第三話:『首都についたら』1
この世界には様々な国がある。
そんな事はあたり前のことかもしれないが、この世が魔王に滅ぼされかけた時には国は1つしかなかったという。
ここはそんな世界が終わりかけた時の都であり、勇者生誕の地でもある。
私達は門をくぐり中の都市を見る、アレイトスも中々の都会だったがやはり首都となると格が違う。
「おぉ、ここが噂の首都ですか・・・!」
「どう?すごい大都会でしょ!」
完璧に舗装されて地面の見えない道路、無機質な石造りの建物、それとは裏腹に活気のある人々、その初めて見る光景全てが私を圧倒する。
物珍しさにきょろきょろと周囲を見渡していたら彼女に声をかけられてはっと我に返る、まるで田舎者みたいで少し恥ずかしかった。
「とりあえず宿に行って荷物置いていきましょ、しばらく滞在予定だし、いい宿に案内するわね。」
「あまり宿泊にお金を使うのはどうなのでしょうか?今後のこともありますし少しは抑えたほうが・・・。」
「ふふん、夕霧はわかってないわね~、大きな都市だと人の出入りも激しいから必然的に犯罪者の数も増える、だから自衛のためにも宿屋はいいところ選ばないと、宿代以上の損しちゃうかもしれないのよ。」
「なるほど、それは確かに。」
どうやらアルマさんは両親と共に首都には何回も来ていたらしく、色んな事を知っていて人気のない裏道から安全な通り道までまるで猫のようにすらすらと通り抜ける。
そしてたどり着いた宿は私が思っていた安宿や木賃宿とは全然違う、清潔で綺麗でそれなりの高級感がある宿だった。
「良いところでしょ?観光客向けの宿だけど宿場街から外れてるから少し安めの穴場なの。」
「なるほど道理で、まるでここに住んでいるかのような感じでなんでも知ってますね。」
「そりゃあ何回も出入りしてたら覚えちゃうわよ~。」
窓を開けると暗い部屋に光が満ち部屋がより綺麗に映える、外の眺めに関しては観光ならばあまりよろしいとは言えないが、私達は観光目的ではないので景観はあまり気にしない。
首都に来たのは他でもない、冒険者ギルドに赴き登録を行うためなのだから。
「さてと、荷物置いたらお出かけしましょ!」
「えぇ、冒険者ギルドへ登録に行くのですよね?」
二人分の荷物を纏めて荷物置き場に置き、結界石を使い盗難防止用の結界を張る。
宿のサービスにしてはかなり良い物で、万が一泥棒が侵入してもこれなら貴重品には手出しできないので安全だ。
「そんなのはあとあと、せっかく首都に来たんだしまずは観光しなくちゃ!」
「えぇ!?そんなのでいいんですか?」
「いいのいいの、別に目的とかそういうのがあるわけじゃないんだし、楽しまなきゃっ!ほらいこいこ!」
彼女にぐいぐいと手を引かれて外に出る。
今までも当てのない旅だったが、こうして連れができると賑やかでいいなと、少しそう思った。
「ねぇねぇ、露店通りを通るし、せっかくだから何か見ていこうよ!」
「露店ですか、なにか良い物があればいいですね。目利きに期待してますよ。」
彼女に導かれるままついて行き露店の立ち並ぶ通りにでる。
どうやら観光客向けの露店商売らしく品揃えも様々で混沌としている、食品から装飾品、日用品から家具まで様々なものが売られている。
中には素人目に見てもぼったくりな品物もあるように見える、こういうのは観光の浮かれ気分で売れていくのだろうと思うが、本当にこの値段で売れているのかと少し訝しんでしまう。
「夕霧!これとかどう?すごく似合いそうじゃない?」
そう言っておもむろに彼女は装飾品を売っている露店の首飾りを見せる、正直あまり良い出来ではないが、店主が言うには著名な匠がこしらえた逸品らしい。
その逸品と同じものが店先にいっぱい並んでいるのはどうなのかと思うが、一応手作りらしく一つ一つ歪にできており、そういう意味では同じものは一つとして無い。
「アルマさんそれ気に入ったのですか?」
値札と見比べると値段不相応な気がする首飾りだ、目利きが出来てないのだろうか?
それとも何か思惑があってのことなのだろうか?アルマさんの意図がわからず頭の中で思考が堂々巡りを始める。
「まぁ少し安っぽいけど、デザインよくないかしら?身につけていても旅装にピッタリに見えるし!」
「確かに見た目に合うかと言われたらそう思いますが・・・。」
他の露店で売られているような土産物みたいな派手さは無く、私が身につけても違和感が無いという点においては良いものだと言えるが、やはり値段が高いのは・・・とわだかまりを覚えてしまう。
「夕霧さっきから値札ばかり見てるけど、値段が気になるの?」
「えぇ・・・まぁ、見合うだけの値段なのかと思ってしまいますね。」
「私は見合うだけの価値はあると思うかな、一つ一つ手作りだしこれもまた巡り合わせだと思うしね。」
そういうとアルマさんは2つ分の首飾りを購入し、一つを私に差し出す。
「はい、私達まだ組んで日が浅いけど、何かこう・・・チームの証みたいなのがあればいいなって思ったから、よかったら付けてくれると嬉しいかな。」
「えっと、いいんですか?結構高い品物なのに。」
「いいのいいの、これから私達がやっていくのに信頼は大事だし、その証明に同じものを身につけるのは効果的だって本にも書いてあったから!」
「ふふ、ありがとうございますね、これに見合うような信頼関係を出来たら私も嬉しいです。」
首飾りを受け取り早速首にかける、値段不相応な首飾りだが、共に旅をする仲間が信頼の証として送ってくれたもの、それだけでも値段分の価値はできたかなと思ってしまう。
今まで故郷を出て孤独な一人旅をしてきたが、誰かがいるだけでこんなにも楽しいものになるとは思いもよらなかった、彼女は次にどんなところを見せてくれるのだろう、そう知らずのうちに心が弾んでいた。
「そうだ!次はお城に行ってみない?」
そう言ってどこからでも見える大きな城を指差す。その巨大な石造りの立派な城はとても美しく、まさに国家を象徴する建造物だと認識させられる。
「いいですね、間近で見られるなら見てみたいです。」
「よっし、それじゃ行こっか!」
お城へ続く道は意外にも単純だった、観光客が多くいる大通りをまっすぐ進めばあっという間に城に到着する。
そして何より驚いたのは城門は開いており観光客が自由に出入りしていたということだ。
「私も初めて近くで見たけど、ここから見ると改めてすっごく大きいわね~。」
「そうですねぇ、私も旅でいくつもの城を見てきましたが、どれも立派で美しいものばかりでした。」
私達も他の観光客に連なってお城の中に入る、アルマさんから話を聞くとどうやらかなり昔にこの国は王政を止め、共和制に移行したようで王の居城は観光資源として活用されているらしい。
勇者縁の地だけあり城の内部も勇者にまつわる伝承や絵画など様々な代物が展示されている。
魔王討伐の勅命を受ける勇者の絵画、旅立つ勇者の像など、更には土産物屋には勇者の印など勇者づくしである。
「ここまでくると、世界を救った勇者のありがたみがあまり無いように思えますね。」
「そう?こんなに人々の役に立ててるんだしきっと勇者も天で喜んでるんじゃない?」
「そうだといいですけど、まさか死後商売に使われるだなんて思いもよらないでしょうね。」
観光客で賑わう地上階を後に、城を上へ上へ登る、さすがに上の方になると展示物も少なく観光客も少なくなっている。
お城のバルコニーまでたどり着くと首都を一望できとても良い眺めで思わず感動してしまう。
「おお、すごくいい眺めですね・・・!」
「でしょう?これを夕霧に見せたかったんだ~!」
世界は魔王により追い詰められ、人類滅亡の危機に瀕した時、光の勇者が王の元に訪れやがて世界を救う。
長く語り継がれるこの伝説も、この景色とともにその始まりを思えば感慨深い。
今こうして世界を眺めても、語り継がれてきたようなそういった悲惨な光景など想像もできない。
だが、それこそこの世界が平和なのだなという事をしみじみと実感する。
「そういえばそろそろお昼だよね、何か食べようよ。」
「そうですね、でも首飾りを買ってしまいましたから、すこし控えめにしないと駄目ですよ?」
「えー、せっかくの観光なのに~。」
勇者も最初は一人だったが、共に旅をする仲間が居たことも語られている。
伝説の勇者も今の私のような気持ちを感じたのだろうか、だとするならきっと勇者も苦しい旅ながらも幸せは感じていたのだろうな、と私は思ったのだった。