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 エスパータイプ中ボスさんは本人の言う通りあっけなかった。


 物理攻撃も魔法攻撃も一切効かない鏡の間だが、ある地点で『リバースの鏡』なるアイテムをかざした時のみ、エスパータイプ中ボスさん自身の攻撃を反射に反射に反射しまくって最終的に自滅する。

 つまり自らの力で倒される。

 その『地点』探しが本来凄まじい難易度なんだろうが、ご丁寧にも床に足型の赤テープが貼ってあった。鏡のかざす角度も懇切丁寧に教えてもらった。

 一撃で中ボスさんは散った。


 やっぱり悲しかった。


***


 『魔王の玉座』の扉を開けるのはとても怖かった。

 どんな顔をすればいいだろう。

 なんて声かけすればいいだろう。

 決めてたはずなのにやっぱり思い付かなくて、これ以上なく不機嫌な顔で私は扉を開けた。


 魔王様は玉座に座っていた。

 まあそれがセオリーだろう。

 どんな表情をしてるか怖くて顔を見れない。


 他にいくらでも声かける内容あったのに、私ができたのは一番つまんない声かけだった。

「…ども…」

 なんというコミュ障。

 会いたかったとか、さっきは助けてくれてありがとうとか。嘘つき呼ばわりしてごめんなさい、もう一度謝りたかったとか。

 もっともっと可愛いげのある声かけができたのに。声かけ終わった今なら思い付けるのに。

 大体が、再会できたら告るはずだったのに。


 忸怩(じくじ)たる思いで見上げると、魔王様が静かに私を見つめていた。

 淡々としていて表情が読めない。

 しばらく見つめ合うと、魔王様は赤い瞳を附せ視線を外した。


「…少しは」

 魔王様はおずおずと聞いてくる。

「少しは…楽しめただろうか…このゲームを」

 ああ魔王様だ。

 いつもの気遣いさんだ。

 私は嬉しくて途端に饒舌(じょうぜつ)になる。

「楽しめました。とっても楽しめました。『哀れみの天使』第2形態をボコった時なんかもう爽快!って感じで」

 魔王様の表情が一気に硬くなる。

 魔王様の苦しそうな顔を見て、第2形態の話はまずかったと気付く。

 ああまた失敗した。


 魔王様はゆっくり立ち上がると玉座から降りてくる。

 私の近くまでくると膝をついて(こうべ)を垂れた。

「恐い思いをさせてすまなかった」

 違う謝らせたい訳じゃない。

 むしろ謝りたいのはコッチなのに。

「…じゃあ『嘘つき』呼ばわりした私と相殺って事で」

 ほらまた虚勢をはる。

 魔王様は顔をあげる。


 魔王様はふうわりと笑った。


 ああ

 見たかった笑顔だ。胸が苦しい。

 再び見つめ合う形になり、今度は私が視線を外す。

「…わ…私に攻撃しかけたのは、魔王様第2形態だったんですね」

 既に確信してる事をわざわざ聞く。

 話したかったのはソッチじゃないのに。

「あの時コウミは4回攻撃を受けた」

「えっ4回も?!」

 魔王様は頷く。

「物理攻撃でHP半減と『混乱』。そして『病気』と『毒』を掛けられている」

 第2魔王なんという素早さ。ラスボスに相応しい強敵だ。

 考え込む私に、魔王様は再び謝罪する。

「…すまない」

 なんだかいつも私は怒ってるし魔王様は謝ってる。

「謝って欲しい訳じゃ」

 止めようとする私に魔王様は珍しく被せる

「私が第2に攻撃を指示した」

 えっ?

「魔力がなく武器もなくとも、私自身が攻撃する術はある。第2は私にそう(うなが)した。…だが…」

 魔王様は言い(よど)む。

「…コウミはこのゲームに()いていた。…私は意外性を…持たせようと」

 やっぱり私のせいなんだ。

 へこたれて駄々こねて魔王様を困らせて。

 たくさんの自虐が私を襲う。

 苦しくなって思わず私は目を瞑った。


「…嘘だ…」

 魔王様の絞り出すような声にハッとする。

 魔王様は再び頭を垂れ、片手で顔を覆う。

 だから表情が見えない。

「……私は嘘つきだ」

 魔王様が震えている。苦しんでるんだ。思わず私も膝まずく。

「コウミは私を穏やかで気遣いがあると言ってくれたが、それはまやかしだ」

「魔王様?」

「コウミの言う通り、私は貴方を騙してこの世界へ閉じ込めた」

 魔王様はあの時の私の罵倒を気にしてたんだ。

「あれは私が『混乱』して」

「違う。正しい」

 (うずくま)り両手で顔を覆う魔王様。

 いつもの魔王様とはおよそかけ離れていて、それでいて危うい。

 両手で顔を隠したまま魔王様は苦しそうに告解する。


「…そもそも私はコウミにこのゲームをプレイして欲しくて拐った訳ではない」


 …そうなの?

 勇者(プレイヤー)枠で呼び込むつもりが失敗したって。

 いやそう思い込んだだけで魔王様は謝りはしても一度も肯定してなかった。

 また私が勘違いして――――


「貴方に私の所へ来て欲しかった」

 顔を覆う魔王様の指の間から水滴が落ちる。

「それだけの為に拐った」


 魔王様が泣いてる


 やっぱり嘘なんかついてないじゃないか。

 最初から魔王様は私に聞いていた。

 『私の所へ来てくれるか』

 直球も直球じゃないか。

「コウミに嫌われたくなかった。コウミを傷つけたくなかった。コウミに…コウミに」

 ああ。

 ああ。

 ああもうっ!

 私は思わず魔王様の肩に手を置いて――――


「…魔王様はいつから私を好きになったんです?」

 …はあっ?!

 言うに事欠いて何様だ私は!

 告られてる訳じゃない、告りたいのはコッチなのに!

 最初に私に声かけた時が既にプロポーズみたいだったからって、気遣ってもらったからって、抱き締められたからって、大切にしてもらって助けてもらって優しく微笑んでもらって―――


 ―――これで本当は脈無しだったら私は立ち直れないな。


 魔王様はしばらくキョトンとしていた。

「…いつからだろう」

 わからないんかい!

 てか否定しないんかい!

 ますます怒ろうとして私は脱力した。

 怒るの飽きちゃったな。散々怒ってきたからな。

 じゃあ今度は『笑って』みようか。

 『不機嫌』と違って全然使ってない表情だから、魔王様みたいにキレイにはいかないだろうけど。

 cheese(チーズ)ってネイティブに発音できれば微笑になるんだっけ?

 私は硬くなった口角を上げてみた。


 ニンマリ。


 違う口角上げ過ぎた。口端にシワできちゃってるし左右非対称だし。

 悪事が達成した時の悪者の顔そのものだ。

 お主も悪よのう的な。

 これじゃあまるで私が魔王様を嵌めたみたいじゃないか。


 急いで自分をフォローしようと勢い告ってみる。

「私も魔王様が好きです」

 あれ?でもこれだと意味変わってこない?


 魔王様に告らせる→ニンマリ→私も好きです


 先に言わせた私が勝ちよね的な。

 私スッゴい悪女じゃね?

 違う違うんだったら!

 魔王様が固まってる。

 ドツボに嵌まった私は全力で自分をフォローしようと、固まる魔王様の肩に置いた手を背中に回し、勢い込めて引き寄せた。

「魔王様、愛してます」

 抱き締めて告白でしかも「愛してる」だ。

 ドヤァっ!

 もう無理だから。ネタ切れだから。

 これ以上捨て身の方法はもう思いつけないんだから。


 ぷつん。


 それまで固まっていた魔王様が、糸が切れたように倒れ込む。

「まっ魔王様?!」

 倒れた魔王様は意識を失ってる。

 私にのし掛かった体をなんとか支えつつ床に魔王様を寝かせる。

「魔王様、魔王様」

 呼んでも目が覚めない。

 どうしちゃったんだろう。また私が下手打った?

 私が魔王様を――――――

「こんな風に倒すとは思わんかったなあ」


 場違いな明るい声が後ろから聞こえた。

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