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濃厚な死の予感

 この世に嫌われていることを、赤ちゃんながらに自覚していたのだろう。

 母のお腹から、出産予定日を過ぎても出てこない。逆さを向いてこの世に産み出されることを拒む姿勢は、部屋を出たがらないニートと酷似していると思わないか?

 「あなたの出産は本当に大変だったんだから」と母は笑いながら、懐かしそうに優しく語りかける。

 「盛大に泣いてね、体も大きくて元気な子で嬉しくてね」

 俺が泣いたのは、この世に産み落とされた事を嘆いていたに違いない。今だって嘆いてばかりだ。


 「赤ちゃんの頃から、逆境に耐えれる強い子だと思ったから、ツヨシって名付けたの」と細い声で語る。

 もう、喋らないでくれ……一秒でも長く側にいて欲しいんだ。俺は名前と違って…こんなにも弱い人間なんだ。


 「ツヨシ、あなたは強い子だよ、お母さんが保証してる、だから強くぃきてぇ……」

 黒くて白い瞳の色が強く俺の脳裏に焼き付く。呼吸が止まる前の瞳だとは思えない。意思が詰まった力強い瞳だ。心臓は動こうとしない。もう送る血が出尽くしてしまったのだろうか。


 「母さんっ 待てよ 置いてくなよ、生きろって無責任だろ、おかあさん……おかあさん」

 体を揺すっても返事をしないことなんて理解していた。クソみたいな世の中だ。救いなんてない。だけど揺すってしまう。わかっているけど理解したくないのだ。


 「おかあさん……今までありがとう」

 大粒の涙が流れる。この未来を予想して、赤ん坊の俺は泣いたのだろうか?

 母さんとの暮らしてきた思いでの詰まった木造の箱の中で、赤ん坊のように叫び散らし、嘆き、この世を呪った。

 

 *


 「冒険者にしてくれ」と、俺はぶっきらぼうに言った。

 キィキィと、木造の床が軋む。家の床の音とそっくりだ。冒険者ギルドも木材の質は一緒なのだろう。

 同年代の人間はいなさそうだ。荒くれて酒を飲んでいる男ばかりでヘドが出る。目の前の男もそんな、荒くれた恰幅の良い男の一人だ。


 「おいおい、ジョーダンはよしてくれよ、度胸だめしにでも来たつもりか」

 目の前の机を挟んで前に立つ大男は、俺をバカにした口調で話す。クソむかつく。俺だってこんな所来たくねえよ、だけど……生きるためにここに来たんだ。

 葉巻の匂いが鼻につく。方向をたどると男たちと目が合う。注目されているようだ。


 「冗談など、言ってない」と俺は力強く言う。

 大男は「ここはガキがオママゴト出来る場所じゃ無いんでちゅよ―」と煽って来た。

 クソが幼稚な頭しやがって、お前の方がガキ見てーな頭じゃねえかと、スキンヘッドをバカにしたかったが、言葉には出さない。

 「おいガキ、今俺の頭のこと、罵倒しやがったな」

 はっ? 何で思ったことバレてるの?


 「俺は心が読めるんだよ、お前の心も勿論読めてんだよ」と指をパキパキとならしながら、机を飛び越え、大男が立ちはだかった。

 心で会話が繋がっている、大男の能力は本当だろう。


 「そして、俺より弱いやつが頭をバカにしてきたときは、ボコらなきゃウソだよなぁ。 あぁん」と言いながら大男は大振りな右拳で殴りかかってきた。


 これは遅いな、避けられる。

 右に避けるため、重心を落とした反発力で移動した瞬間、シャープな左手の正拳突きが放たれる。俺の顔面は吸い込まれるように拳と衝突した。


 「ぐはっ、ぶぇぁ」

 吹き飛ばされ、酒を飲んでいた男たちに支えられた。

 体のベクトルが前進方向に向いている。酒飲みたちは、俺を大男の元に押し戻したようだ。

 大男の前で崩れるように倒れる。

 頭がクラクラする。まずい殺される。クソが、また死が目の前に迫ってきやがる。魔物や動物に襲われたときよりも確実にヤバイ。落石で死にそうになったときよりもマズイ。明確な殺意を持った人間はこんなにも強いのか。


 「おい、冒険者になろうって人間がそんなことじゃあ、生きていけるわけねえよな」と、大男は腕を組み見下しながら話す。


 言葉か出ない、立ち上がって逃げないとマズイ、どうする。

 考えろ、時間はない。考えろ俺、どうする……


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