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 私はヨロヨロと泣きながら宝箱を開け、万能回復薬を口に流し込む。

 後から後から涙が出てくるがそこは無視だ。

 まずは状況把握が肝心だ。

 今起きた事を整理するんだ。


 万能回復薬はフルーティーだった。これならお子様も安心して飲めるだろう。

 違う。逃げてる。今考えるべきはそこじゃない。

 フルーティーな味わいが身体中に染み渡る。

 体も頭もスッキリした気がして、もう一度考え直す。


 今起きた事。

 魔王様は私を攻撃してHPを半減させた。

 そして私にも強制的に攻撃させ魔王様もHPを半減、この場から去った。

 それは何故なのか。

 魔王様が言うには、このボス戦は、勇者(プレイヤー)のHP半減が発生条件だから。

 そしてクリア条件は魔王様のHP半減だと。

 筋は通っている。何もおかしくない。

 私は泣きながら考えを巡らす。


 おかしいのは手段だ。

 私を攻撃したのは間違いなく魔力だ。でなければ状態異常は起きない。

 魔王様は本当は魔力を使えたーーー。


 冷静に考えるとそれはそれでおかしい気がする。

 もしそうなら、魔王様が去るのにわざわざエスパータイプの中ボスが来る必要がない。自らの魔力で城へ去れば良いはずだ。

 でも中ボスが来るのはクリア時の解放条件として設定されていたようだ。


 魔王様は嘘をついてる―――――?


 私は止まらない涙に辟易(へきえき)しながらなおも考え込んだ。

 少なくとも全てを話してはくれなかった。

 当初は時に応じて全て話すつもりだったのかもしれない。

 でも私が駄々をこねた為、その対処として口を閉じたんだ。

 どんなに私が謝っても―――。


 やっぱり胸が苦しい。

 状況整理に逃げよう逃げようとしても止まらない。涙と同じで後悔も後から後から溢れ出す。


 へこたれなきゃ良かった。

 もっと魔王様の気持ちを考えれば良かった。

 優しい魔王様に甘えてたんだ。

 どれもみんな最初からわかってる。

 私は全てをぶち壊す。だからいっつも独りになる。

 『大切に』されたい?笑わせる。私は結局自分が一番かわいくて、他人なんかどーでもいいんだ。

 周りを大切にしないんだもの。周りから大切にされなくて当たり前だ。


 でも魔王様は『大切に』してくれていた。


 それは私をココに連れてくる条件だからだろう。

 私は『大切に』されたいと願い、魔王様は叶え、その代わりに私はココで『囚われの姫』となった。


 全ては条件(プログラミング)だ。


 それでも

 私は 魔王様が 好き なんだ


 好きになってしまったんだ。

 本当はうすうす気付いてた。

 いちいち魔王様の言動に過剰に反応していた。突っかかっていた。

 自分でも変だと思ってた。

 魔王様の柔らかい微笑みが好きなんだ。

 ずっと一緒にいたかった―――。


 泣きながら私は立ち上がる。

 本当はもう腹が決まっていた。

 もう一度魔王様に会う。

 そして―――――


「魔王様好きです」


 もうなんでもいいや。

 告白しちまえ。

 もう後悔は後からしよう。

 私は乱暴に涙を拭って次のダンジョンへ向かった。


***


 最初の魔王戦が終わると、次からは魔王城の階層ごとの攻略となる。

 私は今、その最初の階層のボス戦に挑んでいる。


「何しけた顔してんのよ勇者様」

 この階層のボス、ゾンビタイプの少女が私に話し掛ける。

 魔王城の魔物は今までの魔物よりさらに人間味がパワーアップし、ボス戦に至ってはフツーに会話が成り立つらしい。

 …今の私には特にありがたくもないけど。というかほっといて欲しい。

「勇者じゃありませんし、貴女には関係ありません」

「自分から姫と勇者兼任しといてそーゆー事言う?大体コッチは倒されるまで攻撃するなってお達し来

るんだし、話くらいしたって良いじゃん」

 随分くだけたボスだな。てか攻撃しないんじゃ今まで以上にヌルいじゃないか。

「ま、正確には回復薬の効能分だけは攻撃するようにって言われてるんだけどね。全くヌルい事この上無いわよね」

「もう話し掛けないでくれます?」

 イライラしてつい口にしてしまった。


 ゾンビ少女はため息をつく。

「また随分可愛くない人間が『姫』になったもんね。アンタがコッチ来た時は、この世界が上へ下への大騒ぎだったのに」

「え?」

 大騒ぎ?なんのこと?

 目が覚めた時は魔王様と二人きりだったのに。

 驚く私を面白そうに眺める。

「…詳しい話聞きたい?」

 ゾンビ少女は身構えた。

「じゃあとりあえず戦いましょう?お姫様」


 この階層は全てゾンビタイプの魔物だ。そしてゾンビタイプの特徴は、治癒(ヒール)以外は基本無効だという事だ。

 物理攻撃は無効。状態異常はむしろゾンビを回復させる。相手に治癒(ヒール)を掛ける事だけが攻撃となる。

 さっき隠し部屋で見つけたのは治癒(ヒール)の斧と治癒(ヒール)(ころも)。衣はターン毎に少しずつ回復していく効能なので身に付けていればHPはまぁ大丈夫。斧も物理攻撃の度に回復の効果がある。その回復の分だけゾンビを攻撃できる。

 今まではザコだったので、ちまちま斧を降り下ろせば倒せた。だがゾンビ少女はボスだけあってHPが膨大だ。目を離せば自分に状態異常を掛けて回復してしまう。

 倒れる事はないけれど、倒せる決定打がない。

 しかもゾンビ少女は自分の攻略をバラす気はないようだ。

 時間ばかりが過ぎていく。早く魔王様の所へ行きたいのに。

「案外健気(けなげ)ねアンタ」

 ゾンビ少女が笑う。

 意外に穏やかな笑い方にイラッとする。

「詳しい話をするって言いましたよね?早く教えてくださいーー私に倒される前に」

 イキッてみせた私にゾンビ少女は笑みを深める。

「向こうっ気が強いタイプは嫌いじゃないわ。意地悪しようと思ってたけどや~めた」

 そう言ってゾンビ少女は手を下ろす。

「アンタさ」

「何よ」

「いっつもしかめっ面してんのね。笑ったらきっと可愛いでしょうに」

いきなりコロシ文句を食らう。

「なっ何言ってんのよ!」

「何かしらね?ねえアンタ、ココへ来た時瀕死の状態だったの覚えてる?」

 瀕死?

「明らかに風邪を(こじ)らせてて意識は無いわ顔はどす黒いわ息も苦しそうでね。魔王様は力を失ってるし。なのにアンタは『姫』認定されて檻の向こうで手出ししようがない。城をあげての大騒動だったのよ?」

「…そうなの?」

 そういえばメッチャ具合悪かった気がする…。

「魔王様は『使い魔は使える』とわかるとこの世界中に御触れを出したのよ。『姫』を助ける為にね。そんな事は初めてで、それまでランダムに動くだけだった市井(いちい)のザコ達もビックリしたんじゃないかしら?まぁそれは城の中も同じだけど」

「…それが上へ下への大騒ぎ?」

「私が進言したのよ?外界の人間でも、コチラヘ来れたなら治癒(ヒール)が効くんじゃないかって。感謝してよね?とんだ謙信(けんしん)だわ」

 ゾンビ少女がふふっと笑う。やっぱり笑い方が似てる。穏やかな笑い方―――。

「…私達が魔王様に似てるって言ったらしいわね」

 ちょうど考えていたのを当てられた気がしてギクッとする。

「魔王様はアンタを助けようと必死だった。そんな魔王様に私達も感化された」

 それって。

「アンタが来たから」

 私が来たから。

「私達、魔王様のように意志を持ち始めてしまったみたい。家族みたいに」

 だからみんな魔王様みたいにお人好しで穏やかで。

「感謝してるわ。正直嬉しい。だからアンタには期待してるの」

 ゾンビ少女は1つ息を吐く。

「予備に万能薬1つだけあるわね?それを私にぶつけてちょうだい。私は体が小さいから当てにくいだろうけど、一回きりだから外さないで」

 ああ。

「必ずクリアしてね」


 苦しませたくなくて、すぐ万能薬を投げつけた。

 なんなくゾンビ少女に当たり、少女は溶けて消えた。


 彼女は最期まで穏やかに笑ってた。

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