第四話:『冒険者、二人』1
私達は今首都にいる、そしてここは冒険者ギルド前。
そう、ついに来たのだこの時が!
この扉をくぐってギルドに登録を済ませたら晴れて冒険者人生が始まるのだ!
意を決して冒険者ギルドのドアを開ける、開けた先に見える光景は・・・とても普通だった。
冒険者ギルドというものは荒くれ者たちが酒を酌み交わし日夜騒々しく・・・、というイメージがあったがなんというか、ここは役所や貴族屋敷みたいな雰囲気だった。
こう言ったら悪いが清潔で爽やかな雰囲気に少し幻滅する、とりあえず真正面のカウンターの人に話を聞いてみることにした。
「あのー、ここ冒険者ギルドであってますか?」
「はい、ようこそ冒険者ギルド本部へ、なにかご用件でしょうか?」
丁寧な返答に少しがっかりしてしまう。
こう、荒くれた顔に傷のあるいかついおっさんが、ここは子供が来るところじゃねぇんだ!帰んな!とかそんな感じに思ってたのに、まるで公共機関のような対応にがっかりしてしまう。
「えと、私達冒険者になりたくて登録に来たんですが・・・。」
「新規登録の方ですね、担当者をお呼び致しますので少々お待ち下さい。」
まるで機械でも相手しているかのようだ・・・。
冒険者ギルドというものに期待をいだき過ぎてしまったのだろう、期待で胸を膨らませていただけにどうしても気分は落ち込んでしまう。
待っている間にこちらに記入を、と出された必要書類に淡々と必要事項を記入してさっさと提出。
まるで貴族屋敷のサロンのような雰囲気はどうも好きになれなくて、待ってる間私は夕霧の横顔をぼうっと見つめていた。
夕霧はというと書類を書き終わったら珍しいのだろうか、周囲をキョロキョロしていてどこか可愛らしいなと感じた。
「おまたせしました、こちらへどうぞ。」
私達は応接室みたいな所に通され中に入る、中には一人の女性がいてようこそと手を取り盛大に迎えてくれる。
その間に聞かされた懇切丁寧な挨拶と美辞麗句は今まで私が散々聞いてきたし嫌いなものだった、しかしここで悪態つくわけにもいかないので心を無にして臨む。
「おっと申し遅れました、私はここ冒険者ギルドの事務総長です、どうぞお見知りおきを。」
「ははあ、事務総長様ですか、これまた大層なご身分の方がわざわざご苦労さまです。」
「書類の方早速拝見させていただきました、名前にキースタンとありますが、かのキースタン男爵様のご家族で?」
「・・・えぇそうです、交易都市のキースタン家のものですわ。」
やっぱりそうだ、ただの登録にこんな偉い人がわざわざ出てきたのは私が貴族の娘だからだろう。
冒険者ギルドが何の目論見があるのかはわからないが、やはり血筋で持て囃されるのは私としては釈然としない。
「・・・それで、本来なら色々と試験等があるのですが、男爵様のご息女とあらばそれが不要という___」
「ちょっと待って下さい、試験があるというのは初耳なのですが何か変わったのですか?」
話を聞くのも面倒だったので色々と聞き流していたが、これは聞き逃さなかった。
私が知っている話では冒険者は誰でもなれるものと聞いていたんだけど、どういう事なのだろうか?
「あぁ・・・その、色々と複雑な事情がございまして・・・。」
話を聞けば、冒険者ギルドの行っていた盗難保証などといった各種保険手当が悪用されたらしい。
登録している冒険者がトラブルに巻き込まれた時、その対応を行うのが冒険者ギルドなのだが、その中に詐欺や窃盗被害も含まれている。
が、どうやらそれを利用されて大損害を被ったそうだ、高額の金品を詰めた荷物を結託者に盗ませ、ギルドから盗難の保証で出た金品分の保証金を貰い受ける、といった具合に利用されてしまったみたいだ。
その他にも同業者の台頭や依頼の減少、などなど色々と苦しい事情を打開するべく、登録者の質を上げるために試験を設け、合格したら晴れて冒険者に、というのが今の冒険者ギルドらしい。
「ですがご安心を、我々としましても貴族のご息女とあれば試験など不要ですので、さっそくご登録を___」
「いいえ、それには及びません、他の方と同じく試験を受けさせていただきます。」
私がそうきっぱり言うと、事務総長さんは信じられないと言った様子で動揺していた。
その姿を見て意地悪だが少しスッとした気分になる、だが楽出来る道を捨てて夕霧はどう思うだろうか。
さっきからずっと黙っている夕霧の方へ視線を向けてみる、夕霧は視線に気づいたのか軽く微笑み返すだけだった、判断には異論はないとみえるのでこのまま続けることにした。
「よ、よろしいのですか?こちらから無条件に資格を差し上げると____」
「いいんです、これから私達は冒険者になろうというのに身分は関係ありません、貴族の娘というだけで試験を免除というのは旅先では通用致しません。ですので、私達も是非その試験を受けたく思います。」
事務総長さんは少し考えた後、渋々だったが私の意向を了承してくれた、だが腫れ物を扱うかのようにビクビクしている様子は私の不機嫌を加速させる。
やがて一枚の紙を持ってきて私に手渡される、どうやら依頼の書かれた紙のようだ。
試験とはギルドに寄せられた依頼を1つこなす、というものらしく単純ではあるがある意味資質が試されそうで理にかなっているとは思った。
「そんな依頼しか今は無くて申し訳有りません、その依頼はやっていただかなくても結構なので、登録したくなったらいつでもお声をおかけ下さい・・・!」
「いいえ、必ずこなしてみせますのでご心配なさらず!ではこれにて失礼。」
もうこの場にいることは色々と限界なので、足早に退出しギルドの外に出る。外の新鮮な空気を吸えば色々と溜まっていた大きなため息が出てしまう。
「はぁ~~~~、外の空気が美味しい・・・。」
「すごい居心地悪そうでしたね、アルマさん。」
「う、バレてた・・・?」
「なんとなくそんな雰囲気は。」
そりゃわざと試験受けるとか言ってたらバレちゃうか、そういえば試験といえば依頼内容はどんなのだろう?
持ってきた紙に今更目を通してみる、依頼内容は・・・下水道のねずみ駆除、最低3匹・・・?
「何この依頼、ほとんど雑用レベルじゃない・・・。」
「まぁまぁ、適性試験ですから、いきなり難しすぎても試験にはなりませんし。」
まぁ駆け出しの冒険者がいきなりドラゴン退治しろって言われても無理だし、こんな雑用でも依頼は依頼、やるっきゃないか。
「やるからにはネズミ3匹じゃなくて根絶するくらい駆除しまくって実力を見せてやるんだから!」
「ふふ、その意気ですよ、頑張りましょうっ。」
改めて気合を入れた私達はその足で依頼主の水道管理局へ赴き、下水道への道を通してもらう。
中は暗くてひどい臭いのイメージで不潔なのを覚悟をしていたが、いざ中へ入ると意外にも中は魔法灯で照らされ足元も明るい。
臭いの方も多少はカビた臭いがするが、風が流れていてそこまできついわけでもなかった。
「へぇ、下水道ってもっと汚いと思ったけどすごく整備されてるのねぇ。」
こういう見えないところも整備が行き届いているのは流石といったところか、伊達に首都じゃないのを感じずにはいられない。
迷わないようにとりあえず現在位置を確認するため、水道局から借りた地図を見る。
下水道全体図を見ると、特に入り組んだ迷路というわけでもなく大きな主水路が中央に、そして都市各地から集うように小さな水路が主水路に合流するような形だ。
「地図を見ると、下水道もとても整備されてますねぇ、これだけのものを作れるのはさすがの都ですね。」
「そうね、下水道なのに歩道も広めだしすごい技術ねぇ・・・、っとそんなことより、頑張ってネズミ見つけるわよ!」
入り組んでないとはいえこれだけ巨大な都市の下水道だ、くまなく探すにも時間がかかる。
しかし歩けど探せども、ネズミどころかゴミひとつ落ちていない、流れる水の音を聞きながらやる気は削がれる一方だった。
「全っ然ネズミいないじゃないの、どうなってるのよもう~。」
「人の気配でも感じて隠れてるのでしょうか、それにしてはここに住んでいる痕跡が有りませんが・・・。」
そう、下水道にしては小綺麗すぎるのだ、ゴミや湿気も殆どなく虫すら見かけない。
ひょっとしてホントに下水道には何も居なくて、貴族用の接待目的なのかと少し訝しんでしまう。
「ん・・・?」
もういくつになるかわからない脇道に入った時、明らかに他の場所とは違う雰囲気になる。
道に動物のフンが落ちているし汚れている、それに伴う腐臭もしていてこの道だけ異様だった。
「ここ、あきらかに違和感あるわよね・・・?」
「そうですね、動物の活動した跡があります。フンに食べ残し、壁には爪痕も見えますね。」
ひょっとしたらここにネズミが溜まっているのだろうか?
お互い警戒しながらこの道の奥へと入っていくことにした。