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暗い中で目が覚めた。
檻の中だった。しかも暗く狭くジメジメとした。
…?状況が把握できない。
檻の外にはコスプレした人がいる。白い髪に赤い瞳。頭には山羊な感じのネジネジ角。見目も良いし、今がハロウィンならかなり出来が良い。
いかにもな『魔王様』だ。
「大丈夫か」
『魔王様』は気遣ってくれてるようだ。檻の外から。
状況はわからないが、酷く理不尽な目に合ってる事だけは確かだ。とりあえずここは怯えておくのが得策な気がする。
気がするのに私は不機嫌丸出しだった。
「大丈夫かと心配してくれるなら、ここから出してくれません?」
あ、鼻声じゃない。息も楽だ。頭痛くない。体もなんか軽い。
「元気になったなら良かった」
『魔王様』は相変わらず気遣ってくれる。相変わらず檻の外から。
「…少なくともここに私のいる理由位教えてくれません?」
イライラを隠さない私に『魔王様』は淡々と答える。
「貴方は私に『ケラソスの魔城』という古いゲームの世界へ連れて来られたのだ。」
…意味がわからない。
「ここはゲームのラスボスである私の住む魔城。玉座の裏にある檻に貴方はいる」
かなり直球に話してくれてるようだが、やっぱり意味がわからない。
「…えーと…私は貴方に『異世界』へ連れて来られたんですか?」
「そう考えてくれると理解しやすいと思う」
…異世界かあ。…異世界。いや待て。
「…で。なんで私はココ、檻の中にいるんですか」
なんとか核心に近づけた気がする。私の不機嫌の。
「このゲームの主要女性キャラは、魔王に拐われた姫が一人だけだ。そのせい…だと思う」
『魔王様』は言葉を濁した。
「なんで連れて来といてソコは憶測なんですか!」
「貴方を連れてくるので私は力を使いきってしまった。コチラでの貴方の立ち位置の一切が調整できなかった。貴方はコチラで『囚われの姫』キャラとして受け入れられてしまったようだ」
はあっ?!
「勇者が私と戦って勝てば、姫と結ばれゲームクリアとなる。このゲームはアクションRPGだから」
「それって私、指くわえて勇者が来るのを待ってろって事ですか?!全く選択の自由なく」
さらにイライラする私に、『魔王様』は淡々と爆弾を投下した。
「このゲームに勇者はいない。だから貴方はココから出られない」
「はあっ!?」
とうとう私は声をあげてしまった。
「『ケラソスの魔城』はマイナーなゲームの上にゲームバランスが悪く、過去にココまで辿り着いた勇者はいない。そしてこのゲームはろくな売上もないうちにハード自体が撤退された為、知名度のないまま世から去ったのだ」
よくまあそこまで淡々と。
「よって貴方はココから解放されない」
「いやいやおかしいでしょ?!だったらなんで私を連れ込んだ時『勇者』枠にしないの!?」
「先程説明した通り、貴方を連れてくるのに力の全てを使ったので微調整できなかった」
「せめてこっから出してよ!」
「この檻の解放条件は勇者が魔王を倒す事。勇者がいないので貴方を解放できない」
「アンタの城でしょ?!なんか魔力でパパーッと」
「説明した通り、私は力を使いきってしまい一切の能力が使えない。貴方の体調も、唯一治癒を使える中ボスに来てもらって檻越しにやっと治した」
ひたすら淡々と直球に語る『魔王様』。
「…もしかして連れてきたけどどうにもならず、困ってます?」
「そう」
淡々と『魔王様』は頷く。
淡々と、たんたんと、タンタンタタンタン
「…とりあえず怪力な魔物とか部下いません?その人に力業でココを抉じ開けてもらうとか」
「なるほど」
脱力しながら提案すると『魔王様』は淡々と頷き、ついと振り向くと手を鳴らす。
なんか使い魔っぽいのが出てくる。
「この檻を壊せそうなものはいるか?」
「隠しボスならあるいは」
「呼んでくれ」
「はっ」
『魔王様』、魔力は無いけど権力は残ってたのね…良かった。てか、なんで私が解決案を出してんだよ!連れ込んだのお前なんだからお前が考えろよ!
…そんなこんなで、徒歩でやって来た隠しボスさんによってようやく私は解放された。
ぐったり疲れる幕開けだった。
***
「もう一度聞きますよ」
檻から出た私は状況を確認する。
「私を連れ込んだのは勇者の一人も来ず膠着したこのゲーム世界を変えたくて、で良いんですよね?」
魔王様は頷く。
「でも私は『囚われの姫』になっちゃったから、結局状況は変わらない、んですよね?」
「すまない」
淡々と魔王様は謝る。
「謝って欲しい訳じゃないです。ただ打開策を練らないと」
「なるほど」
魔王様は再び頷く。素直な人ではある。人ではなく魔物か。
「魔王様以外に私が意志疎通できそうなキャラはいるんでしょうか」
魔王様は首を振る。
「このゲームが作られたのはおよそ30年前だ。ストーリーは単純でセリフのあるキャラクターは『魔王』と『姫』と『勇者』だけ。勇者はいないから貴方が話せるものは私しかいない」
ふと疑問が浮かぶ。
「私が来る前、お姫様はどうだったんですか?」
「他の魔物と同じ、私が話せば設定に応じた反応はしてくれる。それだけだ」
「じゃあ魔王様はなんで私と話せるんでしょう?つまり意志があるんでしょう?」
魔王様はふうわりと笑った。
「わからない」
柔らかく笑みながら魔王様はぼんやりした返事をする。
「いつの頃からか私は生を受けていた。誰も来ないゲームでも、世に放たれて長く経つと命を授かるのかもしれない」
魔王様は夢見るように私を見つめる。
「このゲームは敵のエンカウント率が高い。そしてレベルアップ概念がない。ボス戦は特殊な武器と防具、そして特定の動作入力をこなさないと勝てない。動作入力の難易度は勿論、レア武器は隠し部屋を見つけないと手に入らないので、マイナー過ぎて攻略本も出なかったこのゲームをクリアするのはまず不可能だろう」
微笑みながら言う事かそれ。
「だが」
魔王様が笑みを深める。赤い瞳は細められ、白い睫毛に優しく霞む。
「私はこの世界を大切に思う。誰かにこの世界を味わって欲しかった」
――――キレイだ。
なんだろう。私がおかしい。
たぶん間近で魔王様が微笑みかけるからだ。
美形とこんなに近いのも微笑まれるのも初めてでどうしていいか困る。
「じゃ、じゃあなおさらこの状況を打開しないと」
魔王様から無理やり視線を剥がし、私は本題に戻る。
「私の前のお姫様には意志がなかった。今は私が『姫』やってるので意志がある。前と今との違いはココですね」
「私が力を失った以外はそうだ」
…わりとそれ致命的ですよね。
「考えたんですけど、私に意志がある以上私が勇者も兼任すると良いと思うんです」
「兼任?」
魔王様は淡々と尋ねる。
「『囚われの姫』で登録されちゃった以上姫ポジションは返上できないでしょうけど、なら姫キャラのままプレイヤーとなれば、この世界を矛盾させずに動かせると思うんです」
「それは事実上の設定変更ではないだろうか。この世界が認めてくれるか」
「認めてくれます」
魔王様の表情が動いた。
「今、私は『檻にに囚われた姫』ではありません。さっきまでは檻に囚われていましたが、今は魔王様の許可の下、『檻からは出られた姫』です。初期設定を動かさなければその後の物語自体はズらせる。これが証です」
私はずいと前に出た。
「物語を変え、クリア目指しましょう魔王様」




