9
ついに真のラスボスが姿を現す―――
顔は魔王様だが頭のネジネジ角は4本、背中に大きな蝙蝠の翼もある。
これぞ『ザ・魔王』の出で立ちだ。
「この姿、全くオリジナリティないよなあ。アンタもそう思わね?」
気軽く話し掛ける第2魔王に警戒しつつ、なんとか魔王様の体を部屋の隅に移動させる。より安全だと思う場所―――抉じ開けられた檻へ。
「ホント健気だねえ」
面白そうに呟く第2を私は睨み付ける。
「貴方が出てきたって事は魔王様は倒されたって事?でも魔王様の体はココにある。どういう――」
「アンタが精神的にコイツを倒しちゃったとゲームが判断したんだろうな」
魔王様と同じく直球で話すタイプのようだが、やっぱり意味がわからない。
「アンタのアプローチが全て効いたんだよ。どストライクだったみたいだぜ?激レア『スマイル』に『告られ』に、『抱きしめ』『愛してます』の二段落とし。いや爆発しろよと思ったよ」
なんだろう、ものっくそ腹立つ。
コイツ必ずボコってやる!
第2は身構える私の顔を覗く。
「…あったまったかな?」
「何が」
もう不機嫌は隠さない。
「アンタの闘争心が。オレもガチで楽しみたいからな」
第2は不敵に笑う。
「ご存じの通りオレは『素早い』。他の特徴は戦って勝手に気付け」
勝てるだろうか。いや勝つ。
勝った先に何があるのかわからないけど絶対勝つ。
状態異常無効化の盾を構える私を、第2は一睨みすると、いきなり角からビームを発した。
ビーム!魔王ってビーム攻撃なんだ!
コントロールが悪いのかビームは私を大きく外れ、後ろの壁に当たる。
そして壁は大きく穴が空いた。
今まで周りの破壊はなかった。エスパータイプ中ボスさんの時でさえ。
新鮮な気持ちになる私に
「余所見すんなよ」
間髪入れずさらに物理攻撃をかます。
一撃でHP半減のアレだ。
タッチの差で辛くも回避した私はとにかく自分に『回避』を掛ける。
前は無様にヤられたが、今回そうはいかせない。
まがりなりにボス戦こなしてきた成果だな。
ありがとう歴代ボスさん達(除く『哀れみ』別人)。
相手の攻撃をかわしつつまずは第2の翼を封じる。
角ビームは威力はあるが、案外コントロールは悪いらしい。
飛行>ビーム
という事で先に翼を潰した。
野放しにしていた為、周囲はビームでどんどん廃墟と化している。
外は雨らしく床にどんどん水溜まりができる。
魔王様は大丈夫だろうか。
振り返ろうとする私を第2は茶化す。
「おんなじ顔なのにオレじゃダメか?」
目の端に魔王様の無事を確かめ第2に向き直る。
「やだ。貴方は魔王様じゃないもの」
「いや『魔王様』に変わりはないだろ」
そう言いながらどんどんビームを放っていく。ノーコンは気にならないのか周囲はさらに瓦解し、今や玉座のある野外としか言えない。
雨が降りしきる。
雨の中の戦闘なんて珍しい―――。
ハッと気付く。
ようやく第2の狙いがわかった時は遅かった。
「滑るだろ?しかも素早く動こうとすればするほど滑る。勿論コッチも滑る。お互い移動に不確定要素が出る訳だ」
第2は楽しそうに話す。
話ながらさらにビームを放っていく。
「しかもオレのHP残量が半分になるとランダムで落雷もくる。勿論どちらにも」
「面白いようにフェアね」
嘯く私に第2は笑う。いっそ快活に。
「アンタはホント良いな。オレは楽しみたいんだ。この無駄な難易度をさ」
もうどのくらい戦い続けてるだろう。
回復薬は尽きてしまった。
MPもMP回復薬もヤバい。
雨空に雷鳴が轟く。
とうとう第2のHPが半分切ったのか。
稲妻が野外ステージと化した『魔王の玉座』を照らす。
ココは魔城の最上階だ。勢い余って滑ると、端で止まらず落下してやはりゲームオーバーなのだろう。
どれもこれも詰みだ。
先に角を封じるんだった。
でも後悔は後でするものだ。
私は『ケラソスの剣』を構える。
エスパータイプ中ボスさんに教えてもらった最後の宝箱に入っていた。
「『ケラソスの魔城』とタイトル付けたので、関連性を持たせる為の苦肉策で生まれた武器でしょうね」
中ボスさんが言っていた。
全くアッチコッチがダメなゲームだ。
ふいに第2に声かけられた。
「アンタ笑うんだな」
…え?
「アンタ今笑った。さっきの悪人顔より断然可愛い」
と言ってる第2に雷が落ちる。
ダメージをくらったらしく「チッ」と口を鳴らすのが聞こえる。
精神攻撃くらわそうとして自分が物理でダメージ受けるとか世話ない。
「…第2ってバカじゃね?」
「ん?オレに惚れたか?」
惚れるわけないだろ。
「オレも感化されたかなあ……ま、でも」
言いながら手を合わせると光の玉を作り出す。
その光の玉は横に長く伸びたかと思うと剣の姿となる。
「!」
第2はその手に私と同じ「ケラソスの剣」を発現させた。
「オレの体力3分の1で出せるんだ。粘るよなクリエイターも」
第2は笑い、私は絶望する。
『ケラソスの剣』は武器でありながら特殊アイテムでもあり、打倒魔王の最強で最凶の武器だ。
実はさっき一度、特殊効果を発動させている。
状態無効化された上に私がダメージを受けた。
だからもう発動はやめた。
つまり、
特殊効果がランダムでどんな効果も発動する。例えば治癒も復活も当たればできる。なんなら『猛毒』も『一撃必殺』も。当たれば大打撃どころか1回発動でゲームクリアも可能と思われ。
そして特殊効果の掛かる対象も敵味方なくランダムと。
つまり、
当たれば一発逆転だが外せば一発ゲームオーバーという。
これをランダム大好き男が手にすると
「行くぜ特殊効果発動!」
場に風が沸き起こった。
雨と雷に暴風ときた。
持続型全体攻撃とか『ケラソスの剣』すごい。
てか、
どんだけ両者自滅型好きなんだよ第2!
踏ん張らないと位置がズレる。
このまま攻撃を受けなくてもジリジリと風に足を取られて落下ENDだ。いやその前に落雷クリティカルのENDもあるか。
横殴りの雨で視界が悪くなる。
檻の魔王様の姿も霞む。
もう時間は掛けられない。
覚悟を決めなきゃ。
「ホラまた笑ってる」
真後ろで声がした。
こんな中で第2に後ろ取られるとか、どんだけ絶体絶命なんだ。
「なんで顔を見ないでわかるのよ」
振り向くスキに攻撃仕掛けられるだろうからこのままで訪ねる。
時間稼ぎだ。
何か何か考えなきゃ。
「ん?魔王だからかな?アンタの笑うツボはわからんが、やっぱり可愛い。キレイで―――切ない」
素早さが売りのはずの男は、攻撃するでもなく、ふと私に触れる。
そして後ろから肩を抱かれた。
間合いゼロだ。
―――閃いてしまった。
魔王様は悲しむかな。
ああでも他にもう思い付かない。
回された第2の腕に触れる。
「貴方達はこのゲームをボロクソ言ってるけど、私はとっても楽しかったよ」
「アイツに会えたから?」
「それが一番。そして貴方達に会えたのが二番。三番は雨の桜を愛でられたから」
私の心に桜が舞う。
「クリエイターさんには感謝しかないよ。ありがとう本当に楽しかった」
桜は白くほんのり紅が霞んで
「魔王様に会いたかった。そしたら会いに来てくれた。この世界を知りたかった。そしたらこの世界に拐ってくれた―――私は」
そっとケラソスの剣を合わせる。
「大切にしてくれた人を大切にするよ」
特殊効果発動!
第2と私はくっついてる。ケラソスの剣も二振りともその剣先が私達にくっついてる。
この状態での特殊効果発動は、内容如何を問わずダイレクトに私達を襲う。
二振りが共振する。効果倍増だ。
頭の中の桜が吹き荒れる。
実際は何が起きたかわからない。
わからないけど私は無事ではないだろう。
多分これでゲームセットだ。
勝ったか負けたかわからないけど。
案外未練ないもんだなあ。
ちゃんと意思表示できたし。
告れたし。
魔王様のあの笑顔はもう一度見たかったなあ。
できればもう一度。
ずっと。