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第二話:『野営』2

「はぁ~、食べた食べたぁ~。」

「ふふ、お粗末さまでした。」


サラマンダーの串焼きはいつ食べても美味しい、長期保存に向いていないのが残念だが水辺には必ずいる生き物なのでいつでも捕れて食べられるので問題はない。

指南書には冒険者の食事は質素であまり良い食事は期待できないとあったけど、こういうのならとても大歓迎だ。


「それでは、私は火の番をしますのでアルマさんはお先に寝ていいですよ。」

「いつもありがたいけど、夕霧はいつ寝てるの?私より早起きだし少し心配だなぁ。」


夕霧はいつもちゃんと寝ていると言っているが、少なくとも私より後に寝て私より先に起きている、そんな短くてもいつも平気そうに歩いているのでいつか倒れないか心配になる。

私はハンモックに寝転がりながら夕霧に聞いてみた。


「大丈夫ですよ、結構長い時間睡眠時間は確保してますから。」

「とは言っても、夕霧がどれくらい寝てるか知らないし気になるし・・・よし、私も夕霧が寝るまで起きてることにするわっ!」


ハンモックを揺らしながら得意げな顔をして夕霧に言う、こう見えても本を読んだり夜更しは結構していたのだ、夕霧が寝るところくらい見るのは余裕だろう。


「ぷっ、くふふ、あははは、やっぱりアルマさんは変わってますね。」

「な、なによぉ、まだ知り合ってから少ししか経ってないんだし、色々知りたいこととかあるじゃない?」

「いや、失礼失礼・・・、じゃあ、私の何を知りたいですか?」


まだアレイトスで知り合ってここまで来るのに数日しか経っていない、色々話し合いはしたがまだお互いに知らないことばかりだ。

首を傾げ、夕霧が振り返り微笑みながら視線を向ける、その優しい瞳は見てると少しドキッとしてしまいそうになる。


「うーん、そうねぇ・・・じゃあ旅を始めた理由とか?」

「私が旅を始めた理由ですか?もうかなり前のことですし、どうだったでしょうか・・・。」

「絶対なにかあるはずよ、私だって冒険したいって思ったから始めたんだしっ。」


夕霧は思い出そうとうんうん唸り始める、その様子を見てると改めて彼女は本当に長い旅をしてここまで来たんだなと再認識する。


「うーん、やっぱり思い出せないですねぇ、覚えてないということはどうでもいい理由だったのかもしれませんね。」

「じゃあなんで夕霧は旅に出たんだろう?なんとなくで住んでいる家を飛び出したりはしないわよね?」


何かがあって故郷を飛び出したんだろうけど、その肝心な何かを忘れてるのは実は夕霧は相当なうっかりさんなのかもしれない。


「そうですねぇ、じゃあアルマさんと同じ、旅をしたくなったからって事にしておいてください。」

「あっ、それずるい!」


なんだかはぐらかされた気がするが、本当に本人が思い出せないのかもしれないし、深く聞きすぎるのはやめよう。

ハンモックを揺らしながら空を仰ぎ見る、すでに陽は完全に落ちて満点の星空が天いっぱいに広がっていた。


「じゃあ、アルマさんはどうして冒険に出たいと思ったのですか?」

「私?私はやっぱりいろんな冒険の話を見聞きしたからかな、本とか歌とかで。」


私はかつて質屋に流れてきた高名な冒険者が書いたとされる本、その中で繰り広げられる数々の冒険を見て、都市の向こう側にも世界があることを知った。

ある時は父さんが屋敷に迎賓するときに呼んだ吟遊詩人の歌でかつて魔王と戦った勇者達の冒険譚を聞いて世界の広さを知った。

私はそこからいつもこの世界全体を想像するようになった。交易都市に流れてくる異国の品、人、様々なもので世界との繋がりを感じ想像を膨らませる。


そしていつの間にやら自らの目で世界を見てみたいと思いはじめた、それがこの冒険を志した理由だった。

父さんと母さんと一緒に平和に暮らす道もあったかもしれない、でも世界をこの目見たい、その思いに嘘はつけなかった。


「でも、よく送り出してもらえましたね、アルマさんのお父さんのあの嘆きっぷりはすごかったですよ?」

「まぁそういう条件での約束だったからね、父さんはまぁ・・・結構過保護なところがあるから・・・。」


夕霧を信頼できる仲間として迎えた時、母さんは大喜びだったが逆に父さんの気の落ち込みようはすごかった、今思い出してもあれは喜劇なのか悲劇なのかわからないくらいだ。

結局最後は母の説得もあって無事に旅立つことが出来たのだが。


「まぁ両親のことは多少気がかりだけどね。父さん、私が居なくなって発狂してないかとか。」

「ふふ、なら今からでも引き返しますか?」

「まさか、まだ冒険は始まってすらいないんだかし戻るつもりはないわよっ。」


やっとの思いで街を飛び出して旅に出られたのに、ここで引き返したら何の意味もない、私は私の夢のために飛び出してきたのだから戻るつもりは毛頭ない、これは変わらない確固たる意志だ。


「まったく、夕霧は意地悪なこと聞くのね。」

「すいません、冒険することが夢というのも変わってると思いましてつい。普通は遺跡の財宝を探すとか、強い魔物を倒して名声を得るとか、そういうものが多いですからね。」

「他人は他人、私は私よ。富も名声も両親が持ってたから興味ないし、私が欲しいのはどこかの誰かが毎日目にする日常、その景色を我が目に収めること!」


ハンモックから身体を起こし、両手を広げ高らかに宣言する。気分が高まってついついやってしまったが少しして恥ずかくなってきた。


「あははは、やっぱり面白い人ですねアルマさんは。旅をご一緒しませんかと誘ってよかったと思いますね、とても賑やかな旅になりそうです。」

「な、なによ~っ、そんな事言われたら恥ずかし・・・わひゃあ!?」


動揺してバランスを崩してしまいハンモックから転落してしまった、主のいなくなったハンモックは落ちた私を笑うかのようにゆらゆらと揺れていた。


「大丈夫ですか?まったく、アルマさんはおっちょこちょいですね。」

「いたた、そこまで高さなかったし平気・・・」


気を取り直して立ち上がり、ハンモックには戻らず夕霧の隣に座る。ここなら転げ落ちることもなくなるし話も聞きやすい。

夕霧は相変わらず燃え尽きた灰を突いて崩したり火の番をしている、きっと彼女にとっては今までずっとやって来たことなのだろう、慣れた手付きでやっているのに少し感動してしまう。


「夕霧って私と違ってドジはしなさそうよね、なんだか夕霧ってどんな事も完璧にこなしそうだし、どんな修羅場も軽くいなしそうだし。」

「そうですか?私だって旅の最中で命の危険は何度も有りましたよ?」

「本当?今まで見てきてそうは見えないけどなぁ。」

「じゃあ、例えばですね、あれは確か___」


そして夕霧は様々な旅の話を語り始める、野盗に襲われたこと、街でスリに出会って財布を盗まれたこと、魔物に襲われて命からがら逃げ出したこと、数々の危機の話を聞いて私は一喜一憂した。

夕霧の冒険譚は本で読むものより刺激的で面白かった、彼女が語るお話は冒険者は戦うことだけじゃないということを教えてくれる。有名な本は戦いばかりでまるで戦場の兵士のようでこんなことは教えてくれなかった。


「___それでですね、あの時は・・・おや。」


気がつくとアルマは夕霧にもたれかかり寝ていた、とても穏やかな寝息を立てて幸せそうな顔をしている、どんな夢を見ているのだろうか。


「ふふ、本当に破天荒な人ですねぇ、アルマさんは。」


夜の森林はよく冷える、自分の羽織を脱いで起こさないようにそっとかけてあげ、火の番を続ける。

まだ夜は続く、空には満天の星空と月光が燦々と降り注いでいた。






朝、鳥の鳴き声で目を覚ます。


どうやら寝てしまったようだ、もう陽が登ってすっかり空気も暖かくなっている。

夕霧の寝るところを見ようと思ってたのに失敗してしまった、本当に寝てるかどうか確認したかったのだがどうやら先に寝てしまったようで悔しい。


夕霧の羽織がいつの間にか体にかかってとても暖かかった、東方の衣類はとてもいい作りをしていると感動してしまう。

これがなくて夕霧は寒がってないだろうか?とりあえずもう起きているであろう夕霧を探そう、どこにいるのだろうか?

きょろきょろと周囲を見渡し、隣を見ると夕霧が寝ている、さて、夕霧に負けないように起きて片付けでも・・・って寝てる!?


いつも私より早起きで遅寝の夕霧が目の前で寝ている、これは初めてのことだ、びっくりしてしまったが昨夜は私のせいで眠れなかったのだろうか。


「ゆ、夕霧?もう朝よ・・・?」


寝ているところ悪いがそろそろ起こさないと、そう思って触れようとした瞬間___


「わっ!」

「うわわわっ!?!?」


びっくりして大きくのけぞって倒れてしまった、倒れた先の地面はとても冷たい。


「あはは、おはようございますアルマさん、寝床は結局使わずじまいでしたね。」

「び、びっくりしたぁ、起きてるなら起こしてよ~!もう太陽出てるじゃない。」

「ふふふ、すいません、アルマさんが気持ちよさそうに寝てたもので。」

「むむむ・・・」


夕霧もこんなお茶目なことするんだなぁ、とても真面目そうだという印象が一気に変わってしまう、なんだかもっと親しくなれそうな、そんな気がした。


「さて、では片付けをして出発しましょうか。」

「えぇ、そうねっ!今日には首都に到着できるといいけど。」


羽織を返し、ハンモックを片付け荷物をまとめて野営地を出発する。

木漏れ日から漏れる陽射しが暖かくどこまでも歩いていけそうな気がした。



さあ行こう、首都はもうすぐそこだ。

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