り向くスキに攻撃仕掛けられるだろうからこのままで訪ねる。

 時間稼ぎだ。

 何か何か考えなきゃ。

「ん?魔王だからかな?アンタの笑うツボはわからんが、やっぱり可愛い。キレイで―――切ない」

 素早さが売りのはずの男は、攻撃するでもなく、ふと私に触れる。

 そして後ろから肩を抱かれた。

 間合いゼロだ。


 ―――(ひらめ)いてしまった。


 魔王様は悲しむかな。

 ああでも他にもう思い付かない。

 回された第2の腕に触れる。

「貴方達はこのゲームをボロクソ言ってるけど、私はとっても楽しかったよ」

「アイツに会えたから?」

「それが一番。そして貴方達に会えたのが二番。三番は雨の桜を愛でられたから」

 私の心に桜が舞う。

「クリエイターさんには感謝しかないよ。ありがとう本当に楽しかった」

 桜は白くほんのり紅が霞んで

「魔王様に会いたかった。そしたら会いに来てくれた。この世界を知りたかった。そしたらこの世界に(さら)ってくれた―――私は」

 そっとケラソスの剣を合わせる。

「大切にしてくれた人を大切にするよ」

 特殊効果発動!


 第2と私はくっついてる。ケラソスの剣も二振りともその剣先が私達にくっついてる。

 この状態での特殊効果発動は、内容如何を問わずダイレクトに私達を襲う。

 二振りが共振する。効果倍増だ。

 頭の中の桜が吹き荒れる。

 実際は何が起きたかわからない。

 わからないけど私は無事ではないだろう。

 多分これでゲームセットだ。

 勝ったか負けたかわからないけど。

 案外未練ないもんだなあ。

 ちゃんと意思表示できたし。

 告れたし。

 魔王様のあの笑顔はもう一度見たかったなあ。

 できればもう一度。

 ずっと。

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