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 と、言うわけで私は今ゲームスタート地点にいる。


 魔王様の計らいで、エスパータイプの中ボスに城からココへと瞬間移動してもらったのだ。


 …魔王様と一緒に。


「…色々おかしいと思うんですけど」

 頭を抱える私の横で魔王様は淡々と答える。

「先に話した通り、このゲームは攻略方法を知らないと詰む。私を攻略本と思ってくれればいい」

 いやおかしいでしょう色々。

「魔王が姫を(さら)ったのは、勇者に魔王を倒させる理由付けではある。だが設定では魔王が姫を花嫁にする為となっている。花嫁にする位に姫を好きなら、その姫の願いを聞いて檻から出し、打倒魔王で一緒に旅するのは何もおかしくはない」

「何から何までおかしいです!」

 超展開過ぎるだろ!

「現にスタート地点に貴方と私はいる。ゲームに受け入れられた証だ」

 ゲームも何故受け入れたし!

「スタートするには名前の入力が必要だ」

 魔王様が私に顔を向ける。

「…じゃあ『香美』…」

「30年前のゲームだからカタカナ3文字しか入力ができない」

どんだけ容量少ないんだよ!

「…じゃあ…コウミ…」

「コウミさん」


 また魔王様が柔らかく微笑む。苦手だ魔王様の笑顔。なんかザワザワする。

「『さん』付けるのやめません?」

「ではコウミ」

 もう呼ぶな!私のHPが戦闘前からゼロになる!

「とっとにかく最初のダンジョンですね!…え~と『森』の入り口に」

「待てコウミ」

 魔王様がスッと私の手を握る。

「ぎゃわゎわわぁ!」

 手!おっきい、案外ごっつい!男の人の手だあ!

「?大丈夫かコウミ」

「だっ大丈夫です!てか何なんですか魔王様!」

「ダンジョンへ入る前にまず入り口脇の壁を殴る。すると隠し部屋が出現する」

「へ?」

「そこにある『兵士の剣』と『兵士の(よろい)』を手に入れないとダンジョンボスを倒せない」

「…物凄い初見(しょけん)殺しですね」

 誰が気付くんだよそれ。

「数少ない勇者(プレイヤー)もココは大抵クリアしていた」

「…気付かなくて悪ぅございました」

「私がいて良かっただろう」

 また柔らかく微笑む。やめてお願い。

「ココのダンジョンの宝箱は全部で3つだ。行こう」

 握った手を離してくれない。

 私はずっと顔を赤くして不機嫌になるしかなかった。


***


「…それにしてもサクサク進みますね」

 最初は『森』。次は『沼』。今はもう3つめのダンジョンで『岩場』を攻略中だ。

「まさかあそこまで魔物さん達が協力的とは思いませんでしたよ」

 このゲームは敵とのエンカウント率が高い。高いんだけど、いちいち会う度

「あの~今から攻撃しますよ~」

 とか

「スミマセン後ろから攻撃します~」

 とか

「あ、私を倒すと薬が手に入ります。お得ですよ~」

 …フレンドリー過ぎるだろ。

「『森』のダンジョンボスに自分の倒し方を教えてもらった時は目眩がしましたよ」

 次の『沼』のダンジョンボスも弱点教えてくれるし。

 私が遠い目をすると、魔王様は淡々と答えた。

「ゲーム中の敵の全ては、魔王討伐後に呪いから解かれ善きものとして復活する設定だ。だから倒される事に抵抗はない」

 ああ、お子様にも安心健全設定なんですね。

「難易度を下げる目的で、全てのダンジョンへ使い魔で事前説明させておいたのが功を奏した。だが貴方が魔物に感情移入して、罪悪感を感じないか心配はした」

 あ、それはあんまなかったわ。サクサク過ぎてやり甲斐ないなとは思ったけど。

「てか、魔王様の話と違ってみんな簡単な会話はできた感じが」

 魔王様も淡々と頷く。

「私も驚いた。以前は皆ランダムに動くばかりで、私と会話できる者も城にしかいなかった」

 へぇ。

「なんだかみんな魔王様に似てましたね」

「?」

 赤い瞳をこちらへ向ける。

「穏やかで気遣いさんで」

 天然で―――と続けようとして、驚いた顔の魔王様に気付く。

「…変な事言いました?」

「…いや」

 笑顔のタイミングといい、魔王様の表情変化のポイントがわからん。

「あ、この先が『岩場』ボスですね」

「その前に左の脇道から隠し通路へ出る。行き止まりを下下右下左下右右上で隠し部屋だ」

「はいはい」

 手に入った魔法属性の剣と鎧を装着し直し、いざダンジョンボス戦!

 巨大な岩石の化け物が私達に迫りくる!

「あ、私は岩石なんで物理攻撃は効きません。ひたすら属性攻撃してください。私の攻撃は当たるとHP半減ですが直線攻撃しかできないので常に移動し」

「うるせーーっ!!」

 丁寧過ぎる説明につい逆ギレして、人間味溢れる気遣いさん相手にMP全部使いの大技かましてしまう。

 一撃で砕け散る岩石さん。

「…!ごめんなさいごめんなさい!」

「気にしなくていい」

 パニクる私に魔王様が淡々とフォローする。

 いやでもやっぱり私が悪いだろう。

 お願いもう丁寧に攻略教えないで。

 私を楽しませて…。


***


 そんなこんなで。

 ゲームも佳境に差し掛かる頃、私は酷く疲弊していた

 …主に心が。


「えぐっえぐっ…もうやだよぉ」

「コウミ」

「アクションRPGの爽快感がないよぅ。来る敵来る敵みんな気遣いさんなのもうやだぁ」

「コウミ」

「なんでみんな微笑みながら倒されるんだよぅ。『はいソコで後ろから回転切りです』とか余計なお世話だよぅ」


 私はへこたれ泣きじゃくっていた。

 魔王様の話だと、次のボスがこのゲームのターニングポイントだそうだ。単純なストーリーの唯一のオアシスもといちょっとしたトリックがあるらしい。

 …でもどうせそれもたかが知れてる。


 私がゲームクリアできるよう、魔王様が心尽くしてくれる。そのせいでエラくヌルいゲームとなり、かえって攻略がしんどくなる。

 笑顔で迎える敵。歓迎ムード満タンのダンジョン。

 ちがう。考えてたんとちがう。


 ペタンと座り込み泣きじゃくる私を魔王様は静かに見下ろす。

 さすがに呆れるよね。クリア目指そうって言い出しっぺの私がこんなていたらくじゃ。


 魔王様がポツリと呟く。

「私は力がない」


 ええ私を連れ込んだせいでね。

「貴方は姫キャラのまま勇者(プレイヤー)となったので、本物の勇者と違い『復活』ができない。ゲームオーバーすると命を失う」

 えっそうなの?

「ゲーム設定を確認した。『姫キャラのまま』縛りはライフの数に反映されたようだ」

 かなりの爆弾発言に泣き顔のまま顔をあげると、魔王様と目が合う。赤い瞳は表情が読みづらい。いつも淡々と見えるのはそのせいだろうか。

「私は」

 その瞳が私を見つめたまま近づく。近づく。

「まっ魔王様…ちょ」

 私に目線を合わすべく膝まずいた魔王様は、私の肩に手を置くと、そのままそっと背中に回す。

「貴方が」

 何っ?!抱きしめて告白っ?!いやそんないきなり?!

 でも設定では魔王様は(なび)かぬ姫を檻に閉じ込めたい程好きだって。それに今回新たに、そんな姫の願いを聞き届け檻から出しちゃうマヌケ設定付加したし、なんなら一緒に魔王討伐とか矛盾しかない行動に出てるしあるいは。

 いやいやそれはゲーム設定であって意志の芽生えた魔王様にそれは!

 いやいやでもでも!

 デモデモダッテ!


 混乱する私の背中を魔王様がトン、トン、と優しく叩く。

 赤ちゃんをあやすように。


 トン、トン、トントン、トントントン。


 落ち着かせようとしてるんだ。

 妄想の暴走で熱くなった頬に、魔王様の白い髪がふわりと触れる。

「…コウミがここへ来てくれて嬉しかった」


 触れられた所がふんわりあたたかくなる。

「大切にしようと思っているのに空回りのようだ」


『大切に』


 雨の中、私はなんて言ったっけ。


「貴方は強く賢い。魔物達も貴方を大事にできるし誘導も大丈夫だとわかった」

 魔王様はゆっくりと腕を解く。

 さっきまでの温もりが消えていく。


「次のボス戦が終わったら私は去る。それで少しは歯応えのあるゲームになるだろう」

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